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第21話「それが十人委員会のギルドマスター。 名前を、天羽(あまはね)凛(りん)という」


 風雲急を告げる。

 深刻な事態とは、不意に起こるものらしい。まるでボクたちが気を抜くのを見計らっていたかのように、その事件は突然起きた。


「おい、聞いたか? なんでもモンスターの大群が、この国に迫ってきているらしい」


「隣の小国なんか、襲撃を受けて壊滅寸前だって話だぜ」


「この国は大丈夫かしら。心配だわ」


 突如として湧き上がったモンスターの大侵攻。

 西に居城を構える『魔王・ナポレオン』が、大群を率いてあちこちの国々を襲撃している。その被害は深刻で、どこの国も自分の領土を守ることで精一杯らしい。


 その『魔王・ナポレオン』が次の目標に定めたのが、ボクたちの住むヴィクトリアだ。

 ヴィクトリアは海洋国家を名乗っているだけあって、海という自然の防壁が他国からの侵略を防いできた。また、海戦にめっぽう強いヴィクリア海軍の存在が、侵攻の抑止力にもなっていた。


 だが、今回は問題が違う。

 モンスターの大侵攻。それも襲撃を受けた国からの情報によれば、彼らは陸の戦力・海の戦力。そして、空の戦力までも充実しているらしく、鉄壁の要塞国家でさえ空からの襲撃には深刻な被害をこうむったらしい。


 そんな魔王軍が、この国に迫ってきている。

 これが今朝、アーニャから聞かされた情報だ。


 秋空には薄い雲が映える。

 この国に吹く風も肌寒くなり、少しずつ秋が近づいてきている。

 そんな秋晴れの日に、ボクたち『十人委員会』は会議室に集まっていた。


『No.2』ギルドマスター代行の銃舞姫まいひめ。『魔法銃士』のユキ。

『No.3』不撓不屈の『狂戦士』。ゲンジ先輩。

『No.4』銀色の閃光。『銀狼族』のジン。

『No.5』回復専門の神官を改め『幻術士』の有栖。

『No.6』一騎当千。『人形使い』のミク。

『No.7』古龍ラグナロクを従える大召喚師。『召喚師』のコトリ。

『No.8』盾を持たない二刀流の騎士。『守護騎士』の誠士郎先輩。

『No.9』氷の魔導砲台。『高位魔術師』の碓氷君。

『No.10』絶頂を続ける幸運の星。『トリックスター』の快司君。


 総勢9名。

 生徒会長を除いたメンバー全員が、会議室の円卓で沈黙を保っていた。

 重い空気。

 誠士郎先輩がため息をついたと思ったら、ゲンジ先輩が眉間にしわを寄せる。ジンが銀色の鬣を掻くと、ミクが伸びた髪をくるくると弄ぶ。いつもは喧しい快司君でさえ、今は静かにしていた。


