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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
全力疾走のガールズストラテジー

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2-11.5 【閑話】伯爵令嬢アデリーヌ

少し長文ですが、アイリスの名刺が一人の貴族女性の人生を変えたお話しです。






私、アデリーヌ・ド・ラ・フォンテーヌは、エイレニア王国の伯爵令嬢として生まれました。父は伯爵で、母は王家の遠縁。でも、そんな立場とは裏腹に、私は人前で話をするのが苦手で、社交界での立ち振る舞いにいつも不安を感じていました。


パーティーでは、できるだけ目立たない場所を選び、他の貴族令嬢たちの話に静かに耳を傾けることが多かったのです。お母様は「もっと積極的になりなさい」と心配そうに言いますが、私には自分から話しかける勇気が持てませんでした。


先日のお茶会でも、友人のシャーロットが「アデリーヌ、あなたの意見も聞かせて」と声をかけてくれたのに、小さく頷くことしかできませんでした。ドレスの流行や宝飾品の話題にも、心の中では「このデザインが素敵」「あのネックレスが可愛らしい」と思うのに、その考えを声に出すことができないのです。


書斎で読書をしているとき、窓際で刺繍をしているとき、庭園で花を眺めているとき。一人でいる時の私は、頭の中で様々な考えや感情が渦巻いているのに、誰かと向き合うと途端に言葉を失ってしまう。そんな自分が、時々悲しくなりました。




そんな内気な私の人生が変わったのは、春の暖かな日差しが降り注ぐ午後のことでした。王立公園近くの高級ドレスショップ「ラ・ローズ・ドレ」で、来月の王女様の誕生日パーティーのドレスの最終仮縫いをしていた時のことです。


店内は、きらめくシャンデリアの下で、上質な香りが私を包み込みます。上質なシルクやレースをふんだんに使用した色とりどりのドレスが夢のように並んでいます。オーナーのマダム・ロゼは、私の幼い頃から通っている馴染みの店の方で、いつも優しく私の好みを汲み取ってくれる方でした。


「お嬢様、今回はペールピンクのオーガンジーで、お作りした春にふさわしいドレスでございます」柔らかな色合いで、胸元には小さな月影華の刺繍が施されています。お母様が注文してくださったドレスは、まるで春の庭園そのもののようでした。


試着をすると、まるで魔法にかけられたかのように、私の姿が一変しました。鏡に映る自分の姿は、今までに見たことのないような優美さを感じさせます。ドレスのシルエットが、今までのふんわりした形から、少し体の線に沿ったおとなっぽいラインになっています。


「まるで、妖精の羽衣のようですわ」思わず呟いてしまいました。


マダム・ロゼは、試着を終えた私に一枚の美しい紙片を差し出しました。「お嬢様、これは私どもの店の新しい名刺でございます。次回のご来店の際にお見せいただければ、特別なサービスをご用意させていただきます」


上質なローズピンクの紙に、金色のインクで店名とマダムのお名前が美しく印刷されています。思わず声を上げました。


「まあ、なんて素敵なカードかしら」


「お嬢様、これは『名刺』というカードです。もうすぐ、香り付きの押し花名刺が新しく発売されるそうですよ。貴族の皆様にも大変な人気になりそうですね」


新しいドレスより、その名刺というカードに何故か私の心は強く惹かれました。




その日の夕方、いつもなら決して言い出せないような我儘を胸に、勇気を出してお父様の執務室にいきました。そこは、重厚な木の香りが漂う落ち着いた空間で、暖炉の火が柔らかな明かりを投げかけ、壁一面の本棚には様々な古書が並んでいます。普段は、お父様の呼び出しがない限り、ここに来ることはありませんでした。


「お父様、お願いがあります。私、名刺が欲しいのです」


お父様は最初、少し驚いた様子でした。書類から目を上げ、眼鏡越しに私を見つめます。「名刺? アデリーヌ、貴族の令嬢には名刺なんて、不要ではないかな?」


でも、私は諦めませんでした。普段の自分では考えられないほど、言葉が自然と溢れ出てきたのです。「でも、お父様。これは最新の流行なのです。シルヴァークレスト商会から、新しく香り付きの押し花名刺が発売されるそうです。きっと、お茶会で話題になるわ。それに……」


