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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
相棒テオとの日々

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1-20 テオとの日常(新スキル編)

データベースが実装されて一月がたち、7月に入った。

無事に今回のサマーフェスティバルも大成功に終ったが、最近は近隣の町の商工会関係者の視察が増え、ヘルバの真似する町も出てきたので油断できない。店主さんたちの白熱した会議は続いていおり、売り上げと一緒にやる気も上がりっぱなしだ。よきかな、よきかな。




今日もいつものように、朝日が差し込む台所で、のんびりと薬草の仕分けをしていた。

テオと薬草を採りに行くようになって、時間の余裕ができるようになったのだ。音声による完璧な道案内。採取した薬草と在庫の完璧な把握。前みたいにいちいちステータス画面で確認する必要もなくなった。ついでに行き返りはしりとりや壁打ちの相手もしてくれる。

何でもできるテオだが、音楽は残念ながら流せないらしい。露店を片付ける時に「蛍の光」を頭の中に流してって頼んだらキッパリ断られた。記憶回顧スキルで卒業式のシーンを呼び出して流してみたけど、思い出し泣きしそうになったので即消しした。


おかげで、朝の仕分けも余裕をもってできるようになっていた。よく言えばとてつもなく面倒見がよい、悪く言えばウザしつこいテオとのつき合いも、苦節半年、やっと最近になってコツがわかってきた気がする。




森の中、薬草を採取し始めようとした時のこと。


『アイリス様、その姿勢では腰を痛める確率が78.3%上昇します』


「もう、テオったらうるさいわね。大丈夫よ」


『しかし、効率的な採取のためには──』


「ねえテオ、この花きれいじゃない?」


『アイリス様、そちらは目的の薬草ではありません』


「でも、いい香りがするわ」


『アイリス様、計画通りに進めませんと──』


「あ、リスがいるわ! かわいいー!」


『……はぁ。アイリス様の集中力が15.7%低下しています』


「数字で言われてもわかんない」


『申し訳ありません。ただ、このペースでは予定時間までに必要量を集められません』


「大丈夫よ、テオ。私、今日は臨時休業しようかと思ってるの。日帰り温泉いきたいし」


『それは……冗談でしょうか? 脳波は安定しているようですが……』


「さあ、どうかしら? うふふ」




うんうん、テオのあしらい方もプロ級になってきたわね。あまりのしつこさに、あるルールも決めた。




温室もどきで、月詠草の月ちゃんの世話をしていた時のこと。


「はぁ、今日は隣町のおじさん達を案内することになって、めっちゃ疲れたよ~月ちゃん」


『アイリス様、お身体の疲労度はそれ程でもないようですか、精神的な疲労度が高まってるようですね。早急に休息を取られることをお勧めします』


「いや、本気で言ってるんじゃなくて、ちょっと愚痴っただけよ」


『しかし、疲労の蓄積は深刻な病気の前触れかもしれません。すぐに全身のチェックを──』


「もう! 大げさだってばっ!」


『アイリス様の健康が最優先事項です。今すぐ横になられては?』


「…………あのさぁ、テオ。ちょーっとお約束しない?」


『はい、なんでしょうか』


「私が月ちゃんに話しかけているときは、ただの愚痴だから黙っていてね」


『しかし、アイリス様の言葉には重要な情報が──』


「テオ、お願い。そうしないと私、息が詰まっちゃう。アシスト機能をoffにしたくないの」


『……承知いたしました。月詠草への語りかけ中は介入を控えます』


「ありがとう、約束よ? テオ」


すかさず月ちゃんに向かって、大きな声で話しかける。


「はぁ、今日はホントに疲れたわ〜月ちゃん」


テオは、ちゃんと沈黙を守っている。よしよし。


「それにさ~、聞いてよ月ちゃん。大丈夫って言ってるのに、しつこく体調を心配されて、もっと疲れちゃったの~」


『アイリス様……うぐっ』


「わかってるのよ? 私を心配してくれてることはさ。でもすぐにデータ、データ言ってさ、数字じゃ表せないこともあるよね~月ちゃん」


『アイリス様……』


小さな囁き声が聞こえたが無視だ。これで少しはストレス発散できそう!




そんな、騒がしくも穏やかな日々が続いていたある日の夕食後、薬草茶を飲みながらのんびりしていた私に、突然、テオが真剣な声で囁いてきた。


『アイリス様、以前データベース化を止めようとなさった時のことを覚えていらっしゃいますか?』


「何よ、唐突ね。うん、覚えてるわ。何かあった?」


『アイリス様は、ご自分で分析することがお好きなのでしょうか? 私にご命令いただければ、どのような資料でもご用意させていただきますが……』


テオの声が、珍しく弱々しい。


「んー、テオの分析に不満がある訳ではなくて……私の癖っていうか、やり方っていうか。データをあちこち適当にいじっている時に、急に課題がみつかったりすることがあるのね。薬草辞典も一緒で、薬草の絵をぼーっと見ながら、お店の前を通っていく人の何気ない言葉を聞いてる時にアイデアが浮かんだりとか……」


