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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
あっという間に3年目

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1-25 新しい道

「ふぅ、今回のフェスティバルも忙しかったぁ」


まだ、周りの露店は開いているが、私は片づけを急ぐ。14歳でもまだ、夜市に出店できないのだ。成人の15歳になる来年から、やっと夜市もアルコールも解禁だ。薬草酒の開発も、酒好きさんたちにすでに頼まれている。気持ちはわかるぞ、うんうん。「いや、このお酒は身体にいいんだよ?」って言い訳しながら、アセロラ入りアルコールとか呑んでたもんね。


『アイリス様、本日の商品別の分析ですが、特に花粉症緩和の薬草茶は前週比132%増で──』


「テオー、それは帰ってからにしようよ。今は楽しいことだけ考えたいわ。薬屋出店構想とかとかとか」


『商品別分析は最重要データです。前日比、前週比、前年比のデータをレポートにまとめたものを。アイリス様確認フォルダに入れておきますから、今日中にご確認くださいね』


学生じゃないのに宿題をもらってしまった。ちぇっ。




熱気があり、どこかエキゾチックな夜市を散策しながら帰る。うーん、ランタン祭りのような夜用のイベントも提案してみようかな。

薬屋出店構想のアイデア探しのためにキョロキョロしてしまう。


(あれ? この店、昼間はなかったよね? しかも店主は外国の方?)


色鮮やかな布や、香ばしいスパイスの香りに誘われて、私は足を止めた。


『アイリス様、この布の織目と染色パターンからすると、アザランス帝国南部のマウリール地方の特徴が──』


(テオ、あのスパイス! すごく香りがいいわ。新商品のアイデアになりそうね)


エキゾチックなスパイスと薬草を組み合わせたら、きっと面白い商品ができるはず。頭の中でアイデアがどんどん浮かんでくる。スパイスと薬草を混ぜた『デトックス調理塩』とか面白そう。ク〇イジーソルトみたいなのって見かけないから売れそうだわ。スパイシーな甘い香りのキャンドルもありかも。キャンドルの色や形を工夫したら、フェスティバルごとに新商品を出しやすいわね。あぁぁでも、この香り、やっぱり香りを楽しむならやっぱり王道は入浴剤かしら。スパイスとバニラ系の甘い香りを混ぜて……


『また、アイリス様の商品開発魂が燃え上がっていますね』


(だって、このスパイスと鎮静作用のある夢見草を組み合わせたら、すごくリラックスできる入浴剤が……)


『なるほど。確かに相性は…… f(x)→∞!! アイリス様、あちらの本はご覧になりましたか?』


商品の隅に置かれた美しい装丁の書物が目に入った。紺からオレンジへのグラデーションの表紙に金色の文字。なんだか、月詠草の種が入っていた袋と同じような形の文字だ。


(えっと……『ニナリア博物誌 上巻』?)


『これは重要な発見かもしれません! 古代の書物は大変、大変貴重でこんな市場で売られるなんてありえませんよ──』


(テオ、興奮しすぎじゃない?)


店主にニナリア語で話しかけると、意外にも帝国語で返してきた。


「その書物は、さる西方の国の貴族様からまとめ買いで手に入れたのだが、帝国の学術院でも読める人がいなくてね。今回、書物は売る予定じゃなかったんだが、なぜか荷物に紛れ込んでいたんだよ。読めなくても美しい装丁だろ? 棚の飾りにどうだい? 安くするよ」


『アイリス様ぁぁぁ!!!』


(うわっ、テオの声が裏返ってる……)


『即刻購入すべきです! 古代の書物は王都にしかないとの噂ですし、このデータの貴重性は──』


(はいはい、わかったわよ。買うわよ)


私は苦笑しながら本を購入した。今日は30金貨以上の売り上げがあったし、テオをここまで興奮させる本なら、きっと何か特別なものに違いない。いや、単なるデータマニア魂かもしれないけど。

3金貨、日本円で3万円が高いのか安いのかはわからないけど、オレンジから紺色のみごとなグラデーションは夕焼けのように美しく、博物誌なら月ちゃんが芽を出すヒントがかかれているかもしれないと期待させる。ちょっと重いけどね。




市場の外れまで来たとき、ふと誰かの強い気配を感じた。振り返ると、20代後半くらいの金髪碧眼の男性が立っていた。洗練された流行の上等な服を着た、かなりのイケメンだ。日に焼けているので、お貴族様ではないのかもしれない。


「私は、レオン・シルヴァークレスト。シルヴァークレスト商会の会長をしている」


『シルヴァークレスト商会は、ボレアリス地方では三本の指に入る大手の商会で、今、1番勢いがあるという噂です。先日の新聞によると、領都ソルディトに鉄とガラスをふんだんに使った3階建ての最新式の建物を竣工したばかりで──』


(テオ、ありがと。後で聞くわ)


レオン会長は、私の返事も待たずに続けた。せっかちな人なのかもしれない。人違いだったらどうする気だろう……


「田舎町にとても才能豊かな少女がいると聞いて、仕入れのついでに立ち寄ったのだが、大当たりだったようだ。少し観察させてもらったが、薬の知識も、語学も、計算も申し分ない。まだ若いようだが、どこでそんな知識を習ったのかい?」


