問題児の第二王女(2)
「わたくし友達とか作る気はないの。でも、あなたたちの立場もあるだろうし、適当にお茶を飲んで時間を潰してから帰ってくれるかしら」
つっけんどんな物言いに、コレットとカロリーヌは素知らぬ顔で空いている席に着く。
動じないふたりに驚いたレティシアは、バレないように横目で客人を観察した。
侍女がお茶を淹れ終えたところで、様式の違う茶器の使い方を質問して、ひとくち飲んで茶葉の種類を尋ねている。
今までレティシアの元に送り込まれてきた令嬢たちは、まずこの部屋とレティシアの姿に困惑して、瞳に侮蔑の色を浮かべていた。
目の前のふたりはどうだろうか。
「まあ、みてよカロリーヌ。このお菓子は油で揚げてあって砂糖がいっぱいまぶしてある。なんて素晴らしいお菓子なのかしら!」
「なに喜んで食べているのよ。減量中なんだから、ひとつだけにしなさい」
忠告を無視し恍惚とした表情で揚げ菓子を頬張っている。もう一方は、先ほどから部屋を見回したり、織物やクッションを撫でてニヤニヤしていた。
(ふつうに楽しんでいるみたい。――変な人たちだわ)
ジェラト公爵家からの紹介なので危険な人ではないはずだ。けれど今まで招いた令嬢たちと異なる反応に、レティシアは興味をもった。
「そちらの、カロリーヌさんは、なにをしていらっしゃるのかしら?」
レティシアが問いかけると、カロリーヌは少し驚いて振り向いたあと、ニッコリと笑った。
「アマンド国の布地に少々興味がありまして。思わず手触りを確認してしまいました。見苦しいところをおみせしてしまい申し訳ありません」
ハキハキと答えるカロリーヌの瞳からは、ほの暗い感情は窺えない。
(――少しは、マシな令嬢もいたということかしら)
異国から嫁いだ後ろ盾のない第二后妃の産んだ第二王女。
取り入るには旨味がなく、ずっと国外で療養生活をおくっていたから、トルテ国の既知に疎いだろうと侮るような態度をとる者は多い。
取り繕っても、よくない感情というのは言葉の端々に現れるものだ。あるいは空気に滲みでる。
目の前にいるふたりからは、レティシアへの悪い感情はないようだ。
しかし先ほど失礼な態度をとったので、拗れるのは時間の問題な気もする。
(仕方ないわ。わたくしは、どうせ受け入れてもらえないもの)
レティシアは、今身に着けているアマンド国の服装が動きやすくて気に入っている。トルテ国の淡い色にレースやフリルをふんだんに使ったドレスも可愛いとは思う。ただ、やはり慣れ親しんだ服を着たいのだ。
けれど、レティシアの装いに国王である父は難色を示した。周囲の侍女や兵士にも奇異の目を向けられて、最後には第二后妃の母にまで着替えるようにいわれてしまった。ならば人前にでるときだけトルテ国のドレスを着るようにしたのだが、それをみた周囲からは、レティシアの王族としての資質を疑う発言がでたのである。
たかが服装ごときで自分の資質まで否定されたレティシアは、絶望した。
周囲の誰もレティシアの考えを聞いてはこない。間違った行動をとるレティシアはダメで、はやく正せと言い聞かせてくるだけだ。
最初はレティシアも説明すれば分かってもらえるだろうと頑張ったのだが、なぜか理解を得られなかった。ならばと反対に、相手へ理由を尋ねてみたところ「そういうものです」としか答えてくれない。これでは、ちっとも歩み寄らせてもらえないではないか。
(わたくしには、どうすることもできない。――無理よ)
今さらどう取り繕えばいいのか分からず、頼れる人も見当たらない。なら好きなようにするのが一番だろう。
なにもかもを諦めたレティシアは、城内でアマンド国の生活を体現することに躍起になった。
娘の暴挙に困り果てた第二后妃が同年代の貴族令嬢を送り込んだのだが、彼女たちもまたレティシアの逆鱗に触れてしまい、事態はどんどん悪くなる一方だ。
異なるモノを理解しようともせず、もっともらしい理由で排除しようとする無知な考え方が気に入らない。
レティシアの心には、いつしかそんな懐疑が宿っていった。
侮蔑の目を向けてくるなら、相手の存在を一切無視して排除する。
レティシアを見下し、貴族令嬢として丁寧に扱われるだろうと高を括った態度を押しだしてきたなら、無礼に振る舞って立ち去るように仕向けたのだ。
寂しいと思わなくもなかったが、それ以上に傷つくことを避けたかった。
目の前の令嬢たちは、侮蔑も嫌悪も持たず、ただお茶会を楽しんでいる。
いつもと違う茶器の使い方に興味を示し教えを乞う。みたこともない菓子に心を躍らせ、調度品に興味を持って触っているのだ。
「へ、変だとは思わないのかしら?」
思わず聞いてしまい、慌ててそっぽを向いた。
「貴重な品を拝見できて、またとない喜びを感じております!」
「素敵なお菓子に出会えて、とても嬉しゅうございます!」
コレットとカロリーヌの素直な感想だ。本当に楽しんでいるので笑顔がテカテカと輝いている。
「……」
思ってもみなかった回答に、レティシアの心の奥では小さな期待が生まれていた。
ただ、「どうせ受け入れてもらえない」「期待してまた傷つくのはこわい」という考えが、その光を懸命に押さえつけるのであった。
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