第26話「あんたは、このアーニャ・ヴィクトリアが、じきじきにぶっ飛ばしてやる!」
「…ユキ。その人と、何をしてるの?」
アーニャが激しく動揺している。
彼女からして見れば、自分の家のバスルームで、見知らぬ狼男が、ボクを襲っているようにも見えるわけで。
「え、えーと…」
な、何か言い訳をしないと。
だけど、ここはアーニャの家。そのバスルームに侵入したジンのことを、どうやって説明したらいいのか。
そんなことを迷っていると、先にアーニャが口を開いた。
「…わかったわ。あなた、変態の強盗でしょう」
アーニャは落ち着いているようで、凄みの溢れる声で言った。
怒りで髪を逆立たせながら、肩をぷるぷると震わせる。
「…嫁入り前のユキに手を出そうなんて、いい度胸をしているじゃない。ユキの初夜はね、私が貰うのよ! もう法律で決まっているの! あんたみたいな変態になんか、やるものですか!」
ザンッ。ザンッ。
アーニャが一歩ずつ、ゆっくりとジンに近寄っていく。ドドドッ、という効果音が今にも聞こえてきそうだった。
「ふんっ、なるほど。状況はよくわからんが、その気迫。気に入ったぞ」
ジンが、ニヤッと笑った。
偉そうに腕を組んで、アーニャと向かい合う。
そのアーニャは、ジンのことを睨みながら、バキバキッを拳を鳴らしていく。
「…あんたは、このアーニャ・マリ・ドージェ・ヴィクトリアが、じきじきにぶっ飛ばしてやる!」
「ほぉ、良い度胸だな。やってみるがいい、このジンに対してな!」
二人の距離が近づき、お互いが睨み合いをきかせる。
そして、視線が火花を散らせた!
「死ねーーーっ、この変態がぁー!」
「ハーハッハッハ! 無駄無駄無駄無駄ぁーーッ!」
ガガガガガガッ!
アーニャの高速の拳が、ジンに向けて放たれる。だが、そんな彼女の拳は、ジンによって弾き返されていく。
「どうした、どうした! 貧弱貧弱ッッーーー!」
そして、全ての拳をさばくと、今度はジンが高速の拳を繰り出す。
「こ、このぉ!」
アーニャがその突きを防ぐ。
そして、そのまま体勢を崩すことなく、更に拳を加速させた。
「その余裕ぶった顔。ボコボコにしてやんよ!」
「ふんっ。拳の速さ比べか。…話にならんなっ!」
ジンが両手をゆらりと構える。
そして、正確に、精密に。アーニャの拳を全て弾いていく。
「ハハッ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーッ」
ガガガガガガガッ!
ジンとアーニャの拳が、更に激しくぶつかり合う。
「ハハハッ! どうした、そんなものか!? 無駄なんだよッ、無駄無駄ッ! お前に足りないのは、気合い、根性、努力、友情、勝利、勤勉さ、誠実さ、血の滲むような反骨心。そして何より、…速さが足りねぇ!」
「このっ! 絶対に、あんたなんかに、ユキをやらないんだから!」
苛烈を極めていくアーニャとジンの戦い。
てか、ジンの奴。絶対に楽しんでいるでしょう。アーニャも頭に血が昇って、正常な判断ができていないようだし。
「はぁぁ〜。やっぱり、ボクが止めないといけないのかな?」
そんな二人を見て、ボクは重いため息をついた。




