1-9 2度目の薬草販売 with アシスタント君
8時半過ぎ、私は露店の前に立っていた。
昨日より重くなった荷車だけど、やる気があふれて張り切って押してきた。
「よし、セッティング開始!」
立てた戦略通りに商品を並べ、黒板を掲げる。「効能が高い朝採れフレッシュ薬草です」の文字が、朝日に照らされて輝いている。期待と緊張で、昨日よりドキドキしてる。
最初の女性の客が近づいてきた。
「いらっしゃいませ! 今朝採ったばかりの薬草ですよ~」
元気よく笑顔で、アピールする。今日も、昨日と同じ服と髪型だ。しばらくは、制服のようにこの服装を続けて、アイリスの認知度を高める作戦だ。少し疲れていそうな女性の顔を見て、続けて話す。
「今日のおすすめは、リラックスセレクションです。選び抜かれた紫ブルーム草と涼香草の組み合わせで、心身ともにリラックスできますよ」
「これってまとめて一緒に煎じるのかしら?」
「はい、一緒でも大丈夫ですが、涼香草を5分後に追加するようにすると、少し効果が高くなりますし、良い香りも残ります」
「そうなのね。最近、寝つきが悪いから飲んでみるわ」
お客さんは、1セット購入していった。
売れ行きは好調だ。組み合わせ販売という目新しさと、丁寧な接客で次々と客を引き付ける。特に「美肌セレクション」は効能の説明を聞いたほとんどの女性が購入していった。2セット購入したお客様もいるほどだ。晴れている午前中の内に、売り切れてホッとする。
昼頃、アシスタント君から2件続けてメッセージが表示される。イエローカード2枚だ。
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注意:水分補給が必要です。
また、声の酷使により喉に負担がかか
っています。水を飲み、飴をなめるこ
とをおすすめします。
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注意:あと48分で雨が降り始めます。
天井用シートをご準備ください。
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とうとうテオも、秘書モードとウザママモードを組み合わせたみたいだぞ。ちょっと苦笑いしながら、言われた通りにした。秘書にもママにも逆らえません。
前世の新人時代にこんな先輩がいたら、めっちゃ心強かっただろうなぁ。右も左もわからず、ずっと嵐に巻き込まれ続けている気分だった新人時代を思い出し、少し遠い目になってしまう……それに比べれば、このアシスタント君の存在は天国! もちろんアシスト不要なくらい成長したいけど、当分の間は頼らせてもらおう。
午後になると雨が降り出し、お客さんの数が減ってきた。売れ残りが気になる。せっかくの「特上」の薬草が「良品」に落ちるのは悲しい。そんな私の心を読んだかのように、アシスタント君からメッセージが届いた。
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注意:雨足と売れ残りを気にしてストレ
スが37%増加しています。
販売方法を工夫し、早めの完売を目指す
ことをおすすめします。
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などほど、販売方法の工夫か。うんうん、そうしよう。アイリスの身体に負担をかけたくない。
前世でも、在庫整理と言えば、セット販売が効果的だった。パン屋さんで、閉店間際に色んなパンを1つにまとめて安く売られているアレだ。早速、残ったフレッシュの薬草や組み合わせセレクションをまとめて、お得なセットを作って、声を張り上げる。
「お得な夕方限定セットです! 雨の日の体調管理にぴったりなセットにしました。通常 価格より2割引きです! さらに、朝採れの薬草セットは特別に3割引ですよーー!」
フレッシュな薬草は、思い切って値下げした。
まだ16時過ぎなので、値下げを始めたお店はない。きっと売れるはず。
17時前には、なんとか完売。昨日より売り上げが増えて、232銅貨も稼げたわ。今日は早めに撤収しよっと!