少し躊躇いながらも、続けました。「私、もっと積極的になりたいのです。名刺があれば、初めての方とも、少しはお話できるかもしれないと思って……」


お父様はしばらく考え込んでいましたが、やがて柔らかな笑みを浮かべました。「わかったよ、アデリーヌ。君がそこまで言うなら、明日にでも行って注文しよう。確かに名刺は、話のきっかけに使えるだろう。私の名刺も追加注文しようと思っていたところだ」




翌日、私たちはシルヴァークレスト商会の王都支店を訪れました。店内は高級感あふれる調度品で飾られ、空気中には微かに香水の香りが漂っています。クリーム色の壁には繊細な金箔の装飾が施され、天井からはクリスタルのシャンデリアが柔らかな光を放っていました。


ちょうど昨日から販売が始まった香り付きの押し花名刺は、自分で好きなものを組合せることができました。様々な香りのサンプルを試し、最終的に霧星草の優しい香りを選びました。押し花は、私の名前にちなんで淡いピンクのアデリーヌの花に。台紙は薄紫色のグラデーションにして、印刷する文字はマダムと同じ金色にしました。


二週間後に完成した名刺は、まるで私自身を表現してくれているかのようでした。霧星草の香りが優しく漂い、押し花のアデリーヌが可憐に咲いています。私の名前「アデリーヌ・ド・ラ・フォンテーヌ」が金色のインクで美しく書かれ、その下には「エイレニア王国伯爵令嬢」という肩書きが添えられていました。

お父様も、厚みのある紙に側面だけが金色になったエッジカラー加工という細工がされた新商品の名刺を手に入れてご満悦でした。お母様は、「積極的になった娘に」と、アデリーヌの花を刺繡した名刺と同じ色の名刺入れをプレゼントしてくださいました。11歳と7歳の弟たちにも、水色と薄緑色の名刺を渡すと大喜びしていました。家族で向かい合って、名刺交換の練習をした時、なんだか初めて自分の名前を大きな声で言うことができた気がして、自然と笑顔になりました。




そして迎えた、王女様の誕生日パーティー。パビリオンは華やかな装飾で彩られ、シャンパンの泡のように軽やかな音楽が流れています。上流階級の紳士淑女たちが、優雅に談笑する中、私は緊張で胸が締め付けられそうでした。でも、今日の私には名刺があります。初めて会う人とのきっかけ作りに、きっと役立つはず。そう信じて大きく深呼吸をしました。


パビリオンの一角で、シャーロットたちが私を見つけて声をかけてきました。


「アデリーヌ! 今日のドレス、とても素敵よ」


「ありがとう。シャーロットもそのエメラルドグリーンのドレス、とても似合っているわ」


珍しくハッキリと返答した私に、シャーロットは少し驚いたような表情を見せました。ヴィクトリアとベアトリスも加わり、いつものお茶会メンバーが揃います。


「皆さま、私の名刺を受け取っていただきたいの」


そっと名刺入れを取り出し、一枚ずつ友人たちに手渡しました。


「まあ! なんて素敵な名刺なの! アデリーヌらしさがあるわ」

「この香りは……霧星草? 押し花まで入っているなんて! これ、アデリーヌのお花だわ」

「私のお姉さまが持っている名刺はもっとシンプルよ? この名刺なら、私も欲しいわ!」


「シルヴァークレスト商会の新商品なの。香りと押し花、それに台紙のデザインまで、全部自分で選べるのよ」


「私も欲しい!」

「どこで注文できるの?」


「シルヴァークレスト商会の王都支店で受け付けているわ。私も最初は緊張したけど、とても親切に相談に乗ってくださって……」


シャーロットたちに商会のことを説明しているうちに、自然と周りの貴族令嬢たちも集まってきました。皆さまが興味津々で質問してくださり、気がつけば私は輪の中心で楽しく会話をしていたのです。お母様が作ってくださった名刺入れも、とても褒めてくださり、今度、サロンで名刺入れ作りをすることになりました。今まで、人前で話すのが苦手だったことが噓のようです。遠くでお父様とお母様が嬉しそうに頷いているのが見えました。




