表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/358

第34話「右手を引き金に、左手を銃身に。…覚悟を決めろ!」


『魔銃ヘル』が悪魔の咆哮を放つ。

 放たれた銃弾は狙いを違わず真っ直ぐ飛翔し。


 そして、外れていた。


『…外れた。…右に、それた』


 コトリの言葉に、耳を窺う。

 なぜ、ボクは撃ってしまったんだ?


『…気づかれた。…次を、いそぐ』


「っ!」


 ボクは慌てて、スコープを覗き込む。

 遠洋に佇む小さな影。点としか形容できないような海龍王のシュルエット。


 そこが一瞬、青く光った。


「っう!」


 ボクは反射的に頭を下げた。

 その直後、空気を切り裂くような轟音が響いた。遥か遠方から放たれたリヴァイアサンの攻撃ブレス。高速に射出された水の塊が、ヴィクトリア上空を突き抜けていったのだ。


「…くっ」


 ボクは『ヘル』にしがみつきながら、慌てて辺りを見渡す。

 ヴィクトリアの町並みには変化がなかった。


 ただ一点。

 海龍王の攻撃が過ぎ去った北の空に、薄い雲がぽっかりと穴が開いていること以外は。


「…うそ」


 天も裂く一撃。

 そのありえない光景に愕然とする。


 深海の主。

 海の覇者。

 アドリア海の悪魔。


 その片鱗を見せられて、ボクは激しく動揺する。

 あんな攻撃がヴィクトリアに直撃したら…

 想像されるのは、破壊されたこの国の姿。多くの人が傷つき、悲しむだろう。もしかしたら、誰も生き残れないかもしれない。ボクは揺れる目で、広場の正面にあるヴィクトリア宮殿を見る。海龍王の逆鱗に最も触れやすいあの場所には、アーニャがいる。


 あの攻撃ブレスがこの国に直撃するようなことがあれば、海に面している宮殿が一番危険だ。

 …アーニャが、危ない。


「ボ、ボクが…」


 ボクは震える手で、『ヘル』の隣に並べてある銃弾の箱に手を伸ばす。

 蓋を開けて、大きな銃弾を手にとって、…そして落とした。

 カタン、と小さな音を立てて、ころころと転がる。


「ボクが、なんとかしないと…」


 うわ言のように呟きながら、転がる銃弾に手を出そうとする。

 その時だ。

 再び、さきほどの轟音が上空に響き渡った。


「っう!」


 繰り出される、高速の水弾ブレス

 上空の空気を引き裂いては、わずかな水滴をヴィクトリアに滴らせる。繰り返される圧倒的な攻撃に、ボクの心は折れそうになっていた。


 …こんなの、無理だよ。

 …こんなことボクには向いていないんだよ。

 …逃げ出したい。

 …こんなのが相手なんて聞いてないよ。

 …リヴァイアサンが来るなら、もっとちゃんと準備をしてたよ。


 ぐるぐると頭の中を駆け巡るのは、失敗したときの言い訳。


 いつだってそうだ。

 ボクは、失敗する前から、失敗したときのことを心配している。

 そんな自分が、…すごく嫌いだ。



『自信がないフリはもう止めろ』

『失敗したときのことを考えて、逃げ道を作っておくな』



 胸に響いた親友ジンの言葉が、再び耳を打つ。


 …そうだ。

 …ボクはすでに、逃げ出していたんだ。

 …目の前の困難に立ち向かうどころか、背を向けて見ないフリをしている。


 それは、冒涜だ。

 遠洋にまで戦いに行ったジンやゲンジ先輩。その2人に、命を懸けるような思いで船頭した軍の人たち。街の住人を守るために奔走する警備隊。今も宮殿の一室で今後の対策を考えているハーメルンさんや、今後の全ての責任を負うであろう王女のアーニャ。


 …ボクの行為は。

 …彼らに対する冒涜だ。


 …戦うこともせず。

 …向き合うこともせず。

 …バカの1つ覚えのように。

 …逃げ出す理由を考えている。


 …そんな自分が。

 …本当に、大嫌いだ!


「ふんっ!」


 パシッと、思いっきり頬を叩く。

 恐怖を振り切って、気合を入れなおす。


 …失敗したときのことを考えるんじゃなくて、成功させる方法を考えるんだ。

 …自信がない?

 …そんな独りよがりの安心感なんて、クソくらえだ。

 …虚勢を張って、震える足で踏ん張って。

 …覚悟を決めろ!


 ボクか転がった銃弾に手を伸ばすのを止めた。

『ヘル』のグリップを握り締めている左手を離して、ストックから肩と頬を離す。

 そして、目を閉じた。


「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」


 何度も、何度も、落ち着くまで呼吸を繰り返す。

 そうしている間にもリヴァイアサンの攻撃ブレスが上空を掠めていく。たまに港の海面に着弾し、ものすごい高さの水柱を立ち上がらせる。


「すぅー、はぁー。…よし」


 呼吸が落ち着いた。

 あれだけ激しかった動悸も治まり、汗ばんだ手も今は乾いている。


 そっと目を開く。

 遥か遠洋のリヴァイアサンの影。

 肉眼で見ても、近づいているのがわかる。


「…好都合、だよね」


 リヴァイアサンはこちらに接近しながら、攻撃をしてきている。

 これは、好機だ。


「…コトリ。リヴァイアサンの迎撃はできそう?」


『…難しい。…あと、ちょっとで追いつける。…そしたら、可能』


「…わかった。ありがとうね」


 それだけ言って、再びうつ伏せになる。

 お気に入りのワイシャツとスカートだけど、今はそんなことどうでもいい。


 右手を引き金に。

 左手を銃身に。

 肩と頬をストックに当てて、スコープの視界に目を合わせる。全長2メートル以上ある巨大な狙撃銃が、体の一部となっていく。わずかな違和感もなく、『魔銃ヘル』は、その身を委ねてくる。


 そして、は…

 自分の中のスイッチを、カチンと入れた。


「これから狙撃する。コトリ、着弾観測をお願いね」


『…うん、…わかった』

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