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黒のダンジョン九階層のボス

 階段を降りていく。

 野球ができるんじゃないかってくらい広い部屋に出た。

 事前に聞いていた通りの場所だ。

 そして、その中央にそいつがいた。

 赤い顔に長い鼻、そしてヤツデの葉。

 修行僧のようなその服装。


「天狗か」

「いかにも! 拙者は日本八天狗が一尊、 大峰山(おおみねさん)前鬼坊(ぜんきぼう)なり」

「喋るのかっ!?」


 これまで喋る魔物になんて遭遇したことがない。

 大峰山って、確か奈良県の南の方の山だったよな?

 なんでそんな名前の天狗が生駒山までやってきたんだよ。


「何故、拙者が喋るのか? その答えは単純なようで中々に難しい質問だ。だが、言葉は人の身だけに許された御業ではないということだ」

「話が通じるのなら相談よ。ここを通してくれない? 私が用事があるのはあなたではなく、十階層にあるというダンジョンの核なのよ」

「それはできぬ相談だ。拙者はここを守るために生み出された。それを蔑ろにしてはいけない……気がする」

「気がするって」

「人であろうとなかろうと生まれた理由なんていうものはその程度だ」


 そう言って天狗は笑った。


「泰良、あんまり話さない方がいいと思う」

「どういうことだ?」


 もしかして、言葉に呪いとか込めているのか?


「私もそう思います。これからするのは話し合いでも試合でもなく、殺し合いなんですから」


 アヤメが辛そうに言った。

 情が移ったら殺しにくくなる。

 アヤメはそう言っているのだろう。


「ふむ、女戦士の方が覚悟を決めるのが早いな。では、早速戦いと参ろうかっ!」


 天狗は笑った。

 と同時に、ヤツデの葉を大きく振るう。


「戦いとなればの話だがなっ!」


 と同時に、突風が巻き起こる。

 なんて威力だ――

 俺たちの身体が後ろに押されていく。


「どうだっ! このまま去ればよし、去らぬのなら力尽くで――」


 と風圧がさらに増す。

 なんて力だ。

 とミルクが銃を構える。


「解放:火薬精製クリエイトガンパウダー、解放:熱石弾ホットストーンブレット


 銃弾が放たれた。

 いくら風が強くても、これならば――

 って、はぁぁぁっ!?


「銃弾が空中で止まってるっ!?」


 銃弾が高速回転しているが、全く前に進まない。

 そして、完全にその回転が止まり、床に落ちてこちらに転がって来る。


「ならば私の風魔法で打ち消します! 解放:竜巻(サイクロン)


 風の魔法が風を押し返す。

 風が少し和らいだ。

 これなら――

 そう思った。


 風が届かない!?

 さっきの銃弾が止まった場所からそれ以上先に進まないのだ。


「ふっ、中々に凄い威力だ。だが、拙者の天狗暴風を破るには威力が足りん。せめて同種の風を当てないと破れんぞ!」

「なるほど、その天狗暴風を使えば結界を打ち破れるというわけですね」

「できるものならば――だが、この技は天狗にしか扱えぬ強力な――」

「天狗暴風っ!」


 アヤメはラーニングを使ったようだ。

 大魔術師の杖を大きく振るうと、先ほどの竜巻(サイクロン)よりも大きな風が巻き起こり、天狗の生み出した風の結界を打ち破った。

 その直後、姫が四体の分身とともに天狗に向かっていた。


「短剣術、朧突き」


 十五体に分身した姫が一斉に天狗に襲い掛かる。


「ぬおっ! 天狗の抜け道っ!」


 転移術を使ったようで、天狗が一瞬にして後方に移動する。


「天狗の術を使ったり多重の分身を生み出したり、お主たち、真に人間かっ!? 人に化けた(あやかし)ではあるまいなっ!」


 天狗(あやかし)のお前が言うなよ。

 


