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第19話「疑惑。… あの姫さんは怪しいッス」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 夕刻。

 皆が帰った会議室に、1つの人影があった。

 銀色の鬣に、狼のように尖った牙。


 …ジンの姿だった。


「…」


 ジンは窓際に立って、夕陽が差す街並みを眺めている。

 立ち並ぶ建物は朱に染まり、遥かな大海もきらきらと橙色に輝く。

 綺麗な景色だ、と心の中でそう思う。

 そんな時、がちゃりと会議室の扉が開いた。


「ちぃーす、ジン先輩。おつかれッス」


 頭をボリボリかきながら入ってきたのは、合流したばかりの岩崎快司だった。

 快司は窓際で夕陽を浴びているジンを見て、軽口を叩く。


「いやー、イケメンは何をしても絵になるッスね。夕陽にたそがれているジン先輩を見たら、女の子なんてイチコロッスね」


「…本気で言っているのか?」


「いんや、毛ほどにも思ってないッスよ」


 快司は悪びれる様子もなく、ジンの隣に立つ。

 沈む太陽。

 赤焼けの空。

 海鳥の声は遠く、海の波音も聞こえない。


「…で、首尾はどうだった?」


「真っ先に、それッスか。…まぁ、無駄が嫌いなジン先輩らしいッスけど」


 呆れるように肩をすくめる快司。

 彼は外の風景になど興味がないと言うように、天井を見上げながら口を開いた。


「…収穫はゼロ。この国のどこを探しても『リラの通行手柄』なんてものは存在しなかった、…ッスよ」


 とってつけたように、語尾に砕けた敬語をつける。


「危険を承知で裏社会に顔を出してみたけど、何の手がかりもなし。カジノの客、マフィアの連中、街角の不良者。誰に聞いても『リラの通行手形』を知っている人はいなかった、…ッス」


「…そうか」


 快司のその報告に、ジンが目を細める。


『リラの通行手形』

 この世界に来ることになった、正体不明のアイテム。

 十人委員会のメンバーは、あのアイテムを使うことでこの異世界に来るはめになった。

 全ての事の発端は、『リラの通行手形』だ。


「天羽会長は何て?」


「…とにかく、あの謎のアイテムについて調べろ、とだけだ」


「ははっ。ジン先輩は、よほど信頼されているんッスね」


 快司が朗らかな笑みを浮かべる。


「細かく指示を出さなくても、現状を打開する手段を探すだろうと。…言っちゃえば、元の世界に戻るために方法を見つけるだろう。天羽会長はそう思っている、…ッスね」


「…単に面倒なだけだろう」


 ジンは無表情のまま答える。


「…この世界にはタイムリミットがある。会長が言うには、あと数ヶ月で。この世界が丸ごと消滅してしまうらしい。それよりも早く、このふざけた世界から脱出しないと」


「できれば、ユキ先輩たちに気づかれないように?」


 快司の言葉に、ジンがさらに目を細める。


「いやぁー、ジン先輩は仲間想いだなー。自分から汚れ仕事をして、皆には気苦労すら負わせないなんて。本気で尊敬するな~、…ッスよ」


「…見え透いた嘘を並べるのは止めろ。反吐が出る」


「ははっ、オレは嫌われ者だな、…ッスね」


 わざとらしく語尾に砕けた敬語をつける快司に、ジンは苛立つように声を荒らげた。


「…岩崎快司。俺はお前が嫌いだ。仲間に対しても平然と嘘をつく貴様を、俺は信じることができない」


 刃物のような言葉の棘。

 相手を傷つける言い方にも、快司の表情は崩れない。


「ははっ、それでいいッスよ。オレを信じないほうがいい。疑ってかかったほうが賢明だ。…まっ、オレは皆のことが大好きなんだけどね」


 にやり、とどこか影のある笑みを浮かべる。

 ジンと快司。

 2人はこの世界に来た、その日から。協力して元の世界に戻る方法を探してきた。


 ジンは他のメンバーと共に、『表』側から。

 快司は1人で裏社会に身を投じて『裏』側から。


 互いに反りの合わない2人だったが、両者の目的だけは常に一致していた。

 …仲間を元の世界に戻す。 

 そのために協力し合い、時に利用して、情報をかき集めてきた。


「…で、ジン先輩は何か新情報はないッスか?」


 快司の問いに、ジンは静かに答えた。


「ないな。いくつか奇妙な事があるが、まだ断定はできない」


「へぇ、是非とも聞きたいものだ、…ッスね」


 快司が興味深そうに訊いてくる。

 だが、ジンは外の景色を眺めたまま答えようとはしない。


「じゃ、しょうがないッスね。…ここはオレから話しましょう」


「…なんだ? なにか分ったのか?」


「ええ、とびっきり面白いことが」


 ニヤリと、影のある笑みを浮かべる快司。

 彼はポケットに手を入れると、そこにあるものを取り出した。


「ジン先輩、覚えていますよね。昼間にやった、銀貨の運勝負を」


 じゃらじゃらと鳴らしながら、手のひらに10枚の銀貨をのせる。


「あの時、オレは10枚の銀貨を投げて、全部『表』にしてみせた。その時に使っていた銀貨ッスよ」


「…」


 快司はそういって、ジンに銀貨を手渡す。

 さほど興味もないように見ていたジンだったが、あることに気づいて眉をひそめた。


「なんだこりゃ? この銀貨、両面とも『表』じゃねぇか」


 1枚、1枚。

 ジンは銀貨を手にとっては、『表』と『裏』を確認していく。

 …だが、それらに刻まれているのは王室の紋章である『表』の模様だけ。『裏』の模様が1つも刻まれていないのだ。


「ええ、その通り。それはイカサマで使われる両面表の銀貨。闇賭博で使われていたのを拝借したもの、…ッス」


「…つまり、お前が10枚全部を『表』にしたのは」


「はい。スキルなんて関係ない。ただのイカサマって奴ッスよ」


 わずかに口端を上げる快司。


「まぁ、こんな偽銀貨を使わなくても、オレのスキルなら普通に全部『表』にできたでしょうけど。…で、問題はここからッスよ」


 快司が声を小さくさせる。


「あの時。誰かさんは、この『両面表』の銀貨を使っているにも関わらず、奇妙な結果を残してしまった。『表』が9枚、『裏』が1枚。…そう。『裏』を出しちゃったことッスよ」


「…」


 ジンは言葉を失う。

 何か考えるように遠くを見つめながら、あの時に何が起こったのか考える。


 …でも。

 …それって。


「ははっ。ジン先輩が考えていることは、たぶんオレと同じでしょう。ありもしない『裏』を出してしまったあの人は、間違いないく。この世界では異質の存在」


 …ありえるのか?

 …彼女が関わっているなんて、考えられるのか?


 ジンが考えているなが、快司が端的に答えを導き出した。


「ジン先輩。あの姫さんは怪しいッス。今回の騒動、…つまりこの世界に何かしら関係を持っている。もしかしたらその起源に関係しているかも」


 蜂蜜色の髪を靡かせて、満面の笑顔を浮かべる王女のことを思い浮かべる。

 王女アーニャ。本名、アリーシア・マリ・ドージェ・ヴィクトリア。


 …彼女は、…何者なんだ?


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― 新着の感想 ―
[一言] 表裏から暗躍する二人
[一言] ウルトラチャラいギャンブラー役に運関係のスキルとかヤバすぎる組み合わせだなw
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