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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
あっという間に3年目

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1-24 スプリングフェスティバル

アイリス14歳。転生して3年目のスプリングフェスティバルである。


今回の市場統一テーマは「菜の花と黄色」。春らしい柔らかな黄色であふれた市場は、中央の休憩スペースにテーブルとゴミ箱が増えたり、大きな見やすい店舗配置の看板ができたり、小休憩スペースに小型のショーウィンドウができたりと、少しずつ工夫を重ねられていた。今では近隣で一番のフェスティバルと言われるまでに成長している。最近は、商工会主体でテーマやコラボチームを決めてくれるようになったので、私はイベント運営からほぼ離れることができた。まぁ、看板に名前は使われちゃうけどね。

そして、私の店は、今まで薬草と薬草関連商品しか売ってなかったけど、満を持して! 苦節2年! とうとう「安全な薬」を販売することになったのだ。

店内の準備をしながら、少し手が震えてきた。開始時間が迫るにつれ、緊張がたかまっていく。


『アイリス様、準備は万全です。緊張なさる必要はございませんよ』


「うん……でも」


お客様の手が届かない後ろの棚に、薬の小瓶を丁寧に並べていく。琥珀色の胃薬、透明な頭痛薬、淡い青色の咳止め薬……


『商品の配置図を作成しましょうか? 効率的な動線を計算して──』


「それより、このボードの文字、読みやすいかな?」


棚の前には「薬あります。頭痛薬、胃腸薬、痛み止め、二日酔い止めなど、症状をご相談ください」という看板を置いた。ダメだ、落ち着かない。テオの言葉もあまり頭に入ってこない。




フェスティバル特別商品も並べる。今回は、お客さんにアンケートをとってセットを3種類用意した。春特有のニーズに焦点を当てて、全方面へのアピールはばっちりだ。持ちやすいように紙袋に入れて、福袋風にセットしている。試せる見本も準備済みだ。


●「花粉ケアセット」:清涼草のど飴(鼻づまり緩和効果)、紫霧草ティー(目の疲れ軽減)、月見草入り塗り薬(肌の保湿)


●「春の美容セット」:朔月草フェイスミスト(肌荒れ防止)、星月草入り化粧水(毛穴引き締め)、涼香草の香り袋(衣類の防虫&芳香)


●「春疲れケアセット」:翠風草入浴剤(疲労回復)、入浴後の薬草茶(精神安定)、ハーブクッション(安眠補助)


そして、今回のテーマ商品は「菜の花コーヒー」だ。

菜の花の種を乾燥させて焙煎したものをコーヒーに足したので、少しナッツのような風味を味わえる。前世ではコーヒー派だったけど、今までは発育低めの子どもアイリスなので我慢していた。

が! テオから平均身長と体重になった許可をもらったので解禁だー! うまーっ!!




開店前から、もう何人もの人が店の前で待っている。耳に入る会話に、私の心臓が跳ねる。


「いよいよ、アイリスが薬を売るらしいな」


「俺が試した薬は、すごい効き目だったぜ!二日酔いが15分で消えたんだよ」


治験に協力してくれた人たちだ。市場の店主たちは、いつの間にか「アイリスは薬作りに専念させてやろう」という見守りモードになり、イベントの運営から外してくれたとグスタフ会長から聞いた。本当にありがたい。治験を通して、薬販売の認知度があがったのは嬉しいけど、ちょっとハードル上がりすぎてるような……




最初のお客様は、いつものマリアおばあちゃん。


「アイリスちゃん、あのね、夕方になると頭が痛くなって……」


「どんな痛みですか? ズキズキする感じですか? それとも重い感じ?」


「そうねぇ、目の奥が重くなるの」


テオと声を出さずに検討する。おばあちゃんの症状と普段の生活……目の使いすぎによる緊張性頭痛の可能性が高そうだ。お孫さんにせっせとお洋服を編んでいるもんね。


「では、紫雲花から抽出した頭痛薬はいかがでしょう? 目の周りの血行を良くする効果があって、緊張も和らげてくれます。でも、お薬と一緒に、リラックス効果のある薬草茶もお勧めです」


『アイリス様、素晴らしい提案です。症状の緩和と予防の両面から不調を改善できますね』


「そうね、一週間分の薬と、薬草茶のセットでいいわ。アイリスちゃんの言う通り、毎日お茶を飲んで、調子が悪い時だけ薬を飲むようにするわね」


「マリアおばあちゃん、お薬は高いから、編み物はほどほどにしてくださいね」


次は、パン職人のマルクさん。目の下のクマがひどい。


「アイリス、実は最近、胃が……」


「また徹夜で新しいパンの試作をしましたね? 胃液の分泌を整える月影草のエキスを入れた胃薬をお勧めします。でも、規則正しい食事と睡眠が大切ですよ?」


『アイリス様、的確なアドバイスです。パン職人様の生活習慣データによると──』


(テオ! 人のデータを勝手に集めないで!)




昼過ぎには、アザランス帝国からの商人が訪ねてきた。


「この店で薬が買えると聞いたのだが」


「はい、どのような症状でしょうか? 詳しく話していただけますか」


翻訳機能のおかげで、スムーズに会話ができる。遠方から馬車で来たための腰痛とのこと。


「では、温熱効果のある緋炎草のエキスを配合した軟膏はいかがでしょう?」


「ほう、その薬草は珍しい。どれくらいの効果が?」


「30分ほどで温かさを感じ、痛みが和らぎ始めます。効果は6時間ほど続きますよ」


『アイリス様、先月の新聞によると、帝国の方々は薬草茶がお好みです』


(あ、そうだったわ! テオ、ナイス!!)


