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第18話「ここからは鬼ごっこだ。 捕まれば殺されて、この世界から強制退去させられる」


 …そうか。快司は死んでなかったのか。

 心のどこかで安堵している自分がいた。嫌いだとか言っておきながら、俺も奴のことを心配していたんだな、と改めて思った。


「姫さん。もう終わりだぜ」


 眼前にいるアーニャのことを見つめる。

 俺の目には、力なく項垂れているようにも見えた。


「元の世界に帰る方法がわかった以上、こんな場所にいる理由はねぇ。姫さんには悪いが、ユキたちを元の世界に帰らせてもらうぜ」


「…なんで?」


 アーニャが小さな声で呟く。


「…なんで、あっちの世界に帰ろうとするの? …こっちのほうが、ずっと楽しいのに」


「そんなこと関係ねぇんだよ」


 俺は答える。


「どっちが楽しいとか辛いとか、そんなの関係ねぇ。ただ単純に、こっちの世界は偽物で、元の世界が本物だという話だ」


「…そんなの、認めない。どうして、この世界が偽物だって言えるの? こっちの世界だって、本気で悩んで、苦しんで、幸せになるために精一杯がんばってるじゃない。それが、…全て偽物だって言うの?」


「あぁ、その通りだ」


 俺は断言する。


「こんな誰かさんの都合で作られた世界で生きてもな、結局はそいつの独りよがりだ。元の世界に戻っても、そんなこと誰も認めない。現実は甘くはないんだ」


「…別に、誰かに認められなくても―」


「だったら、すぐにでもユキたちを解放しな。あいつらの未来まで奪うことはやめろ。独りよがりの夢は、姫さんだけで見ればいいさ」


 俺は静かに言い放つ。

 アーニャという少女は、まだ理解できていないようだった。自分勝手の行動が、仲間たちの未来を奪い続けていることを。


「…嫌だ」


 ぽつり、と彼女が呟く。


「…嫌だよ。ユキたちと離れ離れになるなんて。せっかく仲良くなったのに、そんなの耐えられない」


「諦めろ。姫さんがこの世界にいる限り、元の世界に帰ることは―」


「あっちの世界なんて、もっと嫌っ!」


 アーニャが叫んだ。

 感情がむき出しになった、悲痛な声だった。


「嫌よ! 絶対に嫌っ! あっちの世界なんて、辛いことだけじゃない! 学校に行けばいじめられるし、お父さんはすぐに怒るし! 大好きだったお母さんも、私を置いて死んじゃった。もう、私の味方なんて一人もいないの。そんな場所に帰ったって、辛いだけじゃない!」


「…な、何を言って―」


「そうよ! ここだけが私の生きていける場所だった! おじいちゃんだって許してくれた! 1日中ゲームをしていても、おじいちゃんだけは怒らなかった。…それなのに《カナル・グランデ》のサポートを年内に打ち切るなんて聞いてないよ。…嘘つき。…おじいちゃんの嘘つき!」


「アーニャ、…お前は」


 彼女の支離滅裂な悲鳴を聞きながら、何かひっかかるものを感じていた。

 そもそも、この世界の支配者ゲームマスターを名乗る少女は。

 …どこから来たんだ?


「はぁはぁ。…私はただ幸せになりたいだけ。それを邪魔するなら、誰だって許さない」


 その声に強い意志を感じた。

 俺は軽く身構えながら、彼女のことを見る。


「へぇ。じゃあ、どうする気だ?」


「…決まってるじゃない。ユキたちに真実を伝える前に、あなたを排除する」


「できると思っているのか?」


「えぇ、簡単よ。あなたの固有スキル『銀狼モード』は、もう略奪した。ただの人狼族が、世界の支配者ゲームマスターである私に勝てるわけがない」


「ははっ、なるほど。じゃあ―」


 俺は軽く鼻で笑いながら、じりっと腰を落とした。

 自分がいる場所は、ヴィクトリア本島の東側。ユキたちいる南側まで、それほど遠くなない。


「…やれるものなら、やってみな」


 俺は呟きながら、その場から駆け出した。

 ここからは鬼ごっこだ。

 捕まれば殺されて、この世界から強制退去させられる。

 死ぬことはないが、仲間たちを救うことはできない。

 この閉ざされた世界で一生を終えることになるかもしれない。


 …それだけは、なんとしても回避しないと。

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[一言] 帰る方法が見つかったぜ
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