第27話「彼女と彼女の想い②」
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「あー、何であんなこと言っちゃんだよ! このあたしのバカ!」
真っ赤な髪をガシガシかきながら、あたしは唸っていた。
「だいたい、ユキもユキよ! なんで、あたしの気持ちを察してくれないのよ! そう思わない、コトリ?」
「…ミク、…うるさい」
コトリが抑揚のない声で返事をする。
この表情の変化に乏しい友人は、あたしの悩みを知る数少ない人だった。知り合ったのが高校入ってからで、その表情を読むのに慣れたのも最近のことだけど、それでもあたしの大切な友達の1人だと、胸を張って言える。
「ねぇー、コトリ。どうしたらいいと思う?」
「…とりあえず、…ユキに謝る」
「そんなことわかってるよ! だけど、その謝り方がわかんないのよ!」
ボフッ、とぬいぐるみの山にダイブする。その衝撃で小さなぬいぐるみが宙に舞い、ぽとぽととあたしに降ってくる。
「…ってか、コトリ。あんた少しは片付けたら?」
コトリの部屋は、…無法地帯になっている。
とにかく物が散乱しているのだ。ぬいぐるみやクッションだけならまだしも、服や下着までもが、部屋のあちこちに散らばっている。ベッドを置く場所なんてないから、天井に吊るしたハンモッグがコトリの寝床だ。
「…片付け、…難しい」
「いやいや、女子としてダメでしょ。彼氏を呼ぶときとか、どうするの?」
「…わたしが行くから、…いい」
あ、そっすか。
コトリの散らかし癖は今に始まったことじゃないから、別に驚くことじゃないか。それにジンのことだから、何も言わず綺麗に整頓しちゃうでしょ。…と、コトリの相手を勝手にジンと決めてしまう。
まー、お似合いだしね。
…あたしとユキとは、大違い。
「はー、どうしよう」
「…ミクは」
ぼそり、とコトリが呟く。
「…もっと素直になったほうが、…いい」
「素直って言われても、告白みたいなことまでして、これ以上何に素直になれっていうのよ」
思わず、あたしは笑ってしまう。
自分でも、あの告白はなかったわー、と思ってたりするわけで。だから、コトリに素直になれって言われても、どうしようもないわけで。
「…ううん、…そうじゃない」
透き通る水色の瞳が、あたしを見据える。
「…素直になるとこ、…まちがってる」
「だから、あたしは―」
「…言わないと、…わからないの?」
ぞくり。
あたしの背筋が凍りつく。
心の底まで見透かされているようで、少しだけ怖くなる。この気持ちだけは、誰かに知られるわけにはいかない。
「…あ、あたしは」
無理やりにでも答えようとする。
だけど、コトリに見据えられたまま、あたしは何も言い返せない。
「…だいじょうぶ」
コトリの水色の瞳が、わずかに緩む。
「…ミクは、いい子。…がんばれる、強い子。…だから、…だいじょうぶ」
「はは、なんか、お姉さんみたいなこというんだね」
まったく、もう。
実際の歳は同じでも、こんな小さい子に励まされたんじゃ、なんか納得できない。…少し、からかってやるか。
「そ、そういえばさ。ジンとユキって、仲がいいよね」
「…うん。…2人は親友」
こくり、と小さく頷くコトリ。
「でも、今はユキが女の子なわけだし。もしかしたらジンの奴、ユキに惚れちゃうかもね」
ちょっとだけ、意地悪なことを言ってみる。
ジンとユキがそんな関係になることなんて、絶対にありえないし。どうせ、コトリも無表情に返してくるんだろうな。
「…は?」
コトリの表情が、固まった。
目の焦点が怪しくなり、完全に凍り付いてしまう。
「って、おーい」
あたしが軽く揺すってみると、思い出したかのように動き出した。
「ちょっと、どうし―」
「…盲点だった」
「へ?」
肩をガタガタ震わせながら、視線をあちこちに彷徨わせる。
コトリが、…動揺している!
「…ジンが、女狐に盗られる。…急がないと、…急がないと!」
「おーい」
「…作戦を、…変更しないと!」
「あたしの話を聞いてる? ってか、急に片付け始めてどうする気?」
「…片付けじゃない。…荷造り」
「荷造り? って、引っ越す気なの!?」
「…うん。…作戦の変更。…『バッチリがんばれ(通い妻)』から、『ガンガンいこうぜ(押しかけ女房)』に変える。…あの女狐に、…ジンはやらない」
そう言い切ったコトリは、女の顔をしてた。
戦う女の顔だった。
…やばっ。
…なんか、変なところに火をつけちゃったかも。
黙々と荷造りをしているコトリを見ながら、あたしは自分の軽口を少しだけ後悔していた。