そんな時、イスヴェーリア王国の大使夫人が通りかかったのです。優雅な立ち居振る舞いの中にも、親しみやすさを感じさせる方でした。深いサファイアブルーのドレスに、ピンクダイヤモンドのネックレスが輝いています。


「まあ、なんて素敵な名刺でしょう」大使夫人は、私の名刺を見て目を輝かせました。「エイレニア王国の若い貴族の方々は、本当にセンスがおありですわね」


「大使夫人、ありがとうございます」差し出した名刺を褒められ、私は思い切って続けました。煌びやかなパーティーの雰囲気と、お友達との楽しいおしゃべりで気分が高揚していたせいかもしれません。「実は、父からイスヴェーリア王国のお話をよく聞いております。自然と調和した暮らしや、伝統工芸の素晴らしさに、ずっと憧れを抱いておりました」


「あら、フォンテーヌ伯爵のお嬢様だったのね!」名刺を確認した大使夫人の表情が一層柔らかくなります。「お父様とは貿易でずっとお世話になっているわ。それに、お母様とも友人なのよ。ぜひ一度、大使館でお茶をご一緒したいわ」


思いがけない展開に、胸が躍りました。「光栄です。ぜひお伺いさせていただきたいです」


私はイスヴェーリアの大使館でのお茶会に向けて、特別な名刺を作ることを思いつき、帰りの馬車の中で父に話しました。


「お父様、イスヴェーリア大使夫人の名刺を作ってお茶会の手土産にしたいのです」


「また名刺かね?」父は優しく笑います。「お前のおかげで最新の名刺が手に入って、取引先との会話も弾んだよ。名刺は、魔法のようだね。きっとイスヴェーリアの方々への素敵な贈り物になるだろう」




翌日から、イスヴェーリアについて調べ始めました。雪を頂く高山、澄んだ湖、そして深い森。自然と調和した暮らしを大切にする国で、香りの文化が発展しているとも聞きます。


「イスヴェーリアの森の香りを表現できないかしら」私は、無理を言って名刺のスペシャリストというソルディト本店のアイリスさんと相談を重ねました。イスヴェーリアの国花である白雪花の押し花と、爽やかな森の香り。背景には山々のシルエットをグラデーションで配し、文字の色は最新の紺色のキラキラしたメタリックインクで印刷していただくことになりました。

アイリスさんは「おーろらふぃるむがあれば極光を表現できるのに」と、難しい専門用語で少し残念がっていましたが、とても素敵なデザインになりました。名刺の四隅は、レースカット加工という最新の技術を使用して、とても繊細なレースのように台紙が繰りぬかれています。もちろん、私も次回はこのレースカット加工で注文したいと思いました。




一週間後、特別な名刺が完成しました。


大使館でのお茶会に持参したその名刺は、大使夫人に大変喜んでいただけました。


「まあ、なんて素敵なお心遣い!本当に嬉しいわ。これは絶対に王妃様にも献上しなくてはなりませんわね。ぜひ、この後、名刺のことを話し合う機会を設けましょう。イスヴェーリアの外交官も呼んでおきますわね」


そして、その打ち合わせの席で、私は彼と出会うことになったのです。


イスヴェーリアの若き外交官、アレクサンダー・フォン・アイゼン様です。深い緑の瞳に凛とした立ち姿。濃紺の正装服に、イスヴェーリアの伝統的な装飾の刺繍が施されています。


