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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
コミュニティの一員として

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17/72

1-15 ウィンターフェスティバル(1)

いつもより、かなり早い朝日が昇り始める頃には、市場はすでに活気に満ちていた。今日はいよいよウィンターフェスティバル当日。この一週間、私たちは寝る間も惜しんで準備に励んできた。最後の確認をしなくちゃね。深呼吸をして、町の入口に向かう。

タスク管理のToDoリストを表示させて気合を入れた。


入口で振り返ると、鮮やかな緑の枠のサインボードが一番に目に入った。『ようこそ!ウィンターフェスティバル~ほうれん草祭りへ~』という文字が、朝日に照らされて輝いている。町の外から来る人に対しての、最初のPRポイントだ。チェックOK。


入口からの道沿いの木々には緑の布の目印が結ばれ、中央の噴水広場へ向かった後に市場へ誘うように続いている。まるで緑のモールのようだ。

これで迷う人もいなくなるはずよね。この案は、お客さんの動線分析をもとに私が提案したもの。最初は難色を示していたお役人さんも、商会長さんたちの熱心な説得で認めてくれたのだ。チェックOK。


市場に入ると、露店の配置が大きく変わっている。食べ物、衣類、雑貨と、業種ごとに集まりつつも、絶妙に間に挟んだ休憩スポットで、お客さんが自然と全体を回遊できるよう工夫されている。各業種の代表者が、遅くまで話し合って決めていた。白熱した話し合いは、殴り合い寸前までいったとか……チェックOK。


「アイリスちゃん!」


振り返ると、果物売りのおばさんが手を振っていた。


「おはよう! 今日はきっと大繁盛よ。あなたのおかげだわ~」


「いえいえ、みんなで協力したからこそですよ!」


ちょっと照れ笑いしながら答えた。確かに、この一週間はめっちゃ大変だった。でも、みんなが一丸となって頑張った成果が、今ここに本当に形になっているのを見て、ちょっと胸が熱くなる。


噴水の周りには、シンプルながらも温かみのあるベンチが並べられていた。予算の都合でテーブルはムリだったが、今回はこれで十分だと思う。少しずつ整備していく今後の楽しみも大切だ。フェスティバルは今後も続いていくのだから。

すでに何人かの人が腰掛け、朝の静けさを楽しんでいる様子を見て、思わず嬉しくなってしまった。チェックOK。


トイレや商工会の本部も確認して、ToDoリストのチェックを終わる。


─────────────────

アイリス様、準備は万全です。

来場者数予測を更新しました


・予想来場者数:例年比120%増

・ピーク時間帯の混雑予測:150%

・寒暖差対策として温かい飲み物の提供

 場所を確認

・屋外休憩所には防寒対策を推奨


気温:現在7℃、正午12℃予想

─────────────────




「おい、アイリス!」


声の主は、会議で「緑の靴なんて売れないよ!」と文句を言っていた靴屋のお兄さんだった。


「これ、みんなに配ったんだ。お前にもな」


そう言って、視線は横を向いたまま、鮮やかな緑のスカーフを差し出してきた。周りを見回すと、他の店主たちも同じスカーフを身につけている。腕に巻いたり、腰にたらしたり、それぞれの個性が光っていた。


「ありがとうございます~! みんなお揃いですね、嬉しいっ!」


思わずお兄さんの手を握りしめてしまった。スカーフを受け取って少し考え、頭にカチューシャのように巻いて横でリボン結びにすることにした。そこに、さっき花屋さんでもらった黄色の花を挿す。


「あら、かわいい巻き方ね」


鏡を使わせてもらっていた、隣の布屋のおばさんが覗き込んできた。


「いつも文句しか言わないこの人が、こんな気の利いたことするなんてね。みんなビックリしてんのよ! アイリスちゃんのカツが効いたみたいね!」


おばさんは笑い飛ばしつつ、「次はおかみさん達もお揃いにしようかしら」と、私のスカーフを興味深そうに見ている。靴屋のお兄さんは、赤い顔をしてさっさと店に戻ってしまった。

ビタミンカラーの明るい緑のスカーフは、見ているだけで元気が湧いてくる感じだ。私は、ToDoリストに項目を増やす。『団結の緑スカーフ』 チェックOK!





そろそろ、準備の仕上げをしなくちゃ。

自分の露店に戻り、アシスタント君に今日のタスク管理を頼んだ。


─────────────────

【本日のタスク管理】


天気予報:晴れ、最高気温18度

人出予想:例年比120%増

 ピーク時間帯15:00-17:00


スケジュール:

09:00 開店

13:00 休憩(15分)

15:00 在庫確認・補充

18:00 閉店

18:30 片付け開始

19:30 打上げ反省会(不参加)


売上目標:1500銅貨

緊急連絡先:会長(商工会会議室) [地図]

      警備担当(噴水広場) [地図]

注意点:

・薬草飴は必ず危険の説明する

・噴水広場で薬草茶の試飲を呼びかける

・15時頃からのピークに合わせて在庫管理

・売切れに備え、予約票を多めに準備

・お釣りの小銭は商工会で両替可能


目玉商品在庫:

薬草茶:各種50個 (計150個)

薬草飴:600個 (想定100回分)

バスソルト:各種20個 (計60個)

サシェ:45個

ほうれん草用スパイス:80個


薬草在庫:[リスト]

朔月草、翠風草、涼香草、紫霧草、

星月草、シェイド草、ゼフィルム草、

静水草、蒼炎草、金輝草、緋雫草、

翡翠草、霞雲草、氷華草、闇月草

─────────────────


思わず声に出して笑ってしまう。

長すぎでしょ! 気合い入りすぎじゃない?

