第44話「神無月有栖(かんなづき ありす)①」
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怖かった。
私は他人からどう思われているのか。
そう思うと、お腹の底から恐怖が湧きあがってくるのだ。
あの人はどうだろうか?
心の中では、私を嫌っているのではないか?
その笑みも、本当は私のことを嘲笑っているのではないか?
私は他人が怖い。
私を好きになってくれない人が怖い。
全ての人が、私を愛してくれたらいいのに。
そんなことばかり考えていた。
なんと…
なんと愚かで、醜いのだろう…
「有栖ちゃんは、なんでもできるのね」
子供のころから、私の周りにはたくさんの大人がいた。
両親は仕事で忙しく、そして躾に厳しい人だった。
大きな屋敷に住んでいた私には、同い年の友達などいなく、いつも大人達に遊んでもらっていた。
皆、とても親切だった。
だけど、ある日。
妙な違和感を感じるようになった。
…大人の中に、私を嫌っている人がいる。
意地悪をされたわけではない。
嫌いといわれたわけでもない。
ただ、わかってしまったのだ。
その日から、私の苦悩に満ちた日々は始まった。
どうすれば、あの人に好きでいてもらえるだろうか?
どうすれば、全ての人に好きでいてもらえるだろうか?
どうすれば、…嫌われずにすむのだろうか?
そんなことばかり考えていていた。
夜中。布団に潜り込んで、怖くてたまらなくなりながら。
小学校に入った。
私立のお嬢様学校だった。
その頃になると、私は人に好かれる手段を身につけつつあった。
謙虚であること。
威張らないこと。
人からの好意を、嫌でも受け取ること。
人が求めている自分を、上手に演じること。
いくつかの失敗はあったが、概ね平和な学校生活だった。
中学校に入学する頃。
両親の会社が、…経営破綻した。
幸い、知人からの融資を得て何とか立て直したらしいが、おかげで私の生活は一変した。私立の小学校から、公立の中学校へ。それまで培ってきた人間関係を、一度リセットしなければならなかった。
…恐ろしかった。
また、新たな人間関係を構築しなければならないと思うと、吐き気がした。
周囲の人間を観察して、自分に何を求めているのか見つけないと。
親の会社の倒産危機より、そのほうが大問題だった。
だが、それは杞憂であった。
公立の中学校に行っても、何一つ問題がなかった。自分から身の内にあったこと公表し、上手に同情を誘うことができた。「金持ちで~」とか、「お嬢様学校から」とか最初こそ言われはしたが、3ヶ月もしたら誰も言わなくなった。
…安心した。
…これで、私は安心して生きていける。
高校に進学した。
私は以前と同じように、人から望まれる役を上手に演じていた。
当時の生徒会長だった御影優奈や、副会長だった天羽凛に媚を売り。着実に人脈を広げていった。2年前に御影会長が事故で亡くなったときも、自分のことように悲しんでみせて。新しく生徒会長になった天羽凛には、どんなことでも手伝いますと涙ながらに訴えた。
そして、1年が経って。
ようやく他人からの恐怖から解放されていた私は―
…彼と出会った。




