第37話「狙撃少女vs海龍王」
「誠士郎先輩!」
時計塔から身を乗り出して、港にいる誠士郎先輩を見る。
…そうだ。
…今の私たちには、『最強の盾』がいる!
「まだ、やれる!」
再びうつ伏せとなり、『魔銃ヘル』を構え直す。
だが、時間はない。
リヴァイアサンの姿が、さらにはっきりと見えている。
先ほどの大海嘯とともに、こちらへ突進してきているのか。あんな巨大なモンスターが上陸してしまっては、大惨事は免れない。
『ウンディーネの抱擁』も、直接攻撃だけは防げない。
私は引き金に指をかけながら、ひっそりと呟く。
「…やらせない」
…『スナイプアイズ』を発動。
瞳が琥珀色となり、視界が明瞭となる。
狙うは、リヴァイアサンの眼球。
突進してくる彼のモンスターに、弱点へのピンポイント狙撃。
針に糸を通すような正確な射撃と、ミスは許させない重責。
そんな恐怖の前にして、私は自分を奮い立たせる。
…私は弱い。
…心は硝子のように傷つきやすく、精神は砂のように脆弱だ。
…でも、だからこそ。
…自分を奮い立たせる方法を知っている。
「やらせない。皆が生きているこの国を。傷つけさせない!」
銃口に魔法陣を展開。
意識を集中させて、 引き金を引く。
射出される『魔弾』。
銃弾は真っ直ぐ飛んでいき、…そして、弾かれた。
『…おしい。…あと、5センチ下』
「くそっ!」
悪態を吐きながら、ボルトハンドルを勢いよく引く。
カシャン、と音を立てて薬莢が宙に弧を描く。
「まだだ! 次こそは…」
再び、ボルトハンドルを押し込んで銃弾を再装填する。
その時だ。
遥か彼方から、無数の水弾が飛来してきた。
「っ!」
私は目を張りながら、急いで姿勢を低くする。
だが、そんな心配はいらなかった。
空間を切り裂くような水弾も、『ウンディーネの抱擁』に触れた瞬間。音もなく弾かれ、そのまま消えていく。無数の矢のように降り注ぐ水弾だったが、ただの1つもヴィクトリアに到達していなかった。
「さすが! こんなときは本当に頼りになる!」
時計塔から顔を出して、誠士郎先輩の方を見ようとする。
だが、その時に。たまたま近くに飛んできた水弾が、…『ウンディーネの抱擁』の淡いカーテンを突き破ってきた。
「ちょっ!」
慌てて頭を低くさせる。
水弾は時計塔から僅かに反れて、すぐ隣を轟音と共に通り過ぎていく。直撃はしていないというのに、100メートルはある時計塔がギシギシ軋みだす。
「ちょっと、この誠士郎っ! ちゃんと守りなさいよ!」
当の本人には聞こえているはずはないが、それでも叫ばずにはいわれなかった。
…やっぱり、グズグズしていられない。
銃弾を手にとって、再装填。
そして、間髪いれず狙い撃つ。
ズドン!
体中の骨がどうかしてしまいそうなほどの衝撃。
苦痛に顔を歪ませながら、コトリの声を待つ。
『…ダメ。…当たってるけど、リヴァイアサン。…止まらない』
私は額の汗を拭うこともしないまま、次の射撃の準備をする。
…やっぱり、目じゃないとダメージが入らないのか。
…でも、当たれさえすれば。
…確実に息の根を止められる!
「くっ!」
ボルトレバーを引く手にも力が入らない。
なんて非力なんだろう。
歯を食いしばって、両手で無理やりボルトを開放させる。
空薬莢が滑り落ちて、カランと音を立てる。
「はぁはぁ…」
そろそろ、私の体も限界だ。
こんなにも反動の強い銃を、連続で何発も撃ってはいられない。
ストックを支える肩はガタガタ震え、銃に密着させている頬は摩擦で既に感覚がない。
「…これで、最後にして欲しいかな」
手を伸ばして、新しい銃弾を掴む。
その時だ。
普段、穏やかなはずのコトリが、焦ったように早口になった。
『…ユキ、危ない!』
「え」
顔を上げて、海のほうを見る。
そこにあったのは、巨大な水の激流。
リヴァイアサンから放たれた最強の攻撃が、目の前に迫ってきた。
…まずい!
…直撃だ!
逃れようのない攻撃を前に、一瞬にして恐怖に包まれる。
だが、その一瞬で。
私は叫んだ。
「…【クイックドライブ】ッ!」
一瞬を永遠に引き伸ばす、サポートスキルを発動。
周囲の音が遠ざかり、迫り来る激流も動きを緩慢にさせる。
「っ!」
考えている余裕はなかった。
私は『魔銃ヘル』を抱きかかえると。
そのまま、時計塔の頂上から飛び出していた―