「アデリーヌ嬢、素晴らしいデザインですね。レースの華やかさの中に、我が国の静謐な空気が閉じ込められているようです」


いつもなら、見知らぬ男性と話すだけで顔を赤らめてしまう私。でも、名刺のおかげで、自然に会話を始めることができたのです。


「イスヴェーリアの方々に喜んでいただけたら嬉しいですわ。国花の白雪花を押し花に使わせていただいているのですが……」


「白雪花は、私たちの国では『永遠の絆』を象徴する花なのです」アレクサンダー様は、目を輝かせながら説明してくださいました。「高山に咲く可憐な花で、古くから『友情の印』として贈られてきました」


彼は、イスヴェーリアの文化や風習について、熱心に語ってくださいました。森と湖の国、イスヴェーリア王国。厳しい自然の中で育まれた人々の絆、そして、自然と調和した生活の知恵。高原に広がる牧草地、深い森の中に点在する美しい湖、そこで暮らす人々の温かな心。私は、彼の話に引き込まれていきました。


「私たちの国では、森が人々の暮らしの中心なのです。春には新芽の香りを楽しみ、夏には涼しい木陰で過ごし、秋には実りを分かち合い、冬には暖炉を囲んで物語を語り合う」


アレクサンダー様の言葉には、故郷への深い愛情が感じられました。同時に、エイレニア王国の文化にも強い関心を持っていて、私たちの国の芸術や学問について、たくさんの質問を投げかけてきます。


それから数週間後、大使館に王妃様と王女様の名刺を届けに参りました。アレクサンダー様からお聞きした、「イスヴェーリアでは女性を花ではなく星に例える」という話を元に、王妃様には唯一無二の北極星を、女王様には未来を照らす暁の星をモチーフに加えたデザインです。名刺を確認したアレクサンダー様は、にっこり笑って大使館の案内役を買って出てくださいました。大使館の庭園には、イスヴェーリアから移植された珍しい植物が植えられており、彼は一つ一つ丁寧にわかりやすく説明してくださいました。その真摯な態度と、両国の友好を願う気持ちに、私の心は次第に惹かれていったのです。


献上した名刺は、イスヴェーリアの王妃様、王女様に大変喜ばれたとのことです。それを見た王子様が羨ましがり、大変光栄なことに、次は王様と王子様向けの名刺を考えることになりました。アレクサンダー様と一緒にシルヴァークレスト商会に相談にうかがった時、アイリスさんはしばらく固まっていましたが、笑顔で引き受けてくださいました。「ほろぐらむかこう」と呟きながら、アレクサンダー様が話すイスヴェーリアの文化についてメモをとられていました。しばらく宙を見て口元をモゴモゴ動かしていましたが、直ぐに「イスヴェーリアの神獣と言われる、大鹿を陛下の、銀狼を王子のモチーフにしてみましょう」と素敵なアイデアを考えてくださいました。本当に有能な方なのですね。お知り合いになれて、幸運だったと思います。



その後、私とアレクサンダー様は、両国の文化交流のために、様々な話をするようになりました。

私は父の仕事のお手伝いを通して、少しずつ貿易や流通について勉強するようになり、引っ込み思案で、刺繍か読書しかしなかった私の変化を、両親は優しく見守ってくださいました。


そして、語学も堪能なアイリスさんに、イスヴェーリア語の手ほどきをしていただきました。「単語カード」という、名刺を半分に切ったサイズの語学の練習カードを作ってくださり、繰り返し練習を続けました。




「イスヴェーリアの森で採れる香草を使った新しい商品開発はどうだろう。私たちの国では、香りを通じて季節を感じる文化があるのです」


「素敵なアイデアですね。エイレニアの刺繍とイスヴェーリアの織物を組み合わせるのも面白いかもしれません。私たちの刺繍は繊細な花模様が特徴ですのよ」


たまにお会いして意見交換をするうちに、私たちの関係は少しずつ変化していきました。時には王立庭園を散歩しながら会話を交わし、時には図書館で図案を見ながら語り合う。彼の真面目な性格と優しい心遣い、そして何より、私の拙い意見を真摯に聞いてくださる態度に、心を打たれていきました。




