あまい告白はいかが?
会場に用意された待合室。
入り口の扉を少し開けて、フランシスとコレットは隣りあってソファに座っている。
「手紙は、書き直したものを必ずお渡ししますから――」
「気にしませんよ」
ずいとだされた手に遠慮して、ひしゃげた手紙を後ろ手に隠した。
「ずっと待っていたのに、これ以上待てとおっしゃるのですか?」
そこを責められると、つらいものがある。コレットは、今度は手紙を伸ばそうと必死になった。
「気にしないといったのに」
手紙は横からさらわれて封を切られた。中を読んでいるフランシスの横顔をみながら、コレットは手持ち無沙汰で髪を撫でようして、気がついた。
(私の髪、ボサボサになっているんじゃないかしら?)
とれかけた髪飾りが指に触れた。ジルベールと揉み合ったあと派手に転んだことを思い出して、サーっと全身が冷えいく。
「私、すこし身だしなみを整えてまいります」
立ち上がったコレットは、すぐに腕を掴まれて勢いよくソファに沈んだ。
「まだ、済んでいないのに、どこにいくつもりですか?」
「ですが、髪もドレスも、人前に立てないほど乱れていますし――」
「ここには誰もいませんから、気にしなくていい」
気にする。すごく気にする。一番美しい姿で会いたかった人が、目の前にいるのだから。
(フランシス様がよくても、私が耐えられないのです!)
叫んで逃げだしたいのに、掴まれた手からは絶対に離さないという圧が伝わってくる。
少し怒った様子もあり、コレットは席を外すことを諦めたようだ。
髪飾りを外して、流れ落ちる髪を手で撫でつけた。少しでもマシになるよう足掻いているのだ。
その様子に目を細めたフランシスが、髪をひと房すくって、コレットの耳にかけた。
「諦める必要はないと伝えたら、変わらず慕っていただけるのでしょうか?」
掴まれたままの腕と耳元に留まった手のあたりが熱い。緊張に支配された頭では、気の利いた返事を考えられなかった。
開いた口から言葉は紡がれず、閉じて開いてを繰り返えしている。
「諦めると決めたせいで、ほかの者に気が向いてしまいましたか? ――例えば、ノエルとか」
「の、ノエル様、ですか?」
確かにノエルはシルフォン家が従属するクルヘン領の公爵令息で、接点はあるほうだ。
ただ、親密な関係を疑われるような交流は一切ない。
掴まれていた手が外されて、掬うように指先を握られた。
フランシスが、手の甲に口をつけている。
「っ!」
「以前、このように親密な挨拶を交わしているところをみせられましたから」
ちょうど、フランシスがコレットへの想いを自覚しはじめたときだった。全身を駆け巡る嫉妬心を抑えるのに苦労したのだ。
「あれは、そのような意味はないかと。――確かに、少し驚きましたけど」
指先からこちらを見据える真剣な眼差しから、目が外せない。
諦めなければと決めた日から、食事が喉も通らなくなるほど焦がれていた人だ。
目頭も顔も体中が熱くなって、なにも考えられない。
「なら、私にもチャンスは残っていますか」
「あの――」
「あなたのことが好きです。私を選んでくださいませんか?」
息をすることも忘れて、フランシスに見入っていた。
「いや、違うな」
今度は、コレットの両手をしっかりと握りしめて、フランシスは穏やかに微笑んだ。
「私は君を諦めたくない。どうか受け入れてほしい」
「――あ、あの」
イエス以外の答えは受け付けないと、そういわれたのだ。
握られた手は、答えを聞くまでは放してくれそうにない。
あまい気持ちにのまれてしまったコレットは、小さく頷き返すのがやっとであった。
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