アシスタント君の張り切り具合が、チームって感じで嬉しい。そして、久しぶりに、前世の仕事の時に欲しかったと嘆きたくなった……




「アイリスちゃーん! こっちこっち!」


振り返ると、八百屋のおじさんが手招きしていた。


「ちょっと来てくれ。ほうれん草の並べ方、これでいいかい? 確認してくれよ」


「はーい、今行きます!」


急いでおじさんの元へ向かった。ほうれん草が緑の扇のように綺麗に積み上げられている。間にカブや人参も積まれて、すごいインパクトだ。


「すっごく印象的! 芸術品みたいですね」


「お前さんのアイデアのおかげだよ。ありがとな」


「もう、あなたったら。この人ね、昨日の夜中までこれの練習してたのよ」


おじさんが照れくさそうに頭をかく横で、奥さんが笑っている。



「アイリス!こっちも確認してくれよ!」


今度は魚屋のお兄さんが声をかけてきた。いつもは水を張った桶に無造作に入れられている魚が、今日は氷の彫刻と一緒に、飾り付けられている。


「すごいです!まるで海の中にいるみたい」


感嘆の声を上げずにはいられなかった。


「へへ、俺、実はこういうの作るの得意なんだ。ここにちゃんとほうれん草があるんだぜ!」


お兄さんが得意げに、氷の下の方を指さす。

その後ろで、妹さんが「兄ちゃん、朝まで寝てないくせに」と冷やかしている。


「でも、冬とは言え昼間は暖かいし、氷の彫刻って溶けちゃわないんですか?」


心配して尋ねると、お兄さんは笑顔で答えてくれた。


「そこなんだ。聞いてくれよ! アイリスが言ってた『お客さんの流れを良くする』って言葉で思いついたんだ。氷が溶けていくのを見るのも楽しいだろ? だから3時間おきに彫刻を変えるんだ。そうすれば、お客さんが『次は何の形かな』って楽しみに何度も来てくれるはずだろ?」


感心した。めっちゃ感動した。


「素晴らしいアイデアです! そんな風に工夫するなんて……きっと、お客さんは何度も見に来ますよ」


お兄さんは照れくさそうに頭をかいた。


「いやあ、アイリスのおかげだよ。みんなで反省会したんだ。人に文句言ってばかりじゃなくて、自分らで変えていかなくちゃってな」


アシスタント君からのメッセージが届いた。


───────────────────

分析:市場関係者の意識変化

・積極的な改善提案:前回比300%増

・自主的な装飾努力:前回比500%増

・コミュニケーション活性度:過去最高値


注目すべき点:アイリス様の提案による

「連鎖的な意識改革」が確認されました。

これは、前世のコンサルティング手法の

応用が功を奏した結果かと。

───────────────────


ちょっと泣きそう。自分のアイデアが、ここまで大人たちを変えるとは思ってもみなかった。

周りを見回すと、みんな、それぞれ工夫を凝らしている。普段は無愛想な乾物屋のおばあちゃんも、今日は緑のスカーフを首に巻いて、笑顔で「アイリスちゃん、ありがとね。今度から婦人会にも顔を出しとくれ」と声をかけてくれた。

市場全体が、お祭り前の高揚感に包まれている。みんなの顔が輝いて見えるのを感じた。


「アイリスちゃん!」


声の主は会長さんだった。


「みんな本当に頑張ってくれたよ。こんなに全員で団結したフェスティバルは初めてだ。これも君のおかげだ。今日は売上なんか関係なく大成功だよ」


「私も、ここまで皆さんが変わると思ってなくて、泣いちゃいそうになりました」


今の気持ちを正直に答えた。

ほんとだ。まだお客さんが入る前だけど、フェスティバルは大成功だと胸を張って言える。売上げを上げるより、意識を変える方がどれだけ大変か、前世のコンサルの仕事でよく知っている。


「みんなでお金を出して、新聞の広告も出したんだ。今日は忙しくなるぞ! さあ、みんな、そろそろ開店の時間だ。自分の持ち場に戻ろう」


会長さんの声に、みんながそれぞれの露店へと戻っていく。私も自分の露店に戻り、今度こそ、最後の準備にとりかかった。心は期待と緊張で高鳴っている。

今日という日が、きっと素晴らしいものになると信じている。





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