第41話「式神・虎徹」
「…っう!」
ザンッ!
鉄を切り裂くような音が部屋に響いた。
視界が一瞬にして開ける。
首を絞めていて鎖が解かれて、静かに息を吐く。
そして、バラバラに断ち切られた鎖の残骸を見下ろしながら、あたしは言うのだった。
「そういや、神無月先輩よぉ。テメェはさっき、変なことを言っていたよな」
その問いかけに返事はない。
神無月は信じられないというような目で、あたしを見ていた。
いや、正確には。
…あたしたちを。
「殴るだけが取り柄だって? まぁ、それについては否定しねぇがよ。だけどテメェこそ、あたしの職業を忘れてるんじゃねぇのか?」
周囲に立ち込める、わずかばかりの白塵。
そして、断ち切られた鎖を踏みしめる、2つの人影。
人の形をした、…殺戮人形たち。
「…【式神召喚・零式】」
右に立つのは【式神・虎徹】。
見た目は、武者甲冑を身に着けた武士で、鎧兜の前面には召喚の際に使用した『式紙』が張られている。その奥にある素顔を見ることはできないが、生気はない。
手にしているのは一振りの打刀。物言わぬ刃が無骨な殺意を放っている。
左に立つのは【式神・陸奥守吉行】。
【虎徹】とは異なり、羽織を着た流浪の侍のよう。額には同じく『式紙』が張られていて、素顔は見えない。だが、【虎徹】とは異なり、穏やかな闘気のみを発している。
腰に差した美しい太刀は、未だ鞘の中に眠っている。
伝説の殺戮人形の使役、【式神召喚・零式】。
人形使いの最高峰であり、【零式】の式紙を必要とする究極の固有魔法。
あたしの持っていた『零式』は4枚。ということは、その内の半分を消耗したということになる。残りの人生で、あたしは『零式』をあと2回しか使えない。
…だけど。
「おいおい、何をボーとしてるんだ。神無月先輩ぃ?」
あたしの問いに、神無月が焦ったように叫んだ。
「しょ、正気なのですか! その『零式』の式紙は、もう二度と手に入らないもの! それをこう安々と使ってしまうなんて!」
信じられない、と呟く。
そんな彼女を見て、あたしはにやりと笑う。
「あ? 何を言っているんだ? 切り札は使うためにあるんだろう?」
…後悔など、微塵もない。
…もったいないという感情すら湧かない。
「あたしはな、テメェをぶっ飛ばせればそれでいいんだよ。ユキとおもちゃのようにして遊んでいたテメェだけは、許せる気がしねぇ!」
ガチャリ。
あちしの怒気に反応して、【虎徹】が前に出る。
無骨な武者甲冑を鳴らしながら、抜き身の打刀を身構える。
「…っ! どうやら、言葉にしても無駄なようですわね」
神無月も気おくれしながら、両手をこちらへと突き出す。
だが、その顔に張り付いている笑顔からは冷や汗が見て取れた。
「あなたはここで消えるのです。私の幻術魔法によって、永遠に苦しませてあげます!」
禍々しい魔法陣から、再び黒い鎖が這い出てくる。
そして、神無月の合図と共に、一斉に襲いかかってきた。
「ふふっ、この【投獄の拷問鎖】からは逃れられないですよ! 狙われたら最後。相手を死ぬまで追いかけて―」
「無駄だ」
神無月の言葉を遮って言い放つ。
それと同時に、【虎徹】の太刀筋が煌いた。
ザザンッ!
黒いの閃光が空に描かれる。
白刃の軌跡が輝くたびに、黒い鎖は断ち切られ、無残に散っていく。
「…な、なん、ですって」
無限に襲い掛かってくる拷問鎖。
だが、【虎徹】はそれ以上の斬撃で、確実に打ち落としていく。
甲冑を着ているとは思えないほどの疾さで立ち回り、あたしを守っている。
…いや。その姿はすでに残像と化している。
目に見えるのは宙に描かれる斬撃のみ。【虎徹】そのものが黒い幻影となり、剣戟の一部となっていた。
【式神召喚・零式】。
…その名は、【式神・虎徹】。
彼の人形は黒き斬撃となりて、敵を打ち滅ぼさん―




