第17話「快司と、ひと握りの銀貨…」
「…で、温泉のことなんッスけど」
「まだ言うか。我らは遊んでいるわけではないぞ」
あっという間に回復した快司君が、再び提案する。
「知ってるッスよ。でも、ここでメンバーの意思統一を図るのは必要じゃないッスか?」
「…意思統一?」
ボクは思わず首を傾げる。
「そうッス。元の世界に戻る方法を探すにしても、メンバーが一丸になって動く必要があると思うんッスよ。裏切りや仲間割れはもうたくさんッス。…あっ、別に有栖先輩のことを言ってるわけじゃないッスよ?」
快司君が慌てながら、有栖にフォローを入れる。
だが、当の有栖は涼しい顔で返事をする。
「構いません。私はそれだけのことをしたという自覚がありますから」
ピンク色の髪の幼女が、仰々しく扇を開く。
「それに、私は今の生活が気に入っています。自ら騒動を起こすようなことはしませんよ」
そう言って、隣に座る碓氷君に肩を寄せる。
無表情に文庫本を読んでいる少年と、傍にいるだけで頬を赤らめている幼女。見ていると、なんとも微笑ましい気持ちになってくる。
「かぁ~、嫌だ嫌だ! これだからリア充は! そんなに自分の恋人を見せびらかしたいんッスか!?」
くわっ、と不愉快と言わんばかりに快司君が顔をしかめる。
そんな彼の言葉に、有栖が顔を真っ赤にさせて反論する。
「べ、別に、恋人なんかじゃ―」
「あ? じゃあ、なんッスか? 神無月先輩は碓氷先輩のことが好きじゃないんッスか? 一緒にいたいと思わないんッスか? 恋人になりたいと思っていないんッスか?」
快司君の不満たっぷりの視線が、有栖の小さな体に突き刺さる。
「そ、それは、…その」
もじもじと膝の上で『のの字』を書きながら、碓氷君の様子を窺っている。
「…私の、…独り想いかもしれませんし」
「は? 恋する乙女ッスか? あの人嫌いの碓氷先輩が、たった1人だけに心を許しているんッスよ? もはや確定じゃないッスか」
「え?」
驚いたように口を開く有栖。
すぐ傍の文学少年のことを見上げながら、何かを期待するような目で見つめている。
「…」
碓氷君は何も言わない。
文庫本に視線を落として、静かに読書を楽しんでいる。
…だが。
本を持つ手を変えると、ゆっくりと有栖へと手を伸ばす。そして―
「あ」
有栖の頭に手をのせた。
そのまま優しい手つきで頭を撫でていく。普段から話さないだけに、こういった行動が特別なことに思えてくる。
「…はわぁ~、りょ~た~」
有栖のエルフ族特有の尖った耳も、赤く染まっていく。
そして、しばらくすると―
「きゅん!」
…有栖が卒倒した。
碓氷君の膝を枕にするような形で倒れこんでしまったのだ。その姿は、年上の兄に甘える幼い妹のようにも見える。なんとも微笑ましい光景だ。
「けっ! リア充は爆発しろ! 死んで灰になれ!」
呪いの言葉を吐き続ける快司君。どうやら、彼はこの世界に来ても素敵な出会いはなかったようだ。
仕方なく、ボクは話を戻すことにする。
「えーと、快司君。君の話はなんだっけ?」
「おっと、そうだった。神無月先輩のせいで話がそれたッスね」
…有栖のせいじゃないけどね。
「温泉ッスよ、温泉! 皆で旅行に行かないッスか?」
「…温泉って、この世界にあるの?」
「それが、あるんッスよ。オレっちにまかせてくれれば、すぐにでも皆を温泉旅行に招待できるッス」
キランッ、と歯を光らせて親指を立てる。
「この岩崎快司の固有スキル。『絶頂を続ける幸運の星』に、不可能はないッス!」
今度は円卓に足をのせないようにしながら、皆の顔を順番に見ていく。その曇りない瞳が少しだけ羨ましい。
「ねぇ、ちょっと質問があるんだけど?」
そんなとき、意外な人物が手を上げた。
この国の王女、アーニャだった。
「その、かいじ君の言っている『絶頂を続ける幸運の星』って、どういうものなの? ユキ達みたいに、モンスターを倒すためのものなの?」
「あー、そういうものとは、ちょっと違うッスよ」
快司君はボリボリと頭をかく。
「オレっちの職業は『トリックスター』といって、ほとんどが戦闘向きじゃないサポートスキルなんッスよ。この『絶頂を続ける幸運の星』も、戦闘ではほとんど使えないッス。効果は単純に、…運がよくなるッス」
「運がよくなる?」
首を傾げるアーニャ。
そんな彼女に、快司君は説明を続ける。
「まぁ、そう言ったってよくわかんないッスよね。こういうのは実際に見てもらったほうが早いッス」
そう言って、快司君はポケットの中に手を入れる。
しばらく弄って取り出したのは、ひと握りの銀貨だったー




