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第4話「夏の風物詩。アクア・アルタ」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 

 

 海の音が聞こえる。


 引いては返す、優しい波音。

 潮風と海鳥の囀り。

 そんな海の息吹が、柔らかく包み込んでいる。

 ヴィクトリアは干潟を埋め立てて造られた国だから、海が身近にあるのは当然だ。それにしても、今日はいつになく海を身近に感じる。

 

 チャプ、チャプ。

 チャプ、チャプ。


 寝起きの微睡まどろみの中、そっと目を開ける。

 澄んだ空気。

 心地よい涼風。

 太陽は青空に輝いているのに、昨日までの酷暑は微塵もない。


 チャプ、チャプ。

 チャプ、チャプ。


 それになんだろう。

 この穏やかな波の音は。

 まるで、海に包まれているようだ。


「…ん」


 太陽の光に目を擦りながら、窓の方へと視線を向ける。

 昨夜から開け放たれている窓からの景色を見て―


「…は?」


 眠気が消し飛んだ。

 家の壁と、路地しか見えない風景が、…海に沈んでいた。


「…っ」


 ガバッと、跳ね起きる。

 そして、窓枠から乗り出す勢いで外の風景を見つめた。


 何度、目を擦っても見間違いはない。


 いつも通っている細い路地が、水面に覆い尽くされていた。

 チャプチャプと優しい音色を奏でながら、キラキラと太陽に美しく反射する。


「っ! …空を駆けろ、【エアリアルドライブ】!」


 空中移動のスキルを発動させながら、3階の窓辺から飛び出した。

 そして、そのままアパートの壁を垂直に駆け抜けて、一気に屋上を目指す。


 タンッ。

 5階建てのアパートの屋上。

 赤レンガの屋根を踏みしめながら見える景色に、言葉を失う。


「…うそ」


 運河と水路を敷き詰めた国。細い路地が迷路のように入り組んでおり、宮殿の前には荘厳なサンマルコ広場が佇んでいる。海洋国家ヴィクトリアを象徴するその全てが、…海に覆われていた。


 国中に波の音色が満ちて、太陽の輝きを受けて燦然と輝く。

 普段は薄暗い路地裏も、光の届かない水路も。

 わずかな曇りもなく、きらきらと煌く。

 その景色は、本当に―


「…すごい」


 泣きたくなるほど、美しかった。



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