第23話「ここは俺にまかせて、お前は先に行け! …ははっ、男だったら一度は言ってみたいよな!」
「よし、ユキ! ここは俺にまかせて、お前は先に行け! …ははっ、男だったら一度は言ってみたいよな!」
ジンが振り向きながら、楽しそうに親指を立てる。ボクもつられて、少しだけ笑ってしまった。
そんなボクを見て、彼は口元を緩める。
そして、その視線を。
自身の敵へと向けた。
「おうおうおう! 俺のダチに手を出しやがって、お前らいい度胸をしてるじゃねぇか!」
ジンは周囲にいる警備隊に向けて、威嚇するように唸り声を上げる
「俺の名前は、陣ノ内暁人! 最強の戦闘系ギルド『十人委員会』の『No.4』。銀狼族のジンだ! 俺のダチに手を出したってことは、お前ら全員。俺の敵ってことだな!」
銀色の毛が逆立つ。
まるで刃物のように尖ったたてがみが、太陽にギラッと反射する。
「いくぜっ!」
ダンッ!
銀色の狼男が踏み込み、地面を駆け出した。
それと同時に、周囲にいた数十人の警備隊たちが宙を舞う。
…一瞬の出来事だった。
「ぐぁぁ!」
「何だ! 何が起きたんだ!」
「早すぎてわかりません!」
警備隊たちは悲鳴を上げながら、地面に落ちていく。
そして最後に。石畳に倒れているオーガ族に向かって爪を突き立てた。
「うおらっ!」
「ふんっ!」
オーガ族の男は『ベルセルク』を持ち上げて、ジンの攻撃を弾く。
「ははっ。やるじゃねぇか!」
巨大な剣を軽々と振りかざすと、真横に薙ぎ払う。
それに反応して、ジンは素早く後ろに跳ぶ。四本の足で地面に着地して、その鋭い爪を石畳に刻み込む。その姿は、狼男そのものだった。
「ユキ、早くいけ!」
「で、でも…」
「何を躊躇してるんだよ! 俺の見せ場を台無しにする気か?」
そう言って、ボクに向かってニヤリと笑う。
そうだ。
今は、逃げないと。
「…ユキ。立てる?」
「…うん」
ボクはアーニャの手を借りて立ち上がる。
「…とりあえず、ボクの部屋に行こう。騒動が収まるまで身を隠しておこう」
「…そうだね」
ボクはアーニャに手を引かれて、逃げるようにサンマルコ広場から出て行った。
最後にチラッと広場のほうを見てみると、狼男のジンがオーガ族の男に向かって、猛攻を仕掛けているところだった。
そのまま誰にも見つからないように、ボクたちは広場の近くにあるボクの部屋を目指す。
そして、目の前の光景に言葉を失った。
ボクの部屋の前には。何人もの警備隊が立っていて、部屋の中を物色していたのだ。
クローゼットの中の衣類は乱暴に放り投げられて、無残に踏みつけられている。さきほどまで着ていたメイド服も、ビリビリに引き裂かれてしまっている。金貨や銃の類だけは、警備隊の男たちがニヤニヤと笑いながら、懐に入れて持ち去っていく。
これじゃ、まるで強盗じゃないか。
「…そんな」
目の前の光景が信じられなくて、ボクは呆然と立ち尽くした。




