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第18話「■■■■先輩…」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「う、うん?」


 目を開くと、そこに広がっているのは夕暮れの校庭だった。


 赤い夕陽。

 黄昏の空。

 校舎も黄金色に染まり、放課後の緩やかな時間が流れている。


 下校する人。

 教室に残って話に華を咲かせる人。

 図書室で黙々と勉強をする人。

 遠くから響く吹奏楽の演奏が、少しだけ寂しげに聞こえてくる。


 グラウンドには、部活に精を出している人で溢れていた。陸上部が外周を走っていると思えば、サッカー部が念入りにストレッチをしている。隣の野球グラウンドでは、坊主頭の野球部が声を出して練習に励んでいた。


 …あれ? ウチの高校に野球グラウンドなんてあったっけ?


「あら、御影さんも帰るとこ?」


「よかったら、一緒に帰りませんか?」


 頭を過ぎった疑問が、一瞬にして飛ばされる。

 声をしたほうを振り返ると、クラスメイトの女の子が手を振っていた。

 …えーと、名前は何ていうんだっけ?


「あー、御影さん。また、ボーとしてるよ」


「最近、多いよね」


「まぁまぁ。年頃の女の子は憂鬱になることがたくさんあってよ」


 背の高いクラスメイトが皆を嗜めると。

 今度はこちらを向いて、やんわりと微笑む。


「でも、悩んでしまうのもわかります。なんて、あの方の目に留まったのですから」


「…え」


 …この人は。

 …何のことを言っているんだ?


「あーあ。いいなぁ。私もあの方と、お近づきになりたいなぁ」


「無理無理。私達とは住む世界が違うって」


「そうね。せめて御影さんくらい可愛かったらね」


 …可愛い。

 …『私』が、可愛い?


「えっと、ごめんなさい。皆は何のことを言っているの?」


 私はクラスメイトに尋ねると、彼女達はおかしそうに笑い出した。


「またまたぁ~」


「何を惚けてるの?」


「御影さんって、意外に天然系かな?」


 気がついたら、女の子達に囲まれている。

 前からも、横からも、後ろからも。

 彼女達の声が響いてくる。


 …頭が、くらくらする。

 …意識が、朦朧としてくる。


「お昼に、あの方から誘いを受けていたではありませんか。放課後に、校舎裏に来て欲しいと」


「そう、だっけ?」


 頭を軽く押さえながら必死に思い出そうとする。

 そう言われてみれば、そうだったかもしれない。


「そうですよ。さぁ、あの方が待ってますよ」


「校舎裏だよ。早く行ってあげて」


「自分の足で行くことが大事なんだから。ちゃんと迎えに行くんですよ」


 クラスメイトの背中を押されて、私は歩き出す。


 …頭が、ボーとする。

 …考えがまとまらない。それなのに、体が勝手に私を運んでいく。


 …校舎裏。

 …迎えに行く。

 …あの方。

 …それって、…ダレのこと?


 いくつもの疑問に答えを出せないまま、私はただ歩き続ける。

 そして、目的の校舎裏へとたどり着いた。


「ふふっ、待っていました」


 ドキッ。

 その声に、胸の鼓動が跳ね上がる。


「来てくれないのかと、心配になりましたよ」


 校舎裏に佇む、1人の女性。

 まるで絵画から抜け出したかのような美しさに、自然と目が奪われる。


 大人びた立ち姿。

 背が高く、すらりとした腰周り。

 脚も長くて、豊満な胸が窮屈そうに制服を押し上げている。

 そして、ピンク色に近い、撫子なでしこの髪。

 風が吹くたびに、その髪は妖しい魅力を放っている。


 …そうだ。

 …私は、この人と出会うためにここに来たんだ。


「ご、ごめんなさい! 先輩を待たせちゃって!」


 彼女の儚い表情を見て、慌てて言い訳をする。


「わ、私! 先輩に声をかけてられて、その、舞い上がっちゃったとかいうか! 本当は夢なんじゃなかなって! そんなことばかり考えて―」


 考えるよりも早く、口から言葉が出る。

 自分はどうしてこんなことを言っているのか?

 そんなことすら、考えられなくなっていた。


「ふふっ、いい子ね。優紀は」


 先輩は長い撫子色の髪をかき分けて、優しく微笑む。

 その笑顔に、心が解けていく。

 顔がどんどん熱くなり、胸の鼓動がいっそう早くなる。


 どうして?


 女の子同士、なのに?

 どうして、こんなにもドキドキするの?


「…先輩ぃ。…わ、私。…私!」


「ふふっ。いいのよ、無理に言葉にしなくても」


 先輩の細い指が、私に顎に触れた。

 その瞬間。

 体の力が抜けていった。

 私の全てを、この先輩に委ねてしまいたい。

 そんな欲望が、お腹の奥で疼き始める。


「ここに誘ったのは、わたくしなのですから。優紀は力を抜いて、わたくしの言葉だけ聴いていればいいの」


「…あぁ、先輩」


 足元がおぼつかなくなる。

 ふらふらになりながら、先輩の体にしがみつく。

 そのとき、先輩から百合の花の香りがした。その香りを吸うたびに、思考が朦朧としていき、…自分を失っていく。


 それが、異常なことだと気づくこともなく。


「…先輩。…あぁ、神無月かんなづき先輩ぃ」


 愛しいものを呼ぶような声は。

 私の耳にさえ届かない…



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[一言] 素晴らしいねえ百合の波動を感じます
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