表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/358

第25話「…それはまさに。近代兵器がファンタジー世界に喧嘩を売った瞬間だった」

「うわー。本当に凄い量じゃない」


 大海原に漕ぎ出したヴィクトリア海軍の帆船。そのたった一隻の船の先端で、ミクが呆れたように呟いた。


「これを全部やるの? ちょっと、面倒くさいなー」


「…無駄口を叩かないことです。それとも、姉さまの作戦にケチをつけるのですか?」


 ミクの後ろに立っている有栖が、不機嫌そうな声をかける。


「あなたのようなケダモノ女には、姉さまの崇高な作戦が理解できないのですね? …はぁ、馬鹿は罪ですね」


「あ? 何か言ったか、このガキが?」


 ギロリ、と幼女に向けてミクがメンチを切る。

 まるで本職のような視線に、有栖は一瞬で恐怖に体を震わせた。そして、碓氷涼太の後ろへと慌てて逃げ込むのだった。


「…」


 碓氷涼太は何も言わない。

 ミクと有栖のやり取りを見ても、目の前に広がす凄まじい大船団を見ても、顔色ひとつ変えることなかった。


 ミクと有栖。そして、碓氷を乗せた帆船の前には。

 数千を越える軍艦が相対していた。

 それはまさに、艦隊の壁。

 見渡す限り船と、船と船。

 双眼鏡で甲板を見ると、大勢の魔物が緩みきった表情で舌なめずりをしている。ミクたちの船も、海面に浮かぶ藻屑程度にしか見えていないだろう。


 故に、彼らは予想もしていないだろう。

 この数分後には、この大船団が本当に海の藻屑に変わってしまうことに。


「…うしっ、やるか」


 ミクは羽織っていた着物を腰に結んで、気合を入れる。

 両手には大量の『式紙』。

 低級の式紙をこれでもかというほど握り締めている。


「じゃ、先陣は任せたぜ。碓氷」


「…」


 その隣では、無言のまま返答をしない『高位魔術師』の少年。

 手にした巨大な魔導杖からは、絶えず氷の結晶が華を咲かせていた―




「おーおー、すげぇ量だな」


 ヴィクトリアの遥か上空。

 召喚獣グリフォンに乗ったジンとコトリが、遠くの空を眺めている。


「飛龍に乗ったゴブリン共と思っていたが、そんな低俗な軍団じゃねぇな。ドラゴンまでいやがる」


 ジンの感想に、コトリが小さく頷いた。

 遠方に見える空の軍隊。

 少しずつ輪郭がはっきりしてくる魔物の群れに、ジンが面倒そうに嘆息する。


「はぁ、大帝竜グランドドラゴン骸骨竜スカルドラゴン。…おいおい、呪詛竜カースドラゴンまでいるぜ」


 モンスターの中でも最強の強さを誇るドラゴン種。一頭でも国を傾けるといわれる圧倒的な存在が群れを成しているのだ。普通の軍国程度なら、この戦力だけでも敗戦必至だろう。


「…まっ、こちらの召喚師様にかかれば、あんなの蚊トンボだよな?」


「…うん。…もんだい、ない」


 ジンの膝にすっぽり納まっているコトリが、表情を変えることなく呟く。

 大召喚師を呼ばれる所以である、最強の召喚獣『古龍・ラグナロク』。その存在は、そこらドラゴンとは比べ物にならない。遠くの空を飛んでいるドラゴンが圧倒的な存在であるなら、『古龍・ラグナロク』が絶対的な存在。国は愚か、世界すら滅ぼす力を秘めた黄昏の龍なのだ。


「…じゅんび、…する」


「おう。頼んだぜ」


 コトリはジンにしがみついたまま、召喚魔法を行使するための詠唱を始める。頭の狐耳とお尻の尻尾が、ピンッと真っ直ぐになっていく。

 妖弧の少女は最大召喚魔法のため、刻々と魔力を高めていった―




「ふむ、これは壮観だな」


 ヴィクトリア本島から少し離れた、大陸の大地にて。

 ゲンジは巨大な大剣を肩に担ぎながら、目の前の光景に思わず呟いていた。


「…さすがの我も。この人数を相手にしたことはない」


 大陸の最端。

 海に浮かぶヴィクトリアを望むことのできる、巨大な渓谷の間。

 人間が10人は並んで歩けるような狭間を、鈍重な足取りで歩くモノがいた。身長は10~30メートル。人間と同じ二足歩行で、手には棍棒のようなものを携えている。ボサボサで脂塗れの髪に、肉食獣のように獰猛な瞳。半開きの口からは、辛うじて人の言葉らしい音を漏らしている。


「…グフ、グフフッ」

「…ニンゲンダ。ニンゲンノ、ニオイガスル」

「…アノシマカラダ。アソコカラ、ニンゲンノニオイガスル」

「…グフフッ、ニンゲンハ、ウマイ、ウマイ」


 のっそのっそと、歩いていく巨体。

 人を何十倍も巨大にさせた、人型の怪物。

 …巨人族だ。

 その巨体からは想像もできないほど俊敏に動いては、人間を捕まえ、捕食する。

 たった1人の巨人に、国が滅びたこともある。

 ドラゴンと肩を並べるほどの畏怖を持つ。

 人類の敵だ。


「…ふむ。最近は活躍していなかったからな。肩ならしには充分であろう」


 だが、ゲンジに臆する気持ちはない。

 眼前に迫る数十人の巨人族を前に、わずかな闘志を燃え上がらせる。

 鈍色の大剣『ベルセルク』を構え、ゆっくりと呼吸をする。

 オーガ族の狂戦士は、たった1人で巨人の軍勢へと立ち向かっていく。




「陸、海、空。全て攻撃圏内に入ったそうです」


 サンマルコ広場の『作戦本部』で、ボクは誠士郎先輩に状況を伝えていく。


「いつでも攻撃を開始できます。どうしますか?」


「…長かった、ですね」


「え?」


 誠士郎先輩のしみじみとした声に、ボクは首を傾げる。


「…どうしたんですか?」


「…いや。ここまでの道のりが長かった、と思いましてね。会長の魔の手からこの国を守るため、ボクたちは連日連夜を会議室で過ごしてきました」


「…そうですね。あの努力が、いよいよ実を結ぶ時が来たんです」


「…ユキ君。そして、皆さん。本当に感謝しています。これで、この国は救われるのです」



 インカムを通して、メンバー全員へと声をかけていく。その声色はすでに涙まじりになっていた。

「…誠士郎先輩。泣くのは早いですよ。ちゃんとこの国を防衛できたら、その時にいっぱい泣きましょう」


「…ユキ君。…ありがとうございます」


 誠士郎先輩が深く頭を下げて、感謝の言葉を告げる。

 そして、勇気と希望を胸に、仲間たちに指示を出す。


「それでは、皆さん。…攻撃かい―」


 声高らかに戦闘開始の合図を出そうとした、…その時だった。

 遥か海の彼方の光景が、誠士郎先輩の勇気と希望を砕いていた。


 パシュ~。


 水平線から伸びる10の煙。

 いや、爆煙が上空へと伸びていき。

 途中で海面へと進路を変えていく。

 その数秒後、数え切れないほどあった大船団が。

 雨のように降り注ぐミサイル群の、液体燃料が引火した高熱の爆風によって消し飛んでいた。


 …それはまさに。近代兵器がファンタジー世界に喧嘩を売った瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 目的変わっててw草w さらにフラグ回収はやっw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