第9話「あいつは、カジノで遊んでいたのか!?」
「この国にも、カジノなんてあるの?」
「そりゃ、あるよ。貴族御用達の大きなカジノから、庶民に愛されるこじんまりとしたものまで。一番大きいのは、『大運河』沿いに建っているんだけど、知らなかったの?」
「うん、全然」
ボクは首を傾げながら、ソファーに座っている親友を見る。すると、彼は知ってるというように肩をすくめる。どうやら知らないのはボクだけのようだった。
「えーとね、『大運河』の真ん中あたりに、緑の屋根のお屋敷があるのを知ってる? 専用の舟の停泊所があるんだけど」
「あー、あそこか。いつも黒服にサングラスをつけた人が玄関に立っているところだね。てっきり、ホテルだと思ったよ」
「まぁ、見た感じだとわからないかもね。そこがこの国で一番大きなカジノ『ヴェンドラ』。ヴィクトリア王室も運営に関わっている国営カジノなのよ。…そういえば」
と、アーニャが思い出したように呟いた。
「…最近、そのカジノで凄い新人が現れたんだって。何でも、この国で有名な『カジノ四天王』を次々に倒しているとか」
…カジノ四天王って。
…随分と安っぽい名前だなぁ。
「えっと、何て呼び名だったかな? 確か、『人生遊戯のジャスティン』、『777のムニファ』、『天才外科医のキリンジ』。あと残っているのが、無敗の勝負師とよばれる『無表情のパンドラ』って人みたい。…でも、今日にでも負けちゃうんじゃないかな?」
「へぇ。それじゃ、その新しく現れた人って、凄く強いんだね」
ボクは適当に返事をしながら、トランプを配っていく。
あー、そういえば。
ボクたちのメンバーにも、賭け事に強い人がいたっけな。なんてことを思いながら、まだ見つかっていない彼のことを思い出す。
…岩崎 快司。
十人委員会で唯一の1年生であり、無類の賭け事好き。
一応、野球部の部長なのだが、部員数が5人にも満たなくて野球グラウンドもないことから、部活動には凄く後ろ向きであった。いつも部室に篭っては、部員達とトランプやら麻雀、さいころばっかりしていたっけ。
彼の決め台詞は確か―
『賭け事なら、神様だって負かせてみせる』
―だったかな?
快司君が賭け事、…もちろんお金は賭けたりしないけど、トランプやさいころで勝つと、いつもそう言うのだった。たまに部長会議の後に『ポーカー』や『ブラックジャック』で遊ぶことがあって、いつも彼が一番勝ちを取るのだ。それも、カードのすり替えなどのイカサマなしで。
快司君だったら本当に神様に勝ってしまうような。そんな不思議な豪運を持っていると感じたものだ。
「まぁ、今の私なら。誰が相手でも負ける気がしないけどね」
アーニャが自分の手札を見ながら、自信ありげに笑う。
「ふふふ、私も決め台詞でもつけようかな。そうねぇ、…『賭け事なら、神様だって負かせてみせる』とか? ははっ、何か感じが出てるぅ!」
「は?」
その言葉に、耳を疑った。
ボクだけじゃない。
メンバー全員が、今のアーニャの言葉に目を丸くさせていた。
「…ねぇ、アーニャ。今なんて言ったの?」
「ん? 決め台詞の話? 私もなんか決め台詞でも考えて―」
「その先だよ」
彼女の声を遮って問いかける。
すると、アーニャは怪訝な顔をしながら。
「うん?『賭け事なら、神様だって負かせてみせる』。さっき言ってた、カジノに現れた凄く強い人が、決め台詞のように言うんだって」
「へ?」
…なんだか、とても嫌な予感がする。
「あとね、何て言ってたんだっけ。たしか、『豪華客船の限定じゃんけんだって一番で抜けてやる』とか、『地下の強制労働施設だって、チンチロリンでボロ儲けしてやる』とか。よくわからないけど、そんなことを言ってたみたい」
「…」
…あ、そう。
ボクは眉間に指をあてながら、込み上げてくる頭痛に耐える。
見れば他のメンバーも、同じような顔をしていた。頭痛と、眩暈と、果てしない徒労感。そんなものが心を蝕んでいるようだった。
「…あの、たわけがっ!」
最初に口を開いたのは、ゲンジ先輩だった。
「これだけ探しても見つからないと思ったら、カジノで遊んでいたのか!? もう許せん! 縄で縛りあげて、この場に引きずり込んでやる!」
会議室の隅で朽ち果てていたその体を起こすと、無表情のまま部屋の外へと向かっていく。
「え? ちょっと、ゲンジ社長!?」
その屈強な後姿にアーニャが声をかけるが、先輩は振り向きもせず出て行った。バタン、と大きな音を立ててしまった扉が、彼の苛立った胸中をありありと現していた。




