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第27話「彼女と彼女の想い②」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「あー、何であんなこと言っちゃんだよ! このあたしのバカ!」


 真っ赤な髪をガシガシかきながら、あたしは唸っていた。


「だいたい、ユキもユキよ! なんで、あたしの気持ちを察してくれないのよ! そう思わない、コトリ?」


「…ミク、…うるさい」


 コトリが抑揚のない声で返事をする。

 この表情の変化に乏しい友人は、あたしの悩みを知る数少ない人だった。知り合ったのが高校入ってからで、その表情を読むのに慣れたのも最近のことだけど、それでもあたしの大切な友達の1人だと、胸を張って言える。


「ねぇー、コトリ。どうしたらいいと思う?」


「…とりあえず、…ユキに謝る」


「そんなことわかってるよ! だけど、その謝り方がわかんないのよ!」


 ボフッ、とぬいぐるみの山にダイブする。その衝撃で小さなぬいぐるみが宙に舞い、ぽとぽととあたしに降ってくる。


「…ってか、コトリ。あんた少しは片付けたら?」


 コトリの部屋は、…無法地帯になっている。

 とにかく物が散乱しているのだ。ぬいぐるみやクッションだけならまだしも、服や下着までもが、部屋のあちこちに散らばっている。ベッドを置く場所なんてないから、天井に吊るしたハンモッグがコトリの寝床だ。


「…片付け、…難しい」


「いやいや、女子としてダメでしょ。彼氏を呼ぶときとか、どうするの?」


「…わたしが行くから、…いい」


 あ、そっすか。

 コトリの散らかし癖は今に始まったことじゃないから、別に驚くことじゃないか。それにジンのことだから、何も言わず綺麗に整頓しちゃうでしょ。…と、コトリの相手を勝手にジンと決めてしまう。


 まー、お似合いだしね。

 …あたしとユキとは、大違い。


「はー、どうしよう」


「…ミクは」


 ぼそり、とコトリが呟く。


「…もっと素直になったほうが、…いい」


「素直って言われても、告白みたいなことまでして、これ以上何に素直になれっていうのよ」


 思わず、あたしは笑ってしまう。

 自分でも、あの告白はなかったわー、と思ってたりするわけで。だから、コトリに素直になれって言われても、どうしようもないわけで。


「…ううん、…そうじゃない」


 透き通る水色の瞳が、あたしを見据える。


「…素直になるとこ、…まちがってる」


「だから、あたしは―」


「…言わないと、…わからないの?」


 ぞくり。

 あたしの背筋が凍りつく。

 心の底まで見透かされているようで、少しだけ怖くなる。この気持ちだけは、誰かに知られるわけにはいかない。


「…あ、あたしは」


 無理やりにでも答えようとする。

 だけど、コトリに見据えられたまま、あたしは何も言い返せない。


「…だいじょうぶ」


 コトリの水色の瞳が、わずかに緩む。


「…ミクは、いい子。…がんばれる、強い子。…だから、…だいじょうぶ」


「はは、なんか、お姉さんみたいなこというんだね」


 まったく、もう。 

 実際の歳は同じでも、こんな小さい子に励まされたんじゃ、なんか納得できない。…少し、からかってやるか。


「そ、そういえばさ。ジンとユキって、仲がいいよね」


「…うん。…2人は親友」


 こくり、と小さく頷くコトリ。


「でも、今はユキが女の子なわけだし。もしかしたらジンの奴、ユキに惚れちゃうかもね」


 ちょっとだけ、意地悪なことを言ってみる。

 ジンとユキがそんな関係になることなんて、絶対にありえないし。どうせ、コトリも無表情に返してくるんだろうな。


「…は?」


 コトリの表情が、固まった。

 目の焦点が怪しくなり、完全に凍り付いてしまう。


「って、おーい」


 あたしが軽く揺すってみると、思い出したかのように動き出した。


「ちょっと、どうし―」


「…盲点だった」


「へ?」


 肩をガタガタ震わせながら、視線をあちこちに彷徨わせる。

 コトリが、…動揺している!


「…ジンが、女狐ユキに盗られる。…急がないと、…急がないと!」


「おーい」


「…作戦を、…変更しないと!」


「あたしの話を聞いてる? ってか、急に片付け始めてどうする気?」


「…片付けじゃない。…荷造り」


「荷造り? って、引っ越す気なの!?」


「…うん。…作戦の変更。…『バッチリがんばれ(通い妻)』から、『ガンガンいこうぜ(押しかけ女房)』に変える。…あの女狐に、…ジンはやらない」


 そう言い切ったコトリは、女の顔をしてた。

 戦う女の顔だった。


 …やばっ。

 …なんか、変なところに火をつけちゃったかも。


 黙々と荷造りをしているコトリを見ながら、あたしは自分の軽口を少しだけ後悔していた。


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