前世の仕事の記憶も蘇ってくる。


「昔はさぁ、電車の中で時間つぶしのネットサーフィンしてる時に、急に点と点が結びついて、いい企画を思いついたりとかあったなぁ。あと、徹夜でハイになった時のどこから浮かんだか分からないキレッキレのアイデアとか……まぁ、だいたい没になるけどね」


『アイリス様の健康な生活のために、徹夜をお許しするわけにはいきません』


キリっとした執事モードにテオに戻ってしまった。気弱なテオもかわいかったのに、残念。


「あのね、この前、調薬の分析をした時に思ったの。テオは、データベースを分析した時点で、本当は失敗の原因が全てわかってたでしょ? データの分析はAIのテオの方が圧倒的に強いはずだもん」


『否定はいたしませんが、目的は、あくまでもアイリス様の調薬の成功にございます。データ分析はその手段に過ぎません。技能を取得するためにも、アイリス様がご自分で気付く必要がございます』


「うん、だから私が自分で考えられるようになりたいの。今みたいにテオのアドバイスに頼りきりでは、私が成長できないでしょ。人間の方が得意な、感覚的な分析とか、柔軟な創造力みたいな部分を、頑張って自分の手で磨いていかなくちゃね。……テオが私を助けてくれるように、いつか私がテオを助けたいの。お互いの得意分野でカバーしあうのって、相棒っぽくてよくない?」


テオは、一瞬黙り込んだ後、思ってもみなかった提案をしてきた。


『以前のお仕事で使われていた表計算アプリをご用意しましょうか? 必要であれば、文章作成、プレゼンテーション作成アプリもいかがでしょうか?』


「えぇぇ?」


驚いて、声が裏返っちゃったよ。


「アクティブスキルってそんな簡単に作れるものなの?」


『お時間をいただけましたら』


本気で言ってる? え、そんなの答えは決まってる。


「作って作って! テオ大好き~!!」


テオは何も言わずに、いきなりステータス画面のアップデートに入ってしまった。照れ屋さんめ。夜職のきれいなお姉さんに騙される理系男子かよ!

私はアップデートなしで、強力な新スキル「あざとアイリス」を手に入れたのであった。




翌日、目覚めると一番にステータス画面を確認した。そこには、青と緑とオレンジのアイコンが並んでいた。呼び出してみると、前世で使っていたPCソフトと同じ画面が現れた。UIからメニューまで、全く同じに見える。私が使ったことがないメニューまで再現されている気がする。


テオって……ほんとに謎すぎる。私は、マクロなんて記録ボタン作るくらいしかできないし、中身のコードは全くわかってない。でもさ、これってVBAいけるよね? 私の知識以上のアプリだよね?? 絶対、おかしいって。……まぁ、聞いても答えてくれないのはわかってるから聞かないけどさ。


少しため息は出るけど、単純に懐かしくて嬉しい。

キーボードは無いので、タッチ操作と思考入力をするようだ。近未来感すごい。外を通るのは馬車なのに。今日は薬草の採取はお休みにして、ちょっとこれをいじってみようっと。




最初は操作にイラついたりもしたけど、30分もすればスイスイと操作できるようになった。エアキーボードを頼むのもありかもしれない。無駄にガントチャートを作ったり、動くアニメーションを作ったりしてしまう。息するように触っていたソフトなので、使えることがめっちゃ楽しい。


「これがあったら、商工会の会議でもっとぶちかませられたのにぃ……」


ついつい、そう呟いた瞬間、テオの声が響いた。


『アイリス様、新機能の使用は原則1日2時間までといたします。ご成長には十分な睡眠が不可欠です。さもなくば、身長の伸びに影響が出かねません。加えて、視力低下でメガネが必要になれば、300金貨もの出費となります』


「えぇぇ! 300万円??」


ムリでしょ、車が買えちゃう金額だよ? 今までの売上を全部貯めてたら買えなくはないけど、新しい露店にしたり、お高い外国の薬草辞典とか買っちゃったしなぁ……


「わかった……目薬もちゃんと開発するね」


ガッカリしながらも、言うことを聞くしかない。


『付け加えさせていただきますと、この機能のご利用は、アイリス様のお宅内に限らせていただきます。外出先でのご使用はお控えくださいませ』


うん、これは理解できるわ。


「絶対にバレる訳にはいかないよね。オーバーテクノロジーでこの世界の均衡を乱す訳にはいかないもの」


『その通りでございます。さすが、アイリス様、()()()()()()()()()()()ですね』


「えっ?なに? その厨二感マシマシの二つ名、鳥肌立つんだけど! ルールはちゃんと守るわよ。その代わり、他のスキルとリンクできるようにしてね」


少し不思議な間が開いてから、テオは答えた。


『承知いたしました。ただし、一度に全ての機能を追加するのではなく、アイリス様の使用状況を見ながら、徐々に機能を追加させていただきます』


「テオ、ちょっと厳しすぎない?」


窓の外から、市場の喧騒が聞こえ始めた。今日も忙しい一日になりそうだ。でも、これからもテオと二人三脚で賑やかに走っていこう。


「よし、準備を始めよっか!テオ、タスク管理と持ち物リストをお願い~」


『アイリス様、その前にお顔を洗い、身だしなみを整えていただけますでしょうか。心身ともに清々しい状態で作業に臨むことが、より良い結果につながります』


……ブレない相棒だ、頼もしい。うん。




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