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第24話「追放された島へ」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


『追放された島』というものがある。


 ヴィクトリアの本島から少し離れたところにある、弓状の離島のことだ。


 貧困層が住むスラム街となっていて、その側には刑務所が建っている。本島からそれほど離れておらず、ゴンドラでしか行き来できないため、受刑者の収容にはうってつけの忘れられた島だ。


「…はぁ、しあわせ」


 湯船の中で両手を伸ばす。

 心地よい温度のお湯が、体全体をほぐしていくようだ。


 元の世界で一人暮らしをしていた時は、シャワーしか使っていなかったけど、お風呂がこんなに気持ちいいものだったなんて知らなかった。これも、女の子になったせいかな?


「湯加減はどう、ユキ?」


「うん。ちょうどいいよ」


 扉越しにアーニャに返事をする。

 ジンに助けられたあと、行くところをなくしたボクはアーニャに匿ってもらうことになった。


 アーニャの家は、追放された島の集落にあった。ヒビの入ったレンガの壁、薄い木の板を無理やり繋げただけの壁、穴だらけの天井。そこに多くの人々が、肩身を寄せ合って暮らしている。


 だが、アーニャの部屋だけは違った。

 その集落の地下。まるで隠されるように作られた彼女の部屋は、ヴィクトリアの貴族と同じような装飾が施されていた。


 まるで、お姫様のための部屋だった。


 このお風呂だってそうだ。

 ボクが両足を伸ばしても余裕のあるバスタブ。白の陶磁でできていて、そこかしこに金の細工で翼のある獅子が描かれている。これは『ヴィクトリア王家』の紋章でもある。これだけで彼女が何者なのか、想像することは難しくない。


「…それにしても、あの時の感覚はなんだったのだろう?」


 湯に体をくぐらせながら、目を閉じる。

 真っ暗の闇にいた少女。


 彼女に触れた瞬間に、何かが流れ込んできた。

 そして、わずかな間だけど、自分が自分でないような感覚に包まれた。


 オンラインゲームの時のスキルを使いこなし、一瞬にして警備隊を蹴散らしてしまった。

 あれは本当に自分がしたことなのか? そもそも、あの暗闇の少女は何者なのだろうか?


「…はぁ」


 体の力を抜き、お湯に体を委ねる。

 あの少女に触れてから、自分の体の違和感がどんどん小さくなっていた。お風呂に入っていても、鏡で自分の姿を見ても、変にドキドキすることもない。


 女の子の体でいることが、当たり前のように感じている。


 少しずつ、心まで女の子になっていく。

 そんな予感を感じながら、ぷかぷかと体を浮かして天井を眺めていた。


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