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第44話「神無月有栖(かんなづき ありす)①」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


 怖かった。


 わたくしは他人からどう思われているのか。

 そう思うと、お腹の底から恐怖が湧きあがってくるのだ。


 あの人はどうだろうか?

 心の中では、わたくしを嫌っているのではないか?

 その笑みも、本当はわたくしのことを嘲笑っているのではないか?


 わたくしは他人が怖い。

 わたくしを好きになってくれない人が怖い。

 全ての人が、わたくしを愛してくれたらいいのに。

 そんなことばかり考えていた。


 なんと…

 なんと愚かで、醜いのだろう…



「有栖ちゃんは、なんでもできるのね」


 子供のころから、わたくしの周りにはたくさんの大人がいた。

 両親は仕事で忙しく、そして躾に厳しい人だった。

 大きな屋敷に住んでいたわたくしには、同い年の友達などいなく、いつも大人達に遊んでもらっていた。

 皆、とても親切だった。


 だけど、ある日。

 妙な違和感を感じるようになった。


 …大人の中に、わたくしを嫌っている人がいる。


 意地悪をされたわけではない。

 嫌いといわれたわけでもない。

 ただ、わかってしまったのだ。

 その日から、わたくしの苦悩に満ちた日々は始まった。


 どうすれば、あの人に好きでいてもらえるだろうか?

 どうすれば、全ての人に好きでいてもらえるだろうか?

 どうすれば、…嫌われずにすむのだろうか?


 そんなことばかり考えていていた。

 夜中。布団に潜り込んで、怖くてたまらなくなりながら。


 小学校に入った。

 私立のお嬢様学校だった。

 その頃になると、わたくしは人に好かれる手段を身につけつつあった。

 謙虚であること。

 威張らないこと。

 人からの好意を、嫌でも受け取ること。

 人が求めている自分を、上手に演じること。

 いくつかの失敗はあったが、概ね平和な学校生活だった。


 中学校に入学する頃。

 両親の会社が、…経営破綻した。

 幸い、知人からの融資を得て何とか立て直したらしいが、おかげでわたくしの生活は一変した。私立の小学校から、公立の中学校へ。それまで培ってきた人間関係を、一度リセットしなければならなかった。


 …恐ろしかった。


 また、新たな人間関係を構築しなければならないと思うと、吐き気がした。

 周囲の人間を観察して、自分に何を求めているのか見つけないと。

 親の会社の倒産危機より、そのほうが大問題だった。

 だが、それは杞憂であった。

 公立の中学校に行っても、何一つ問題がなかった。自分から身の内にあったこと公表し、上手に同情を誘うことができた。「金持ちで~」とか、「お嬢様学校から」とか最初こそ言われはしたが、3ヶ月もしたら誰も言わなくなった。


 …安心した。

 …これで、わたくしは安心して生きていける。


 高校に進学した。

 わたくしは以前と同じように、人から望まれる役を上手に演じていた。

 当時の生徒会長だった御影優奈や、副会長だった天羽凛に媚を売り。着実に人脈を広げていった。2年前に御影会長が事故で亡くなったときも、自分のことように悲しんでみせて。新しく生徒会長になった天羽凛には、どんなことでも手伝いますと涙ながらに訴えた。


 そして、1年が経って。

 ようやく他人からの恐怖から解放されていた私は―


 …彼と出会った。


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[一言] 虚勢で固めた仮面優等生
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