第37話「…来いよ。女の喧嘩ってやつを教えてやるぜ」
あたしの拳が唸りを上げる!
いい加減にしろ、と轟き叫ぶ!
あたしは最高速度で駆け抜けて、最強の一撃を放った。【瞬動】からの『爆裂正拳突き』。モンスターの頭もぐちゃぐちゃにするほどの威力。文字通りの一撃必殺だ。
「オラァァァァ!」
拳に伝わる、確かな出応え。
宙を舞っていく、撫子の髪の少女。
その儚い美貌は拳の形に歪んでいる。
一撃KO、間違いなし。
「…よし、勝ったな」
グッ、と拳を天へと突き上げる。
やがて、長い滞空時間を経て、ユキの体は床へと叩きつけられた。
「がはっ! …ぐふっ」
短い断末魔を上げて、ユキの体は力なく倒れた。
完全なる再起不能。
その一瞬の。
あまりの光景に、アーニャと神無月は何も言えず、ぽかんと口を開いていた。
「「な、なななな―」」
言葉にならない声を震わせる。
やがて2人は、仲良くそろって叫ぶのだった。
「「何してるのよーーーーーーーっ!」」
その間抜けな悲鳴は、どこまでもこだましていく。
「ちょっと、ミク! あなたはバカなの!?」
「な、なんだよ?」
「よりにもよってユキを殴り飛ばすなんて! 見なさいよ、完全に白目を向いているじゃない!」
「あー。あたし、まどろっこしいのは嫌いなんだよねー」
ボリボリと頭をかきながら、ユキを介抱しているアーニャを見る。
「どうせアレでしょ? 大切な仲間が相手だと本気を出せない、とかそんな感じでしょ。そういう面倒なのとか、マジで勘弁。見てるだけでイライラしてくるし」
「だとしても、他にやりようがあるでしょ!」
「んー、思いつかなかった」
正直に話す。
あたしはどこまでも正直な人間だった。
「それにさ、こっちのほうが手っ取り早いだろ?」
「は? 手っ取り早いって、何が?」
「…悪い魔女をぶっ飛ばすには、だよ」
そう言って、あたしは視線をそちらに向ける。
艶やかな撫子色の髪を持つ、悪い魔女に。
「なぁ、神無月先輩よぉ?」
肩を回しながら、軽く準備運動を始める。
拳が疼く。
堪えようにも、笑みが止まらない。
…これは、やばいな。
…血が滾る!
「ふ、ふふふっ。どうやら、あなたは正気ではないようね」
神無月が薄いケープを揺らしがら優雅に微笑む。
「ははっ、テメェと同じくらいには正気じゃないかもな」
「そうですわね。仲間をいとも簡単に殴りつけるなんて。理解に苦しみますわ」
「ふん。それは違うな」
あたしは胸を張って言い放つ。
「ダチが人の道を外れようとしてるんだ。だったら、殴ってでも止めてやる。それが『仲間』ってもんだろうが」
…そう。
…心の一番大切なところは、全部ユキに教えてもらった。
「あたしはテメェと違って不器用でな。思いを言葉にするか、想いを拳にのせるか。そんな方法しか知らねぇんだよ」
そんなあたしの言葉を受けて、神無月は不機嫌そうに顔をしかめる。
「…今まであなたのことを頭が悪いと思っていましたが、どうやら訂正しなくてはいけないようですね」
「あ? 褒めてくれんのか?」
「まさか。あなたは私が思っていた以上に、頭が悪すぎただけです。…このケダモノが」
「はっ、今まで猪とか言われたことはあったけど、ケダモノはなかったな」
コキッ、コキッ。
拳を鳴らして、肩の力を抜く。
あぁ、この緊張感がたまらない。
自分でいうのもなんだけど。
…これは病気だな。
…喧嘩中毒ってやつだ。
「なぁ、神無月先輩よぉ。悪いんだけど、テメェをぶっ飛ばさないといけねぇ。…じゃないと、あたしの気が済まねぇんだ」
「ふふっ、同感ですわ。私もあなたにだけは灸を据える必要があると思っていますの」
ゆらり、と神無月が歩み出る。
それを見て、あたしは肩に羽織っている浴衣を脱いで、ユキに投げつけた。Tシャツとジーンズ姿で、
「はっ、来いよ。女の喧嘩ってやつを教えてやるぜ」