「…はぁ、どうしよう」


 ボクは頭を抱えながら、円卓に両肘をつく。

 打開策を必死に考えているが、目の前の問題を解決できる方法が思いつかない。

 刻一刻と、時間だけが過ぎていく。

 こんなにも深刻な問題が起こるなんて、予想もしていなかった。


「…みんな、元気だしてよ」


 そう口を開いたのは、唯一のメンバーでない人物。

 この国の王女、アーニャだ。


「確かに大変な戦いになるかもしれない。…でも、皆が力を合わせれば何とかなるよ」


 必死にメンバーを励まそうとするアーニャ。

 だが、反応は乏しい。

 ほとんどのメンバーは下に俯いたままで、顔すら上げようとしない。


「…無理だよ。もう、どうしようもない」


 ぽつり、と呟いたのはミクだった。

 ボブカットにまで伸びた髪を弄りながら、諦めたように呟く。


「逃げ場なんてない。こうなったら、もう自分達の運命を受け入れるしか…」


「ミク、そんなこと言わないで!」


 アーニャが泣きそうな顔でミクに寄り添う。


「きっと大丈夫だから。私だって頑張るし、この国の海軍だって、少しは役にたつ―」


「そんなに簡単な問題じゃないんだっ!」


 アーニャの声を遮って叫んだのは、…ボクだ。

 驚いたようにこちらを見る彼女に、ボクはすぐさま謝罪する。


「…ごめん。苛立って、大きな声を出して」


「…ううん、大丈夫」


 それっきり、アーニャも黙り込んでしまう。

 八方塞がりの状況に、ボクを含めたメンバー全員の心が荒んでいく。


「…はぁ、どうしたらいいのだ」


「…絶望的ですね」


「…もう、諦めるしかないんッスか?」


 暗い表情を浮かべながら、ため息ばかりつく。

 そんなメンバーを見て、アーニャが喝を入れるような大声を出した。


「もう! 皆、しっかりしてよね! この国の一大事なんだよ! そんな暗い顔をしているくらいなら、何か良い案を考えてよね!」


 彼女の言葉に、メンバーは少しずつ顔を上げる。


「大丈夫! このヴィクトリアは海と干潟に囲まれた自然の要塞なの。例え、『魔王ナポレオン』の軍勢だろうと、この国には一歩もいれさせな―」


 アーニャの力強い演説。

 その張り詰めた声を遮って、ボクは問いかけた。


「…アーニャ? 何を言っているの?」


「え? だから、魔王が率いるモンスターの軍勢がここまで―」


「アーニャ殿」


 今度はゲンジ先輩が口を開く。

 その眉間には、深い皺が刻まれていた。


「何か勘違いしていないか。もしや、我らが魔王の進軍などという些細・・なことに気を揉んでいると思ったのか?」


「え? 違うの?」


 驚いたように目を見開くアーニャ。

 そんな彼女を見て、誠士郎先輩は小さな声で答えた。


「…魔王なら、どれほど良かったか。僕達が直面している問題は、もっと絶望的で、逃げようのない運命なのです」


 気分でも悪いのか、誠士郎先輩の顔は真っ青になっている。眼鏡を上げる仕草にもキレがない。


「じゃ、じゃあ。一体、何がユキたちを苦しめているというの?」


 アーニャが真面目な顔で訊いていくる。

 魔王が率いるモンスター軍より恐ろしいものなんてない、というような顔だった。


 …だが、ボクたちは。

 …それ以上の悪夢を知っている。


「…」


 誰も口を開こうとしない。

 ボクは込み上げてくる恐怖に抗いながら、アーニャに返答した。


「…てくるんだ」


「え? 今なんて?」


 聞き返いてくるアーニャ。

 ボクはそんな彼女に聞こえるように、震える声を搾り出した。


「…会長が。…生徒会長が帰ってくるんだ」


「せいとかいちょう? その人って、ユキたちの本当のリーダーだっけ?」


 ボクは肩を落としながら頷く。


『十人委員会』の『No.1』。

 この最強のギルドの頂点に立つ、天上天下で唯我独尊なギルドマスター。

 2年も留年しているから、高校生3年生でありながら20歳だし。武者修行とかいって無人島で野宿したり、冬の八甲田山を雪行踏破したり。元の世界では、そんな無茶苦茶な人だけど。…残念なことに、こちらの世界だともっと酷い。


 会長の職業は『司令官』。

 ジンや有栖と同じ入手困難な『固有職種』で、高いステータスと豊富な『固有スキル』を持っている。その1つが、…【近代兵器の私物化】だ。

『司令官』が使用する武器は、そのほとんどが近代兵器。それも銃や爆弾など、甘っちょろいものではない。


 いわく、…ロケットランチャー。

 …バルカン砲。

 …戦車。

 …戦闘機。

 …航空母艦。


 中世ファンタジーの世界観に全くそぐわない、火薬と鉄の塊。必死にモンスターが槍や斧で襲ってくるのに、それを嘲笑うようなバズーカ砲撃。魔法を使おうとするモンスターには催涙ガスで行動不能にして、逃げ惑う背中にバルカン砲の一斉掃射だ。

 モンスターが大群で迫れば空から絨毯爆撃をして、別の大陸に魔王が生まれれば大陸間弾道ミサイル(ICBM)で先制攻撃する。


 会長が通った後には、何も残らない。

 魔物の死骸も、存在していた痕跡も。

 さらには勝利の余韻さえも。

 何もないのだ。


 …破壊神。

 魔王すら歯牙にかけないその存在は、まさに破壊の神。

 近づくものを全て消し炭にかえる、破滅の暴君。

 それが十人委員会のギルドマスター。

 名前を、天羽あまはねりんという―

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして魔王は破壊神から逃げてるのではなかろうか?
[一言] 祝無事に200話到達。 会長の帰還は近い。
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