ある夕暮れ、王立庭園の植物園で過ごした時のことです。夏の終わりを告げる夕陽が、月影華の花々を柔らかなオレンジ色に染めていました。噴水の水音が心地よく響き、遠くからは小鳥のさえずりが聞こえています。


アレクサンダー様はそっと私の手を取りました。彼の少し震えている手の温もりに、私の心臓は大きく高鳴ります。


「アデリーヌ、君に強く惹かれているんだ。これまでは、君の成長を近くで見守れることが嬉しかった。だが、君の中にある優しさと強さが、艶やかに花開いていく様子を見ていると、誰かに見つかる前に、早く私のものにしなくてはと焦る気持ちでいっぱいなんだ。カッコ悪くてごめん。でも、これからも、君のそばで一生、見守らせてもらえないだろうか」


いつも冷静なアレクサンダー様の紺色の目が、強い熱で潤んでいます。以前の私なら、すぐに手を引っ込めていたはず。でも、今の私には答える勇気がありました。


『私も、アレクサンダー様。あなたの、おかげ、で、自分の可能性を、信じられる、なりました。あなたと、出会えて、私の世界は、広がったわ。これからも、一緒に、両国の、架け橋に、なれたら……』


擦り切れるまで繰り返した単語カードのおかげで、アレクサンダー様にイスヴェーリア語でお返事できました。アレクサンダー様は、赤い顔のまま目を見開き、いきなり私を抱きしめて、何度も髪にキスしてくださいました。


その後、私たちは両家の許可を得て婚約することになりました。お父様は最初、少し驚いた様子でしたが、アレクサンダー様の誠実な人柄と、私たちの真摯な思いを理解してくださいました。お母様は、涙を浮かべて私の成長を喜んでくださいました。


「アデリーヌ、あなたは日に日に美しくなっていくわ。サナギから美しい蝶が生まれて、遠くへと羽ばたいて行くように、本当に素晴らしい変化だわね」




結婚式の準備は、まさに両国の文化の融合となりました。招待状には、エイレニアとイスヴェーリア、両国の花を組み合わせた特別な名刺を添えることに。ドレスには、イスヴェーリアの伝統的な織物を使い、エイレニアの刺繍で装飾を施しました。招待状や名刺はもちろん、席次表と食事メニューと二人のプロフィールが全部一緒に書かれているユニークなパンフレットまで、ペーパーアイテムは全てアイリスさんにコーディネートしていただきました。ご参列いただいた皆さまに大変好評で、この後、問い合わせが殺到したウェディングアイテムの相談窓口が、シルヴァークレスト商会に開設されたそうです。


結婚式当日、大聖堂には両国の貴族たちが集まりました。祭壇には、エイレニアの月影華とイスヴェーリアの白雪花が飾られ、パイプオルガンの音色が厳かに響き渡ります。私のドレスは、朝露に濡れた森をイメージした真珠のような光沢を持ち、イスヴェーリアの伝統的な銀糸の刺繍が施されていました。


誓いの言葉を交わした後、アレクサンダー様は優しく微笑みかけてくださいました。その瞬間、私は世界で一番幸せな花嫁になり、涙が止まりませんでした。




今では、私は両国を行き来しながら、文化交流の架け橋となっています。社交界で臆することなく話ができるようになり、自分の意見も主張できるようになりました。それは、名刺という小さな希望が教えてくれた、自分を表現する勇気のおかげ。そして、その勇気が私に、かけがえのない人との出会いをもたらしてくれたのです。


私の書斎の壁には、最初の名刺が飾られています。霧星草の香りは消え、アデリーヌの花は少し色褪せてしまいましたが、あの日の私の決意を思い出させてくれます。そして隣には、アレクサンダー様との出会いのきっかけとなった、白雪花の押し花の名刺。二つの名刺は、私の人生を変えた大切な宝物なのです。


人生は、時として思いがけない形で、私たちを幸せへと導いてくれるのかもしれません。私の場合、それは一枚の名刺との出会いでした。そして今、その幸せを多くの人々と分かち合えることを、心から嬉しく思っています。





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