第23話「コトリと肉じゃが③」
そして、こちらが出ていくのを待たず、向こうから玄関の扉を開けた。
「姉さま! こんばんわ!」
「……」
勢いよく家のなかに入ってきたのは、有栖と碓氷君だ。
いつの間にか雪が降っていたのか、有栖が帽子を払いながら満面の笑みを浮かべる。
「姉さま、一緒に晩御飯を食べましょう! お土産もあるのですよ!」
彼女が差し出したのは、大きな紙の箱だった。
中を見てみると、ケーキやらドーナツやら、とにかく甘いものが詰め込まれていた。幼い体の彼女らしい。
「おい、何だこりゃ? 全部、甘いものじゃないか? こんなのばっかり食べてたら太るぞ?」
「ふふ、問題ありませんわ。この私の体は成長期。ちょっとくらい食べ過ぎたって、余分なお肉になんかなりませんわ」
「あー、そうかい」
ミクは呆れたように答えると、再び鍋のなかに視線を落とす。
「それでは、お邪魔しますわ。涼太も来なさい」
「……」
有栖と碓氷君の手を引っ張って、リビングのソファへと向かう。
その途中のことだった。
それまで黙っていた彼女が口を開く。
「……ねぇ、肉じゃが食べない?」
ボクたちは、誰も目を合わせなかった。
静かに沈黙を保ち、時間が刻一刻と過ぎるを待っている。……トイレから聞こえてくる、有栖の悲鳴を聞きながら。
「おい、ユキ。なんで教えてやらなかったんだよ」
「それはミクも同じでしょ」
「……ずずっ。あー、茶が美味いな」
「……ずずっ。えぇ、お茶がおいしいです」
宙ぶらりんの会話が、静まり返った部屋に響く。
カタンカタンと時計の針の音が異様に大きく聞こえてきて、この部屋の温度が急に寒くなったような気分になる。
ボクはじっと手元を見て、ミクは茫然と天井を見つめて、碓氷君はトイレの前で放心状態になっていて、ゲンジ先輩と誠士郎先輩は死んだ魚のような目で茶を啜る。
そんな中、最後にコトリはこう言った。
「肉じゃが。あと1人分、残っているね」
ビクッ、と体が震えた。
テーブルの上には、あの肉じゃがが威風堂々と鎮座している。
恐怖を感じたのはボクだけじゃない。ミクは落ち着かないように前髪に触れて、碓氷君は黙ってこの部屋から逃げ出そうとして、ゲンジ先輩と誠士郎先輩は考えることをやめた。
「……最後の犠牲者を呼ぼう」
誰かが言った。
そして、その人物は緊急連絡用の魔法石通信を使って、とある人物に連絡をとることにした。
「もしもし、会長? よかったら一緒にご飯でも食べませんか?」
その凶行を止めようとする人はいなかった。




