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第29話「そして始まる。最後の攻略戦。…サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へ」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「おいおい、予定と違うじゃないか」


 天羽会長が呆れたように口を開いた。

 早朝。まだ空に夜の名残が残っている時間。空気は冷たく、肌を切るような風が吹いている。ボクたちはサン・ジョルジョ教会の前に立って、周囲を見渡している。


 そして、その光景に唖然としていた。


 ギャァァッ!

 グワッ、グワッ!


 ヴィクトリアのあちこちからモンスターの鳴き声が聞こえてくる。それもそのはずだ。今やこの国は、大量のモンスターによって囲まれていた。

 街にはゴブリンやワイルドウルフ、海には半魚人やクラーケン。そして、空には巨大なドラゴンが飛翔している。


「……ねぇ、会長。聞きたいことがあるんだけど?」


「ん? なんだ、ユキ?」


「モンスターの大群がここにくるまで、あと数日の猶予があるんじゃなかったっけ?」


「あぁ、予定ではな。だから私も驚いている」


 ぼりぼりと頭をかきながら、教会の陸地に上がってこようとする半魚人を蹴り飛ばす。


「正直、これは想定外だ。こんなにも早くモンスターたちが来るなんてな」


「……で、どうするのさ?」


 ミクが問う。


「こいつらを無視して、このサン・ジョルジョ教会に入ってもいいの?」


「いや、それは得策ではない。このままだと、教会内にもモンスターの大群が雪崩れ込んでくるぞ。この数だ。あっという間に押しつぶされてしまうぞ」


「じゃあ、どうするのさ?」


 ミクの言葉に、会長は少し考えてから言った。


「やはり、誰かが残って、こいつらの相手をするしかないだろう。……問題は、誰が残るかということだが」


 会長は黙って、メンバーを見渡す。

『十人委員会』はひとりひとりが一騎当千の猛者である。ただのモンスターに後れを取るものなどいない。


 だが、それぞれに得意分野が違う。

 ゲンジ先輩や誠士郎先輩みたいに一対一が得意な人もいれば、ミクやコトリのように大多数との戦闘が得意な人もいる。そのなかでも、これだけの大群を相手に、かつ前線を維持できる圧倒的な火力を持つ人は―


「はぁ。やっぱり、私しかいないよな」


 会長は諦めたように溜息をついた。

 天羽会長の固有スキル『私物化した軍隊プライベートアーミー』は、たった一人で、ひとつの軍隊を指揮するようなもの。完全なる対軍スキル。このような魔物の群れを相手にするには、うってつけのスキルだった。


「……すみません、会長」


「なぁに、謝る必要はないさ」


 そう言って、体を大きく伸ばした。迷彩柄のジャンバーが、朝日に彩られていく。


「それにな。この先の戦いは室内戦になりそうだし。私の最大火力を披露するタイミングはないだろう。だったら、せめてこいつらで羽目を外させてもらうさ」


 会長は腰につけたトランシーバーを手に取って、『私物化した軍隊プライベートアーミー』を発動。様々な指示を出していく。

 そして、命令を言い終わると、くるりとこちらを向いた。


「まぁ、なんだ。しっかり尻を押さえておいてやるから、お前らは真っ直ぐ前だけ見ていればいいさ。ゴブリン一匹たりとも、ここを通したりはしないから」


 ガサッ、と肩に背負ったバズーカ砲を構えてみせる。そして、ボクらに向けて、ニカッと笑った。


「なぁ、今。ちょっと格好良くなかったか?」


「ははっ、自分で言いますかー?」


「むー、なんだよ。そのおざなりな答えは」


 むすっ、と不機嫌な会長を見て、メンバーたちを一斉に笑った。

 雲の上にある青空のような笑い声だった。


「……じゃあ、なんか場も和んだことだし、いつもの号令をお願いしようかな」


「うん」


 会長に促されて、ボクはしっかりと答えた。

 大規模戦闘の前や、強敵と立ち向かうとき。ボクらはいつもこうやって、号令を掛け合っていた。


 でも、それもこれで最後だ。

 最後の決戦に赴くために。


「……」


 ボクはもう一度、メンバーの顔を見ていった。


 天羽会長。

 ゲンジ先輩。

 誠士郎先輩。

 有栖先輩。

 碓氷涼太君。

 コトリ。

 ミク。

 そして、ボク。


 誰ひとりが欠けても、この先の戦いは厳しいものになる。だからこそ、ボクらは結束しなくてはいけない。

 勝つために。

 アーニャが作ってくれた夢のような時間を、終わらせるために。


「……」


 ボクは口を開くが、うまく言葉にならない。

 話す内容が思いつかないんじゃない。何も話す必要がないんじゃないかと、そう思うのだ。だって、ボクたちは最初から。たったひとつの目的のために、ここに立っているんだから。


「……勝とう」


 ボクは静かに言った。


「この先に何があるかはわからない。だけど、きっとアーニャは抵抗してくるはずだ。そんな彼女を、……一発、思いっきり殴り飛ばしてやる。現実から逃げているその頭を、力づくにでも覚まさせてやる。……だから」


 ボクは拳を作って、皆へと突き出した。


「勝とう」


 たった一つだけ出された拳。

 だけど、瞬く間にメンバー全員の拳と付き合わされていく。

 ……言葉はなかった。

 ……必要なかった。そんなこと彼らの顔を見れば、一目瞭然だった。


「じゃあ、行ってこい」


 最初に動いたのは、天羽会長だった。

 サンジョルジョ大聖堂の前に立って、バズーカ砲を携えて立ちはだかる。その姿はまさに、守護神と呼ぶに相応しかった。


「……行こう」

「……えぇ」


 ひとり。

 また、ひとり。

 教会の中へと入っていく。

 最後にボクが向かおうとすると、会長が背中越しに声を掛けてきた。


「なぁ、ユキ。ひとつお願いをしてもいいか?」


「何ですか?」


「……その背負っている重そうなバック。中に入っているのは、対戦車ライフルの『魔銃・ヘル』だな」


「はい、そうです」


 ボクは背中のバックに手を当てながら答える。


「そいつを、貸してはくれないか?」


「え?」


 意外な言葉だった。

 会長がボクの銃を使うことなんて、今まで一度もなかった。


「……いいですよ。でも、この銃は扱いの難しい問題児ですよ?」


「構わない。むしろ、その一撃が欲しんだ。上空のドラゴンを一発で撃ち抜く、その銃の性能がな」


 それ以上は、何も言わなかった。

 ボクも何も言わない。黙ってバックを下ろして、『魔銃・ヘル』を手早く組み立てていく。


「予備の銃弾は、バックの中に入っていますよ」


「あぁ、助かる」


「……えーと、それにですね」


 どうしようかと、ちょっとだけ悩んだけど、思い切って会長に託すことにした。


「この銃も使ってください。姉さんが使っていたものです」


「優奈が?」


 驚いたように、こちらを振り向く。


「はい。ボクは持っていても、使いこなせるわけではありませんから。会長に使ってもらいたいんです」


「そうか」


 会長はこっちに歩いてきて『魔銃・ヘル』と、姉さんの使っていた2つの銃を手に取る。セミオート式のスナイパーライフルと地獄の番犬のようなガトリング銃だ。


「……重いな」


 目を細めながら口を開く。

 対戦車ライフルを抱えて立つ天羽会長の姿は、本当に恰好良かった。


「じゃ、会長。……またあとで」


「あぁ」


 返事があったことを確認して、ボクは踵を返す。

 そのまま教会の扉に手を当てて、ゆっくりと開けていく。


 ……背中は、任せました。

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[一言] 蹂躙が始まる予感
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