その3 第一話 メタの正体
ここまでのあらすじ
乾春人は髙橋彩乃や犬飼真希に気に入られ、麻雀を教わりつつ、一緒に食事をとり、酒を飲んで打ち解けて、自然と心の距離を縮めていった。
いつの間にか近くなった距離。ときめきにも似た感覚を覚えていたそんな折に髙橋彩乃に娘がいたことが発覚する。乾春人は自分でも何故なのか分からないが、その事実を知り動揺していた――
【登場人物紹介】
乾春人
いぬいはると
主人公。ごく普通のサラリーマン。26歳。ひょんなことから麻雀を知ることになる。ゲームのセンスはピカイチだが麻雀はまだまだ素人。しかし、覚える速度はとても早く、麻雀食堂の連中をたびたび驚かせる。
髙橋彩乃
たかはしあやの
あやの食堂の店主。基本的に一人で店を回している。夜はお酒も提供する。あやのの人柄の良さもありお店を協力してくれる仲間たちがいる。主にメタとマキが買い出しや宣伝などを手伝ってくれている。
犬飼真希
いぬかいまき
あやの食堂の常連客で麻雀好きなのんべえ。好きな色は赤。酒はハイボールを好む。たまに日本酒。
見た目はヤンキーでよく言えば若々しくもある。イヌイのことが気に入ったようで、よく絡んでくる。45歳独身。
メタ
めた
あやの食堂の常連で麻雀達者な謎の中年。
乾にとてもよくしてくれる。麻雀を教えるのが好きで伝え方が上手。あやの食堂ではいつも瓶ビールと冷奴を注文するのが習慣のようだ。
寒沢司
かんざわつかさ
カンの愛称で親しまれる若者。あやの食堂の麻雀常連。あやのの作る唐揚げ定食が大好きでそればかり注文する。
乾美咲
いぬいみさき
乾春人の歳の離れた妹。兄と仲が良い。文章を書く才能がありひそかに小説を書いている。恋をしてみたい17歳。油淋鶏が好き。
その3
第一話 メタの正体
「お兄ちゃん大丈夫?」
美咲にそう言われてふと我に返った。いや、あやのさんに子供がいた。それだけじゃないか。落ち着けよ、俺。
「なんか、様子が変だよ?」
「あっ、ああ。大丈夫だ。なんでもない」
すると犬飼真希が何やらピンときたようだ。嫌だなもう。その勘、多分当たりだからみなまで言うなよ。
犬飼さんはニヤニヤと嫌な顔でこちらを見ると
「ま、アタシがいるじゃん! あはは!」とだけ言った。はい、一点読み正解です。もうやだ、隣に妹もいるのに。
「それよか食ったなら私とアッチでやろーよ! 多分そろそろメタもくるしさぁ」
「なっ、お兄ちゃん? 赤いお姉さんと何をするつもりなのよ!」
「麻雀だよ。そこの奥のテーブル。あれ、上の板外すと麻雀卓になってんだ。変わってるだろ?」
「えっ、麻雀できるのここ! わたしもやるやるー!」
「へぇ、妹さん麻雀できるんだ?」
「はい! 最近ケータイでダウンロードしたばっかですけど、でもそれ以来毎日やってます! だけど牌を触ったことはないですね」
「そっかー。じゃあ今日が初めてのリアル麻雀初体験ってわけね」
そう話していたらあやのさんが卓の板を外して立てかけていた。
「はい、電源入れたから遊んでていいですよ」
するとそこでちょうど来客があった。
ガラガラガラ
「お、メタ。待ってたわよ」
「いらっしゃい。ちょうど今からマキたちが麻雀やるとこなの。何か飲み物入れようか? それとも先に何か食べる?」
「ああ、ありがとう。ビールだけでいい。おっ、イヌイ。来てたのか、そっちは妹さんか?」
「メタさんお久しぶりです。こっちは妹の美咲です」
「はじめまして」
一通りみんなに挨拶したあとで一旦食事の会計を済ませてから麻雀して遊ぶことにした。
すると美咲が小声で――
(お兄ちゃんお兄ちゃん。私、多分だけどこの人のこと知ってるよ)
(メタさんをか?)
(うん、麻雀のけっこう古い過去動画で観た気がする。こんなに太ってなかったけど、多分この人はトッププロだよ。『アルファ』に出てたもん)
(えっ! 間違いないのか?)
(うん、顔が同じだもん。間違いないよ)
なんと! 謎の中年『メタ』はトッププロのみが参戦可能とされる最高峰のプロリーグ『団体戦! 麻雀プラスアルファリーグ』通称『アルファ』に参加している選手なのだった!




