理想のドレスを作ろう!
光沢とハリのある布地に裾野の広がったドレスの裾を持ち上げて、レティシアがクルクルと回る。金糸で描かれたアマンド国風の柄が、ランプの光でチカチカと華やいでいる。
頬を紅潮させて、ソファに座るコレットのところへ飛び込んできた。
「みてください。トルテ国のドレスパターンをアマンド国の布地と飾りで作ったら、こんなに可愛くなったんです!」
こぼれんばかりの笑顔で、ドレスを喜んでいる。
「ええ、とっても素敵です。これならトルテ国でも目を惹きますわ」
コレットの評価に、レティシアは歓喜の声をあげる。一部始終に気をよくしたカロリーヌは、自慢げにドレスの制作秘話を語りはじめた。
「染色前のアマンド国の布地を仕入れて少し薄い色を選んでみたわ。私は胸元の刺繍の光具合が気に入っているのよ。フリルやレースに引けをとらないのが気に入っているわ」
最初の茶会で約束した、ドレス試作品第一号がついに仕上がったのである。
「次はこのデザインを作ろうと思うの。どうかしら?」
「試作品は、わたくしの普段着のドレスになるのです。これは楽に着用できて本当に嬉しいわ」
「レティシア様、ようございましたね! うっうっ」
控えていたセレサが、感極まって泣きだした。
「カロリーヌお姉さまは、このドレスに合うランジェリーも一式用意してくださったの」
「カロリーヌ――おねえさま?」
「レティシア様がそう呼びたいとおっしゃったの。別に問題ないでしょ?」
照れ隠しにそっぽを向いたカロリーヌにも、驚いた。
困惑しているコレットに、レティシアが無邪気にお願いをした。
「アガットお姉さまがアマンド国にいってしまって、寂しいの。コレットお姉さまと呼んでもいいですか?」
潤んだ瞳でその理由を聞かされたなら断われない。カロリーヌがあっさり許可したわけである。
「公の場では、名前を呼び捨てしてくださいね」
「やった! ありがとう、コレットお姉さま」
(か、可愛らしい妹ができたと、思うことにしましょう)
随分身分の高い妹ができてしまった。
先程まで泣いていたセレサが、銀のトレイに載せた二通の招待状を運んできた。レティシアが急に大人しくなる。
「お母様が、おふたりを絶対に招待しなさいって」
お母様とは、トルテ国の第二后妃殿下である。驚いて受け取った招待状を開くと、そこにはレティシアのお披露目会の日取りが記されていた。
レティシアの定まらなくなった視線に心配するセレサをみれば、乗り気でないとすぐにわかった。
「素敵だわ。主賓なら一番美しく着飾って楽しまなきゃ! そうよね、コレット」
「ええと、どのドレスで参加するのがいいかしら」
「あんたの話じゃないわよ。レティシア様のお話よ!」
下唇をきゅっと結ぶレティシアは、お披露目会なんて嫌だと無言で訴えている。
コレットとカロリーヌの視線が交差した。
(ねぇ、これって内々で揉めたあとなんじゃない?)
(私たちが参加すれば、レティシア様も頑張れるってことよね?)
(なんとか参加させてほしいっていう、遠回しの依頼な可能性もあるわよ)
(みんなで一緒に参加できれば、楽しめるものね)
長年の友人とは目線で会話も成立するのだ。ふたりは次にセレサをみた。懇願を宿した瞳で大きく頷いたので、予想は当たっているようだった。
「レティシア様、私は持てるすべての技術を駆使して、素敵なドレスを作ります」
ぴくりとレティシアの肩が少しだけ動いた。興味は引いたようだ。
「ランジェリーも体に優しいものを用意しましょう。当日を元気いっぱいに楽しめますよ!」
上目遣いでこちらをみてきた。が、その表情はまだ暗い。もうひと押し。
「えーっと、えっと。――そうだ! 三人お揃いのドレスで参加しましょう」
「カロリーヌ、それはちょっと冒険しすぎ――」
「ほんとう!?」
コレットが止める前に、レティシアが叫んだ。
「お揃いのドレスなんて、はじめてです!」
ひとり他国で過ごしていたレティシアは、姉妹でのお揃いコーデなんてしたことがない。療養生活が中心で離宮に籠りきりだったため、お揃いを着ようといってくれる友人も作れなかった。
「うわぁぁぁぁん! よかったですね、レティシア様」
感涙するセレサと、感激するレティシアに、コレットは観念して別の不安を友人にぶつけた。
「カロリーヌ、間に合いそう?」
その問いに、カロリーヌは渋い顔をした。正直苦しい。でも言いだしっぺが今さら止めるとかいえる空気でもない。
(アマンド国とトルテ国の文化を融合したドレスなんて、素敵に決まっているもの。これは理想のドレスを作れるチャンスよ)
最近、コレットからの大量お直しで、過去最高の作業速度を更新したばかりである。
好みの作品を作る場合は、疲労やストレスなどはゼロになる。
よし、イケる。
「レティシア様も驚くような理想のドレスを作ってみせるわ。そうと決まれば善は急げよ!」
シュバっとスケッチブックとパステルを取りだしたカロリーヌが、デザイン画をかきはじめた。
こうなると話し掛けても返事もしないので、コレットは頬に片手を添えて困った様子をみせる。
「コレットお姉さま、あのね――」
隣にちょこんと座ったレティシアが、もじもじしながらコレットの袖を掴んだ。
「なんでしょうか、レティシア様」
「お姉さまたちが一緒なら、お披露目会、頑張れると思います」
可愛いらしくて、思わず両手で抱きしめていた。
「みんなレティシア様に会えることを楽しみにしていますから。心配いりません。大丈夫です」
暖かい腕のなかで、レティシアは目を細める。
本当は三人だけでずっと楽しく過ごしていたい。
それが許されないことはわかっているつもりだ。
レティシアをとりまく環境は彼女の意思を無視して勝手に進められていく。
決まったことへ、うまく対応できないと、厳しい評価を突きつけられる。
がんばりたい思う気持ちと、恐怖で怯える心に挟まれて、レティシアはふたたびすべてを拒絶しようとしていた。
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