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13/06/27(1) 日本大通り駅前:婆さん

13/06/27 木 12: 10


 ランチのため庁舎を出ると電話が鳴る。

 着信表示は観音が偽装会社を設定してる電話代行会社。

 ついに来た! 報された番号に掛け直す。

「金本さん、こんにちは~」

「先日の件について聞きたいんだがね」

 挨拶も無しに用件を切り出してきた。不機嫌なのがありありと伝わってくる。

「先日の件って飲みの事ですよね」

「誤魔化すな」

「だって僕と金本さんの間でお酒誘っていただく以外に、何か用事がありますか」

 マルタイは黙りこくった。

 観音にパンストの弁償を命じられた電話を思い出す。俺のやっているのは、あの時の観音と同じ。マルタイをあしらうことで、主導権の所在を明らかにする。キレない程度にイラッとさせて、自らの置かれた立場をはっきりと認識してもらう。

 頃合いかな、面会を提案しよう。

「じゃあ、今晩七時でいかがでしょう。場所は料亭の『安芸』で」

 マルタイは応諾するや、即座に電話を切った。

 先日のマルセツ以降、俺も観音もCARPに顔を出していない。マルタイが焦れるのを待ったのだ。掛かってくるなら月水と二回スルーした今日辺りだと思っていた。

 さあ、観音に報告だ。


             ※※※


 部屋に戻ると観音は寝ていた。起こすべく肩を揺すって声をかける。

「観音さん、起きて下さい」

「う……ん、後五分……もう一回……そんなとこだめ……」

 この女起きてるんじゃないのか。このわざとらしい寝言は何だよ。

「起きて下さい、観音さんってば」

 頭をはたいてもだめ。背中を人差し指でなぞってみる。こんな無駄のない胸にもかかわらず、ブラを着けているのはわかった。

「あ……ん………そこ弱い……いや……でも欲しい……」

 あんた絶対起きてるだろ。

 もうキリがない。土橋統括を手招きして呼ぶ。

「この自称児ポ法違反の七歳児に何か一言言ってやって下さい」

「婆さん」

 観音が飛び起きた。そのまま土橋統括を羽交い締めにし、部屋の外へ出て行く……帰ってきた、一人で。今度はどこに拉致したのだろう。

「もう、せっかくの仮眠が台無しじゃないか。で、用件は?」

「マルタイから電話が入りました」

「喫煙室に来い」


 喫煙室。観音は部屋に入るや、すぐさまソファーに寝転んだ。

「さあ、じっくり詳しく優しくゆ~っくりと話せ。私が眠れる子守歌の如くな」

「今晩『安芸』で会う約束しました。以上!」

「わかった。千田首席の了解は取ってあるから一〇万円もらっていけ」

 最初からそう答えろよ。

「予対段階でのマルコウにしては大盤振舞ですね。普通だと一万円でも難しいのに」

 いや、一万円どころか自腹すらざら。それで誰が働くのかと言いたい。

 しかし調活はその気になれば横領し放題。全ての請求を認めるとマルコウにかこつけた使い込みを行う不良職員を大量に生み出しかねない。

 以上の理由で役所としてはジレンマを抱えるのが実情だったりする。

「最大の勝負所なのにケチれるか。本当ならそれでも足りないところだが社員割引きくからな。旭を紹介しておいてよかったよ」

 ふーん……。

「まさか、そのために旭を潜入させたなんて言わないでしょうね?」

「そうだけど? 他にも理由はあるけどさ」

「例えば?」

「旭って料理が趣味でさ。もっと高みを目指したいっていうから安芸を紹介した。その授業料代わりに仲居をやってるってわけ」

 絶対ウソだ。いや……これらの理由も全て本当なんだろうけど、真の目的は別にある。観音はしれっとしているが、ここまで付き合えばさすがにわかる。

 また公務員の副業禁止規定を鑑みれば、給料をもらっていないのも本当だろう。ひるがえせば、今回の安芸は事情を知っているのが察せられる。

 だったら区分の原則、これ以上聞くのはやめよう。

「まあ今回は電話掛かった時点で、私達の勝ちは決まった様なものですしね。金の使いでもあるってものです」

 なぜなら電話はマルタイが最悪の結果を想定したという証に他ならないから。

 観音がようやく起き上がって、ソファーに座り直した。

「そういうこと。後は君が仕上げるだけだ。頑張れ」

「はい!」

 目一杯元気よく返事すると、観音がにこり微笑んでくれた。

 よし、今夜の準備をしよう。部屋を後にしかけたところで、ふと思い出す。

「そう言えば、土橋統括はどこに拉致したんですか」

 振り向くと、観音は再び寝転がっていた。仰向けで腕時計を見つめつつ、邪悪な笑みを浮かべている。

「所長室のソファーに気絶させといた。目が醒める前に所長が昼食から帰ってくれば大目玉、あわよくばクビかな。あー、カウントダウンが楽しい。くっくっく」

「観音さんにやられたって弁解するに決まってるでしょうが」

「所長はどっちの言い分を信じるかな。世の中美人にはとことん甘いんだよ」

 この女最悪だ。所長室へダッシュする。土橋統括はいい、だけどパパ想いの娘さんを路頭に迷わせたくはない。

 腕時計を見る、リミットまで一分無いかも。間に合うか?


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