第32話「盾を持たない守護者、と呼ばれるわけ」
やがて、無数にあった氷槍が全て砕かれていった。
誠士郎の後ろに通過した槍は、1つもない。
「お、おお~」
その光景に、ミクは思わず感嘆の声を漏らした。
…『盾を持たない守護者』。誠士郎の異名を、その目で確認することとなった。
「…さて、これで終わりではないでしょう?」
誠士郎は2つの細剣を鞘に戻しながら、無表情の魔法使いに訊ねる。
「…、…」
碓氷涼太は何も言わない。
そして返事だと言わんばかりに、魔法の詠唱を再開させる。
彼の足元に展開される魔法陣。
その青白い光を受けて、手にした魔導杖が氷華を咲かせ、散らしていく。
「…、…」
次に碓氷が行使した魔法は、氷の剣であった。
氷魔法の【氷結の大剣(エッジ】。先ほどの氷槍と比べると、明らかに大きく、そして堅牢そうな印象を受けた。
それが、10本。
誠士郎に向けて射出される。
ザシュッ!
空気を切り裂く音でさえ、先ほどとは段違いだった。
「…これは、堅そうですね」
鞘に納まった細剣に手を携える。
僅かに体を屈めて、前傾姿勢を強める。
そして、迫りくる氷塊の剣に向かって、神速の居合いを放つ。
サンッ―
歪むことのない剣筋。
巨大な氷塊を、己の剣のみで断ち切る。
次々と射出される【氷結の大剣(エッジ】。それらを2本の細剣で迎え撃つ。そして、砕いていく。
…だが、それは罠だった。
誠士郎の意識の外側では。
碓氷涼太が密かに、並列詠唱を終わらせていた。
「…、…」
音もなく輝きだす魔法陣。
それと同時に、何か巨大なものが地面から湧き上がってくる。
氷の結晶のように透き通っていて、岩の様に無骨だ。やがて、それは人の手のような形となっていく。とても巨大な、氷の右腕。
最上級魔法の【氷魔人の豪腕】。氷の魔法の中でも、最強の分類にわけられる威力を持つ。
「…、…」
碓氷涼太は何も言わない。
その無表情の眼差しで、目標に魔法を解き放つ。
ゴオォォッ!
空気の壁を薙ぎ払い、その氷の豪腕が誠士郎へと向かっていく。
その時になって初めて、氷の剣を薙ぎ払っていた彼は、自分に迫りくる轟音を耳にする。
だが―
「…だから、甘いと言っている」
誠士郎は振り返らない。
両手に持った2本の細剣で、氷塊の剣を打ち落とすことだけに集中する。
そして、氷魔人の豪腕に押しつぶされる、その瞬間―
ガンッ!
その巨大な拳が、弾き返されていた。
誠士郎の周囲には、盾を持った少女の精霊たちが、主を守らんと佇んでいる。
「…防御スキル、【アイギスの盾】。僕だけを狙う攻撃は、絶対に届くことはない」
守護騎士の防御スキル。【アイギスの盾】。
使用者本人にのみ作用するスキルで、一定時間のみあらゆる攻撃から身を守る。本来は緊急時に自分を守るスキルなのだが、誠士郎の場合、仲間を守るときにだけ使用している。強力なスキルで自身を守りつつ、己の剣技で仲間を守る。それができるからこそ、『盾を持たない守護者』と呼ばれているのだ。
キィン!
最後の氷の剣を叩き伏せる。
それを見ていた碓氷は、再び追撃のための詠唱を開始しようとする。
しかし―
「おらっ、ガラ空きだぜっ!」
銀色の閃光が、魔法使いの少年を貫いた。
今まで息を潜め、奇襲の機会を狙っていたジンの速攻だ。
「…ッ!?」
大型の魔導杖でジンの剛爪を防御するが、その場から弾き飛ばされる。
青白い魔法陣を空中に展開させつつも、間合いを詰められた魔法使いにできることは限られてくる。【無限詠唱】で自身の周囲に氷の刃を突きたてて、防御魔法で守りを固める。
「ミクっ! 上に行け!」
碓氷と対峙しているジンが、大声を上げる。
「この魔法バカは、俺と誠士郎で食い止める。お前は上にいるユキのところに行け!」
「え、でも…」
「早く行け! また【氷結の楽園】みたいな全域魔法をくらったら、全滅するぞ!」
ジンの切迫詰まった指示に、ミクは覚悟を決める。
「…アーニャ、行ける?」
「…うん」
ミクはアーニャの手をとって、まっすぐ2階への階段へ突き進む。
昇り終わって2階に着いたときには、再び激しい戦闘音が響き渡っていた。
「…いこう」
2人は互いの手を強く握り締めて、屋敷の奥へと進んでいった。
そして、そんな彼女たちを守るように。
男たちが、扉の前に立ちはだかるのだった―