 戦いは続く。

 姫が不意を突いたときは倒せるかと思ったが、戦いは苦戦した。

 天狗は強かった。

 天狗が持っているヤツデの葉は剣であり、盾でもある。

 非常に頑丈で、振るうと風の刃を生み出すのだ。

 普通の武器より遥かに厄介だ。

 最初、その風の刃の仕組みに気付かず、身代わりの腕輪が壊され、さらに顔に小さな傷を作った。

 追い詰めたと思っても、天狗暴風を使って距離を取られ、さらには天狗の抜け道を使って躱される。

 唯一救いがあるとすれば、それぞれの特技は連続して使えないということだ。

 つまり、短時間の間に三回追い詰めたら倒すことができる。


 当然、天狗もそれを理解している。

 二回のスキルが使えないときは、天狗は踏み込んでこない。

 距離を取る。

 酷い時は逃げ回る。

 だが、必死になって追いかけると、思わぬ反撃がやってくる。


 身代わりの腕輪が砕けて、胸に激痛が走った。

 闇火鼠の外套がダメージを軽減してくれたが、かなり痛い。

 と同時に、ポーションが飛んできて俺の身体を癒す。

 ミルクの薬魔法だ。


「頑丈な衣だな」


 天狗はまだ余裕そうだ。

 その鼻っ柱をへし折ってやりたい。

 俺はインベントリから新たに身代わりの腕輪を取り出して装着する。


「しかし、なるほど。だいたいわかってきた。速さ頼りで力が足りぬ忍娘、回復と攻撃双方ともに可能と思える後衛もその身体能力は大したことがなく、そしてこのパーティの肝である剣士は――天狗の抜け道」


 天狗が消えたっ!?

 追い詰めたわけでもないのに。

 一体どこにっ!?


 気配ははるか後方から現れた。


「ミルク、後ろだっ!」


 ミルクの後ろに現れた天狗は、ヤツデの葉を振り下ろす。


「仲間を見捨てられない」


 その瞬間、一瞬で身代わりの腕輪が砕け、今までにない激痛が()の背中を走り抜けた。

 肩代わりスキルが発動しているのだ。


「仲間の傷をその身に引き受ける。まるで自分の弱点を増やしているだけではないか。憐れな――」


 天狗がもう一度ヤツデの葉を振り上げる。

 刹那――


「解放:火薬炸裂パウダーエクスプロージョン


 ミルクと天狗の間で爆発が起こった。

 俺の身体にまたも爆発による激痛が走るとともに、ミルクがこちらに飛んでくる。

 天狗に斬られるより、爆風で吹き飛んだ方がダメージが少ないと計算したのだろう。

 さらに俺の方に飛んでくることで、即座に回復魔法も使えるって寸法らしい。


「泰良! 超回復薬の雨(ハイポーションレイン)


 回復薬の雨が降り注ぎ、傷を癒してくれるが、それでも身体が重い。

 天狗は――やはりこの程度ではダメージはほとんどないか。

 くそっ、天狗の抜け道を回避ではなく攻撃に使ってきた。

 ミルクとアヤメが狙われたら辛い。


「どうだ? 降参する気になったか?」

「ああ、このままじゃ勝てそうにないな」


 俺はそう言うと、不敵な笑みを浮かべて宣言する。


「アレを使うぞ」

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― 新着の感想 ―
全世界で7チームしか攻略出来ていないのか。まぁ泰良達はデビューして半年程度(PD内時間含めて)だから一番乗りじゃないのは仕方ないが、それでも恐ろしい程の実力の伸びなんだよな。
日本チームがこれだけ苦戦してるのはダンジョン難易度に差があるからなのかねぇ これだけチートスペック持ちのチームで一番乗りすらできないなら、単純にレベルが低いってことなんだろうか すでに攻略済みの7チー…
[一言] 切り札とか熱い展開だなと思う反面、此処までの恵まれたスペック紹介とか、PD利用のチート成長過程があってようやく選別の足切りライン程度なのかみたいな雰囲気を感じるのが若干、気になりますね。 …
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