「乗り物酔いの不快感を薄める効果がある薬草茶もセットでいかがですか?」




夕方には、商店主の人たちが次々とやってきた。


「アイリスちゃん、例の……」


「はいはい、二日酔いの薬ですね。でも、薬があるからって飲みすぎちゃダメですよ?」


みんな申し訳なさそうな顔をしながらも、しっかりと懐にしまい込む。この薬の評判は、治験の段階からかなり良かった。今日のフェスティバルの打ち上げで飲みまくる前提で、先に、薬を買いに来た人たちだ。気持ちはめっちゃわかるけど、困った人たちだ。今度は飲む前の薬を開発してみようかな? ウコンみたいな薬草を探さなきゃ。




途中、隣の八百屋さんで言葉の通じない客が困っているのを見かけて、通訳を手伝う。魚屋さんの外国人観光客の会計も手伝った。


『アイリス様、現時点での、売上データの分析ですが、薬の処方が予想の132%、薬草販売が予想の156%になっています』


「あれ? 薬草の方が売れてるの?」


『はい。特にリラックス効果のある薬草と、日々の健康管理用の……』


そっか、なるほどね。強い症状には即効性のある薬、日常的な健康管理には薬草が好まれるわけね。薬は効果が強い分、安易に飲まないように薬草よりも高めの値段に設定してる。でも、薬草は手ごろな値段だし、香りでリラックスできたり、毎日飲んで症状の予防をしたり……


『その通りです。データによると、頭痛薬を買いに来たお客様の37%が、予防用の薬草もお求めになっております』


「両方必要とされてるのね。これからの販売戦略を練り直さなくちゃだわ」




夕方近く、車輪職人のヨハンさんが訪ねてきた。


「アイリス、膝が痛くてな。年のせいかもしれんが」


膝の様子を詳しく聞いて、炎症を抑える効果のある翠雨草の軟膏を勧める。


「毎晩お風呂上がりに塗ってください。あと、この湿布も一緒にどうですか?」


「ありがとう。それもいただこう。ところで、この値段で大丈夫なのか? 隣町の薬屋はもっと高かったぞ」


「はい、適正価格ですよ。ヨハンさんの作る車輪だって、この街一番の品質なのに、いつも良心的な価格じゃないですか」


ヨハンさんは照れくさそうに笑った。

ちゃんと材料や技術料を考えて値段設定しているし、お父さんの薬より効能がいい薬は値段も少し高めに設定している。うーん、お父さんって、ほんと人助け優先で収入にはこだわってなかったのね。




閉店間際、マリアおばあちゃんが再び顔を出した。


「アイリスちゃん、さっきの薬を飲んだら、嘘みたいに楽になったのよ」


「よかった! でも、目を酷使しすぎないように気をつけてくださいね。薬の飲み過ぎは胃を荒れさせるし、ずっと飲み続けると効き目も悪くなっていきますからね」


「ほんとに、お母さんに似てきたわね。その注意の仕方がそっくりだわ」




フェスティバルの終わりを待たずに、薬以外はほぼ売り切れた。


『アイリス様、本日の総売上を集計いたしたところ、3,682銅貨になりました。今までで一番の売上です。アイリス様の「スプリングフェスティバル限定、薬草湿布3枚サービス」というアイデアが非常に効果的でしたね』


「そんなに売れたの?」


『はい。特に頭痛薬と胃腸薬が好評でした。それに加えて、花粉症緩和の薬草茶が季節柄人気でしたね。のど飴も良く売れましたよ』


「そうなんだ……ふぅ」


『アイリス様、ため息をつかれましたが、何かお悩みでございますか?』


「ねぇ、テオ。そろそろ露店を卒業して、お父さんみたいに薬屋を開くべきかなぁ?」


『具合の悪いお客様に、ちゃんと座ってカウンセリングできる空間が必要、というご判断ですね』


「そう。薬と薬草、両方のニーズがあるのなら、もっと広いスペースが欲しいし、調薬できる種類もお父さん並みになってきたわ。まだ臨床系の経験は全然足りてないけど、薬屋は出来ると思うの」


『早速、明日にでもグスタフ商工会長に相談してみては? 私のデータベースによると、路面店の空き店舗は7か所あり、薬屋として最適な立地は──』


「はいはい、ストーップ! 先にお茶でも飲ませて? めっちゃ疲れたわ」


『失礼いたしました。アイリス様の疲労度は86%に達していますので、休憩を推奨します』


夕暮れの市場に、菜の花茶の優しい香りが漂う。

14歳で薬草店を開いても、きっとこの街の人たちは受け入れてくれる。お父さんの遺志を継ぎ、多くの人を助けられるわ。明日は商工会会長に相談してみよう。きっといいアドバイスがもらえるはず。


『アイリス様、お茶を飲みながら、ご確認ください。今日一日の接客数は87名。その内、薬の販売が45件、通訳のお手伝いが12件──』


「テオ、ほんとそういうデータ好きね。私も好きだけど」


『当然です。アイリス様の努力は、すべて記録に値します』


春の夕暮れに、私の小さな笑い声が響く。テオは今日もブレずに、私を全肯定してくれる。

薬屋のイメージカラーは何にしようかな。薬草や薬は温度と湿度をしっかり管理できる倉庫が必要だし、常連さんが薬草茶を飲めるようなテーブルセットとミニキッチンも必要ね。外国の方向けにはどんな店舗が便利かな。仮眠がとれる小部屋も欲しい。開発室は家のままとお店に移すのとどっちが効率いいかしら……考え出すと止まらない。路面店を開くのであれば、またコンサルの腕の見せどころだ。早速、帰り道でカーテンや絨毯のチェックをすることにして、ニヤニヤしながら急いで片づけを進めることにした。








菜の花コーヒーの部分を付け足しました。

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