第51話「姉妹の契約」
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「皆さん、ご迷惑をかけました。本当にごめんなさい」
翌日の『十人委員会』の会議室で。
みんなに向かって深々と頭を下げている神無月先輩の姿があった。
美しい大人の女性といった彼女だが、その服装は本来のエルフらしく慎ましいものに変わっている。色気のない麻のローブに、肌の露出が極端に少ない装い。妖艶な撫子色の髪も、綺麗に整えられている。
「…」
その後ろに立っている碓氷君は何も言わない。
大型の魔導杖を片手に、じっと先輩のことを見守っている。
「ははっ、大丈夫ですよ。もう過ぎたことですし、気にしてませんって。…へくちっ!」
神無月先輩に声をかけながら、くしゃみをしてしまう。
「まぁ、あたしたちも色々あったからね。もうしないって約束してくれれば、それでいいんじゃない。…へくしょんっ!」
「うむ。この世界に来て戸惑うのは皆同じだ。手を取り合っていかねばならんな。…ぶあっくしょんっ!」
「源次郎の言うとおりです。これからは連携を取り合って問題を解決していきましょう。…は、は、はっくしょんっ!」
ミク、ゲンジ先輩、誠士郎先輩と立て続けに、くしゃみを連発する。寒気に肩をブルブルと震わせて、熱で思考が停止しそうだ。
…氷付けにされたボクたちは、もれなく風邪をひいてしまっていた。
「はははっ。意外に皆って、体が弱いんだね」
ただ1人、アーニャを除いては。
彼女だけはいつものように、猫耳パーカーにホットパンツという軽装のままだった。…なんで、この子だけ無傷なの?
「じゃあ、話を戻すぜ。神無月先輩と碓氷は『十人委員会』に合流するってことでいいんだな?」
鋭い口調でジンが2人に問いかける。
薄情にもボクたちを置いて逃げたこの狼男は、何食わぬ顔で会議に参加している。いつか絶対に仕返ししてやる。
「はい。不肖、神無月有栖。『十人委員会』のために身を尽くす所存です。…この世界にいるまでは」
「…」
碓氷涼太は何も言わない。
だけど、神無月先輩に同調するように、こくりと頷いた。
「…と言われもなぁ。悪いが、ちょっと信じられないっつうか」
ジンが言葉を濁しながら頭をかく。
仲間を裏切ったような行為に、まだ納得できていない様子だった。
「また、いつ心変わりするかわかったもんじゃないぞ」
「…大丈夫じゃない? 今度は碓氷君がちゃんとついていてくれるし。こんなことは二度と起こらないよ。…へくちっ!」
ボクは親友を諭すように声をかける。
すると、それまで黙っていた神無月先輩が、ある提案を持ちかけた。
「ふふっ、陣ノ内君が言っていることはもっともです。ですので、私の能力に制限をかけて、『十人委員会』の許可なく使用できないようにしたいと思います」
「能力に制限? そんなことができるの?」
「はい。私の魔法を応用すれば可能です。この場合は、ギルドマスターである優紀君が適任ではないかと?」
「…ボクは構わないけど。皆はそれでいい?」
ぐるりと見渡すけど、誰も反論しない。
唯一、渋い顔をしていたジンも、口をへの字に曲げたまま何も言わなかった。
「…じゃあ、神無月先輩がそれでいいなら。えーと、先輩の能力に制限をかけてボクの許可なく使用できない。これでいいんだよね?」
「はい」
神無月先輩は短く答えると、楚々とした足取りでこちらへ向かってくる。
「それでは、優紀君。両手を出してください」
「こう?」
ボクは言われたとおりに、先輩に向けて両手を突き出す。
「それでは、私の後に続けて唱えてください。…黒い茨よ。彼の者を我がものとせん」
「えっと、…『黒い茨よ。彼の者を我がものとせん』」
「汝、我が隷となるならば、服従の言葉を示せ」
「…『汝、我が隷となるならば、服従の言葉を示せ』」
…あれ?
…この詠唱文。どこかで聞いた気がする。
「ここに【姉妹】の契約が成立した。汝は我が【妹】であり、我は汝の【姉】である」
「あっ、えっと、…『ここに【姉妹】の契約が成立した。汝は我が【妹】であり、我は汝の【姉】である』…って、ちょっと待って!」
…え、なに!?
…【姉妹】!?
…【妹】に【姉】!?
なんだかものすごく嫌な予感がして、慌てて両手を振りほどく。
だが、…すでに遅かった。




