第47話「長い夢を見ていた気分だ、……にっ!?」
「お?」
「…これは?」
2人が顔を見合わせる。
その間も、壁の亀裂はどんどん広がっていく。
そして最後には、小さな音を立てて、…剥がれ落ちた。
綺麗な装飾に隠された、この屋敷の本当の姿。それ次第に明らかとなっていく。穴だらけの絨毯。朽ちた天井。不釣合いにぶら下がっているシャンデリア。元の荘厳な景色など、欠片も残っていない。
「おいおい。随分とボロい屋敷だったんだな」
「…これは幻覚? …いや、聞いたことがあります。これは『幻術魔法』ですよ」
くいっと眼鏡を押し上げながら、誠士郎が答える。
「恐らくですが、神無月さんは『幻術』を使う『幻術士』だったのでしょう。この屋敷に魔法をかけて、見せかけの内装を作っていたのです」
「じゃあ、その魔法が解けたってことは?」
「ええ。御櫛笥さんが彼女を倒したのでしょう。さすがは『一騎当千の人形使い』ですね」
「俺も、あいつとだけは戦いたくないねぇな」
誠士郎の考察に、ジンは軽く肩をすくめる。
そんな状況でも。
体を引きずるようにして、階段を目指す少年がいた。
…碓氷涼太だ。
「おいおい。何してるんだ?」
ジンが声をかけるが振り向きもしない。
碓氷涼太は魔導杖で体を支えながら、一段一段と階段を登っていく。
その足取りがあまりにもフラフラで、手を貸したくなるほどだった。
「碓氷君。戦いは終わりましたよ。今さら、神無月さんのところに行っても、何も変わりません」
誠士郎は碓氷涼太の隣に立って、肩に手をかける。
…だが。
「っ!」
キッ、と睨みつけてくる。
その表情は先ほどまでと違う。
歯を食いしばり、必死の形相を浮かべて、動かない体を無理やりにでも動かしている。
その姿は、どこか焦っているようにも見えた。
「…っ」
碓氷涼太は何も言わない。
荒い息を吐きながら、必死になって階段を上り続ける。
「…なんなんだ?」
「…さぁ?」
意味がわからないというように首を傾げる2人。
碓氷涼太が神無月に好意を持っていることは知っているが、それにしても必死すぎる。
まるで、想い人を助けにいく騎士のように。
「…俺たちも行こうぜ」
碓氷涼太の後を追いかけるように、2人も屋敷の奥へと進んでいった。
「…う、うん?」
頭が重い。
なんだが、長い夢を見ていた気分だ。
思い出そうとしても、頭の中に靄がかかっているようで、今まで自分が何をしていたのかもよく覚えていない。
「あっ、ユキ。気がついた?」
聞きなれた声がしてそちらに視線を向ける。
頭がぼんやりとしているが、そこにいるのがアーニャとミクだということはわかった。
「…あー、うーん」
ダメだ。
頭が回っていないせいで、状況が整理できない。
ただ、傍にアーニャとミクがいることに、すごく安心できた。
「まだ、起きれないみたい」
「みたいね。よほど深い幻術にかかってたのかな?」
ミクの呆れた声が降ってくる。
…ここはどこだろう?
どこかのお屋敷みたいだけど、壁も天井もボロボロだ。埃っぽい空気の中、かすかに百合の香りが鼻につく。
「…ここは、…どこ?」
「ユキ? 覚えていないの?」
「…うん。…あんまし」
頭の中の記憶を辿りながら、何をしていたのかを思い出そうとする。
たしか、夢の中で神無月先輩に出会って、実は先輩は『幻術士』だったので、それから―
「…っ!」
がばっ、と体を起こす。
そうだ。
思い出した。
ボクは夢の中で神無月先輩と戦闘になって、…負けたんだ。
「…っ、頭が痛い」
「ちょっと、ユキ!? 急に起き上がったら危ないよ」
「アーニャの言う通りだよ。もう少し横になってたら?」
「…そうはいかないよ。ボクは神無月先輩に―」
「いや、問題はそこじゃなくて! えーと、その」
ミクとアーニャが抑えようとするが、ボクは構わず立ち上がる
その時だ。
ハラリッ、と体に掛かっていた薄い掛け物が床に落ちた。
見覚えのある桜模様。
たぶん、ミクの浴衣だろう。
「…え」
あちゃー、というミクとアーニャの声。
急に肌寒く感じて、背筋に鳥肌が立つ。
そして改めて、今の自分の格好を見下ろした。
「にっ―」
目に映る、黒い拘束衣装。
胸の谷間から、腰のくびれまで丸見えだった。
全裸のほうがよかったと思える、そんな情欲丸出しの服装であった。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




