第14話「そんな予感めいた朝」
東の海から太陽が昇る。
真夏の日差しが降り注ぐヴィクトリアでも、早朝は過ごしやすい。
海からの爽風が、開け放たれた窓から入ってくる。
波の音。
海鳥の声。
遠くから聞こえる蝉の音色。
『アクア・アルタ』が過ぎ去ってから、暑さも落ち着いていた。クイーンサイズのベッドで、女の子3人が横になっても寝苦しいなんてこともない。私は両脇の女の子たちの人肌を感じながら、ゆっくりと目を覚ました。
「…ふわぁ、…うん?」
体を起こして、窓の外を見つめる。
いつもよりずっと早い時間だ。こんな朝早くに目が覚めるなんて珍しいことだった。
「……なんか。頭が、ぼぉ~とする」
ふらふらと立ち上がって、窓辺へと歩み寄る。
今日はたまたまパジャマを着ていたので、外から覗かれる心配はない。
「…なんか、変な夢を見た気がするなぁ」
窓枠に寄りかかって、朝風に身を委ねる。
澄み切った空気を思いっきり吸い込む。
昼間の暑さが嘘のようだ。
「…う~ん、どんな夢だったっけ」
頭をかきながら昨日の夢を思い出そうとする。
だが、記憶に靄がかかっているようで思い出せそうにない。
なぜか体が重い気がする。
それなのに、芯のほうでは熱が籠っていて。特に、下腹部の奥からは今までにない感覚があった。…甘い、疼きだ。
カランッ。
カランッ。
遠くの時計台から、鐘の音色が聞こえてきた。
その直後、さっきまで自分が寝ていたベッドから、もう1人の女の子が目を覚ました。
「…んあ、朝か?」
燃えるような赤い髪をガシガシかきながら、窓辺にいる私を見つめる。
「おう、ユキ。あたしより早く起きるなんて珍しいね」
「おはよ、ミク。…目が覚めちゃって」
「なんだ? 浮かない顔をして?」
「…なんか変な夢を見てた気がするんだけど、それがどうしても思い出せなくて」
「なんだ、夢の話か」
ミクは興味なさげに答えると、ベッドから起き上がる。
そして、いつものスウェットを取り出すと、準備運動をかねて屈伸を始めた。
「じゃ、あたしはランニングに行ってくるから」
「うん。朝ごはんは、私が用意するよ」
背筋を伸ばしている彼女の背中に声を掛ける
すると、ミクが不思議そうな顔をした。
「…ん? ユキ。今、自分のこと『私』って言わなかった?」
「え? 言ってないよ。ボクはいつも通り、ボクだよ」
ボクは首を傾げる。
ミクは何を言っているんだ? いくらボクが女の子になったからって、そんな簡単に心まで変わるわけないじゃないか。
「ふ~ん。まぁ、いいや。あたしからしたら、『ボク』でも『私』でも、呼びやすいほうでいいと思うし」
「だから、違うって。ほらほら。早くしないと、朝ごはん食べてる時間がなくなっちゃうよ」
「へーい」
そう言って、ミクが玄関から出て行った。
走り出す彼女のこと見送りながら、ボクは違和感のようなものを感じていた。
いつもとどこか違う。
そんな予感めいた朝であった―




