第24話「追放された島へ」
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『追放された島』というものがある。
ヴィクトリアの本島から少し離れたところにある、弓状の離島のことだ。
貧困層が住むスラム街となっていて、その側には刑務所が建っている。本島からそれほど離れておらず、ゴンドラでしか行き来できないため、受刑者の収容にはうってつけの忘れられた島だ。
「…はぁ、しあわせ」
湯船の中で両手を伸ばす。
心地よい温度のお湯が、体全体をほぐしていくようだ。
元の世界で一人暮らしをしていた時は、シャワーしか使っていなかったけど、お風呂がこんなに気持ちいいものだったなんて知らなかった。これも、女の子になったせいかな?
「湯加減はどう、ユキ?」
「うん。ちょうどいいよ」
扉越しにアーニャに返事をする。
ジンに助けられたあと、行くところをなくしたボクはアーニャに匿ってもらうことになった。
アーニャの家は、追放された島の集落にあった。ヒビの入ったレンガの壁、薄い木の板を無理やり繋げただけの壁、穴だらけの天井。そこに多くの人々が、肩身を寄せ合って暮らしている。
だが、アーニャの部屋だけは違った。
その集落の地下。まるで隠されるように作られた彼女の部屋は、ヴィクトリアの貴族と同じような装飾が施されていた。
まるで、お姫様のための部屋だった。
このお風呂だってそうだ。
ボクが両足を伸ばしても余裕のあるバスタブ。白の陶磁でできていて、そこかしこに金の細工で翼のある獅子が描かれている。これは『ヴィクトリア王家』の紋章でもある。これだけで彼女が何者なのか、想像することは難しくない。
「…それにしても、あの時の感覚はなんだったのだろう?」
湯に体をくぐらせながら、目を閉じる。
真っ暗の闇にいた少女。
彼女に触れた瞬間に、何かが流れ込んできた。
そして、わずかな間だけど、自分が自分でないような感覚に包まれた。
オンラインゲームの時のスキルを使いこなし、一瞬にして警備隊を蹴散らしてしまった。
あれは本当に自分がしたことなのか? そもそも、あの暗闇の少女は何者なのだろうか?
「…はぁ」
体の力を抜き、お湯に体を委ねる。
あの少女に触れてから、自分の体の違和感がどんどん小さくなっていた。お風呂に入っていても、鏡で自分の姿を見ても、変にドキドキすることもない。
女の子の体でいることが、当たり前のように感じている。
少しずつ、心まで女の子になっていく。
そんな予感を感じながら、ぷかぷかと体を浮かして天井を眺めていた。




