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風呂上がりの閑居

「昔、奇妙なものをみたのだがね」


「ほう」


 ホテルに泊まる男達は皆この旅の幕間に来る閑居を恐れていた。オレンジ色のテーブルランプに、男達が風呂上がりの火照った体を寄せ合う。

 今日珍しくもない事だが、彼らは異なる部屋に泊まる男達で、硝子張りの向こうにある、露天風呂の実に見事な夜景を眺めながら、濡れてくたびれた様々な髪の色を乾かしていた。


「私の故郷にハーメルンと言う町があるんだが、そこで結婚式を見た折に、細い路地に差し掛かると、突然楽器を鳴らすのをやめたのだ」


 見ず知らずの集団に、白髪の老いたドイツ人が語った。彼は恥ずかしげもなく真面目な表情で、電動のマッサージチェアに揺すられている。鼻の高いフランス人の男は、それを聞いて自分を道化にする冗談と察し、大笑して籐の椅子から身を起こした。


「何だ、有名な話じゃないか。今日日そんな昔話を知らないものはいないだろうよ」


 二人はそれぞれ母国語ではなく、英語で語る事に決めたらしい。フランス人の男は片眉を持ち上げて、「話してみろ」と言わんばかりにドイツ人の男の言葉を待った。これを受け、ドイツ人はテーブルランプの照度を下げ、肩の凝りを解すように両の肩を鳴らした。

 湯上りの気の抜けた衣装で足をはだけさせている幾人かは、奇妙な言葉を操る二人の前を素通りしていく。加齢臭と石鹸のにおいが通り過ぎ、程よい静寂が訪れたと判断した二人は、互いに奇妙なほど神妙な面持ちになって、背もたれに身を任せる。老人は硝子戸の向こう側に語り掛けるように、ゆっくりと、くぐもった低い声で語り始めた。


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