そのとき、午前中に買ってくれたおばさんが再び声をかけてきた。
「あのリラックス効果がある薬草がとても良かったのよ。もう一度買いに来たんだけど……」
売り切れを告げると、おばさんはがっかりしてしまった。どうしよう、せっかくのお客さんなのに……
その瞬間、前世の社長の言葉が蘇る。
『商機は絶対に逃すな!とことん食らいついていけ!!』
イケイケで超やり手の社長。爽やかで優しげな風貌だったけど、8人しか社員がいない弱小コンサルなのに、平気で海外の案件を取ってきてニッコリ笑顔で無茶振りする人だった。何度も泣かされたものだ。
でも、その社長の口癖が、今の私の背中を押す。
「申し訳ありません! でも、明日必ずご用意しますので、よろしければこの予約票をお持ちいただけますか? 特別にお取り置きさせていただきます」
急いで包装紙を切って作った予約票を渡すと、おばさんの顔が明るくなった。
「あら、ありがとう。じゃあ、明日また来るわね。疲労回復の薬草もお願いね」
帰り道、周りの露店の人やお客さんに、さりげなくステータス画面のことを尋ねてみた。
「ああ、ステータス画面か。15歳から見れるんだよ。興味あるのは分かるけど、お嬢ちゃんには、まだ早いんじゃないかな?」
「15歳からなんですか? 何が載ってるんですか??」
「そんなに期待すんなよ? 名前とか年齢だけだから、みんな時計代わりにしか使ってないからな。何のためにあるんだか意味不明だよな、はははっ」
「いやいや、あの絵姿を見て、腹がでてきたな~とかわかんじゃね? 親父」
「うるせぇ! お前の、足の短さも一目瞭然だな」
親子喧嘩が始まってしまった。すまん。それにしても想像通り、私のステータス画面は特殊みたいだ。絶対に秘密にしておかないといけないな。これからは、独り言も気をつけなきゃ。
他にも、冒険者はいるけどダンジョンは無いし、魔物もいないということもわかった。じゃあ戦争は? と聞くと、帝国の武力は脅威だけど、ここ100年ほどは、エイレニア王国の近くで戦争はなかったらしい。ラブアンドピース最高。
家に帰り、今日の夕食を準備する。お肉と野菜とパンと果物。栄養バランスはいいはず。早くアイリスの身体が健康に戻るといいな。朝早くから夕方まで酷使した身体をいたわるために、食後はリラックスセレクションの薬草を煎じて飲んだ。
「うーん、効果はあるんだけど少し苦味があるのよね」
ほとんどの薬草が、煎じて飲むには30分以上煮詰めなくてはならない。紅茶のように3分くらいで入れられて、ちゃんと美味しい味にできたら人気が出そうだ。
すぐにメモ帳に商品開発アイデアページを作り、「美味しい薬草茶の開発」とメモする。
ネタは大事。どんどんためていかなくっちゃね。
寝る前にステータスを確認すると、変化があった。
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【名前】アイリス・ヴェルダント
【年齢】12歳
【職業】薬草売り
【スキル】緑知の指
(採取、鑑定、探知、調合)
【所持金】2金貨4銀貨5銅貨
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「調合の技能が増えてるじゃない……なんで? 組み合わせ商品を作るために、薬草辞典を調べまくったからかな?」
アシスタント君が、素早くフォローしてくれる。
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「調合」の技能は、薬草の配合が上達す
ると覚えます。技能の取得は、主に二つ
の方法から可能となります。一つは特定
の条件、つまり何らかのトリガーを満た
すこと。もう一つは、そのスキルを継続
的に使用し、経験を積み重ねることです。
技能を覚えると、そのスキルの操作がよ
り容易になります。さらに、より高度な
技能へ変化する場合もあります。
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ふむ。どっちのパターンかわからないけど、とにかくありがたいな。ちゃんと稼げたし、今後も問題なく生活はできそうね。この世界で生きていける自信が少しわいてきたかも。うん、しばらくは、薬草の採取をして市場で商売を続けてみよう。
明日の予定をタスク管理で確認し、アシスタントにお休みの挨拶をする。
「おやすみ、アシスタント君。明日もよろしくね」
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おやすみなさい、アヤメさん。素晴らし
い一日でしたね。明日も頑張りましょう。
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私は今日一日に満足して目を閉じる。
夢の中で、アヤメとアイリスが手を繋いでクルクル回踊っている。
周りにはカラフルなお花と金貨が降り注ぎ、二人の笑顔が輝いていた。