私は少し警戒しながら答えた。だって、この人、人懐っこい笑顔だけどなんか目つきは鋭いし。


「初めまして、アイリス・ヴェルダントと申します。薬の知識は父に習いました。語学も子どものころに両親に習ったようで、知らないうちに覚えていました。両親は亡くなってしまったので、申し訳ありませんが、なぜ両親が語学や薬学に堪能だったのかはわかりません。今は父が残した書物で勉強しております」


『アイリス様、見事な受け答えです。ただし、緊張のため指先が微かに震えておりますよ』


「わかってるってば」


「何か言ったかね?」


レオン会長が首を傾げる。いろいろとヤバい。接客スマイルで話題を変えよう。


「いえ! それで、薬や薬草の(おろし)の話でしたら、また明日、市場の露店までお願いできますか?」


「私はね、自分の直感には自信があるんだよ。つまり、アイリス嬢には、是非、シルヴァークレスト商会で働いてほしい。君の才能は素晴らしいし、まだまだ若いし伸びしろがあるはずだ」


いきなりすぎて、言葉にならない。薬屋を開こうと考えていたのに、領都の商会勤務? 頭が真っ白になり、フリーズしてしまう。


『アイリス様、冷静になってください。これは素晴らしい機会ですが、慎重に検討する必要があります。今すぐに返事をする必要はございません。』


「あ、その……ありがとうございます。でも、返事は明日まで待っていただけませんか?」


「その若さで慎重な姿勢も評価できるな。いいだろう。明日の午後、店にうかがおう」


この人、上から目線の俺様タイプ……?




やっとの思いで家に辿り着いた私は、リビングをぐるぐる歩き回る。スプリングフェスティバル大成功の余韻に浸る余裕はない。


「どうしよう。どうしたらいいの。薬屋を出そうと決意したところだったのに……」


『アイリス様、まずは深呼吸を。それと、床の同じ場所を16周も回られますと──』


「そんなの数えてるの? テオ、笑わせないでよ」


ちょっと肩の力が抜けて、笑いながらテオに注意する。


「それから、人と会話してる時は重要な情報以外は黙っててくれる? レオン会長が怪訝な顔してたじゃない」


『申し訳ございません。ただ、アイリス様のストレス値が危険域に──』


「テオ、ねぇ、私どうするべきだと思う? 薬屋を開店するべきなのか、商会に転職するべきなのか。いきなり過ぎて、ちょっと考えがまとまらないわ」


『…………アイリス様、少々お待ちください』


「え? テオ?」


突然、テオの声が途絶えた。不安になってステータス画面を確認すると、アクティブスキルのアイコンが並ぶ場所に「更新中」と書かれたグレーのアイコンが増えていた。このパターンは……


「新スキル?! ……ハロワみたいな就職情報とか?」


まぁ、1時間後にわかるんだから、夕ご飯を食べながら待っていよう。

今日の夕ご飯は、山菜の炊き込みご飯と菜の花の辛子和えで和風にしてみた。醤油の風味が前世とはちょっと違うけど、十分に美味しい。それと、『コラボ最多第4弾』とアピールされていたキッシュ3種類。菜の花とベーコン、ホワイトソースのシーフード、そら豆と生ハムだ。私は菜の花のビタミンCと抗酸化成分をわかりやすく説明しただけだけどね……コラボ看板は、もう諦めてる。メインは今回も会長さんから差し入れされた照り焼き高級焼串肉だ。うまうまで贅沢な夕ご飯を、開き直って堪能する。四季があるって素晴らしい。




『お待たせいたしました、アイリス様』


「わっ! びっくりした! で、何してたの?」


『新しいスキルを追加しておりました。キャリアパス分析機能は、アイリス様の将来の選択に──』


「えぇ!? 私の将来を分析する気!?」


『はい。様々な可能性を数値化し、最適なデータを揃えました。現状のスキルと経験の棚卸しや、キャリア目標を明確にするお役にたてるかと。また、自分の能力を確認するために今後も有効にお使いいただけるかと存じます』


「人生を数値化って……ありなのかな? 数字だけでは決められないと思うけど」


『しかし、これまでのデータを元に分析した最適解は、ひとつの指標としては間違いなく検討に値し──』


分析魔のテオは時々効率的すぎるけど、いつも私のことを考えてくれているのは間違いない。


「テオ、とりあえず新しいスキル、ちょっと見せてくれる? ……あ、でもその前に、さっきの書物の内容も気になるわね」


『!!! そうでした! 古代ニナリア博物誌のデータ化を急がねば!』


「あ、やっぱり後にするわ」


『アイリス様……いややはりアイリス様のキャリアが……でも貴重なデータも……』


テオの声が苦悩に満ちていて、笑ってしまう。


「わかってるわよ。スキル見た後で、データ化するから」


『本当ですか!? ではまず書物の目次に目を通して、上下巻なのか上中下巻なのかを確認していただき、発行年が確認できる奥付があ──』


「明日! 明日ね! それに、まずは月ちゃんの情報を調べてよ?」


窓の外では、夜市の賑わいが続いている。新しい本、不思議な種、そして突然の誘い。私の人生は、どんどん思わぬ方向に進んでいく。でも、このデータマニアで優しいテオがいれば、きっと大丈夫。


『アイリス様、また独り言を……』


「今のは独り言じゃないの。あなたへの感謝の言葉よ」


『そうでしたか! では感謝度を数値化いたしましょう。まず、標準値の設定は──』


「ねぇ、待ってよ。キャリアパス分析を始めるわよ」





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