四人のPD
四人でスマホを部屋に置き、PDの中に入った。
PDの中ではダンポンが一人、ポ〇モン銀で遊んでいた。
ミコトはいない。
京都ダンジョンからは離れられないようだ。
「わ、わ、なんなのですっ!? 今度はいっぱい連れてきたのです! タイラ、これはさすがに反則なのですよ!」
ダンポンの滅多にないお怒りモードだ。
さすがに無理を通し過ぎたか?
「一応全員と結婚してきたんだが」
「そうなのですか? だったらいいのです」
ダンポンの怒りが液体窒素をぶちまけられたかの如く一瞬で冷めた。
道理が引っ込んだ。
「本当にダンポンがいるのね……リアルで見るのは初めてだわ。押野姫よ」
「はじめまして、牧野ミルクです」
「あ、私、さっき自己紹介してませんでしたね。東アヤメです」
「うん、みんな泰良から話を聞いてるから知ってるのです。あれ? もう一人はいないのです?」
「「「もう一人?」」」
「水野さんって人なのです。よく、水野さんはとってもいい人だって聞いているのです! というか水野さんの話しかしないのですよ」
ダンポンがそう言うと、三人がこちらを睨んでくる。
待て、待て待て、確かに水野さんはいい人だと思っている。
だが、そこまで水野さんの話ばかりしていた記憶はないぞ?
「ダンポン、俺、そんなに水野さんの話ばっかりしてないだろ!?」
「え? タイラじゃなくてクロが言ってたんですよ」
あ、クロか。
確かに、クロと一緒にいる時間は断トツで水野さんがトップだからな。
水野さんの話ばかりしているのは納得だ。
「ねぇ、ダンポン。ここってシャワーとかベッドはないの? 更衣室も」
姫が周囲を見て言う。
そんな便利なものはないよ。
あったら俺が使ってる。
「更衣室はないのです。シャワーは無料で使えるのです。お風呂と宿泊は有料なのです」
「え? あるのかっ!?」
「泰良に前に見せたサービス一覧に書いてあるのですよ?」
ダンポンがサービス内容の書かれている紙を俺に見せる。
ダンポンが見せてくれた奴だ。
体力の回復、魔力の回復、壊れた武器の修復などが書かれている。
「へぇ、便利なサービスね」
「魔力の回復サービスを使えば魔法の熟練度を上げるのに便利そう」
「でも、シャワーとかベッドとか書かれてませんよ?」
「右下を見るのです」
ダンポンに言われて、右下を見る。
すると、ものすごく小さな文字で、
【宿泊、シャワー、お風呂、サウナ、トイレ、クリーニング、配送、電報、各種書類申請は要相談】
と書かれていた。
「あったのか!?」
てか、こんな小さな文字気付かねぇよ。
「シャワーとトイレ、各種書類申請サービスは最初から無料で使えたのです。ただし、清掃費用としてDP募金の協力をお願いしているのです」
「そういえば……さっき奥の部屋に行った時、いろいろとありました」
アヤメが追加で言う。
嘘だろ? 奥の部屋はダンポンのプライベートルームだとばかり思っていた。
だから、長時間ダンジョンに潜る時は、トイレに行きたければそのたびに家に戻っていて、母さんから頻尿の疑いを掛けられたこともあったのに。
「あの大量のD缶は? 山が五つもあるんだけど」
「あれは牛蔵さんに貰ったもんだ。最初の四つは開封の難易度順に分けてる。左から順番に開けやすいもので、後の一つは開封済みの缶」
「あそこ、一つ開いてますよ?」
え? レベル3……開封条件がかなり面倒なもので、つまりは開けるつもりはなかったものだ。
いま、水野さんが挑戦中のポ〇モン150匹集めるとかもその一つだったが――
詳細鑑定で開封条件を見てみる。
【開封条件:複数の女性に結婚を迫られる】
あった!
そういえばそんな缶あった!
俺の人生においてそんな局面は絶対に訪れないと思っていたが、まさか現実に起こるとは思ってもいなかった。
中に入っていたのは宝石がちりばめられた化粧箱だった。
【豪華宝箱:特定の条件により中のアイテムが変化する】
特定条件ってなんだ?
さらに詳細鑑定。
【特定条件:結婚している人数】
つまり、結婚相手が多いほど中身が変化するってことか。
黒のダンジョン攻略が終わればこの状態も終わってしまう。
今開けるしかないな。
箱を開ける。
中に入っていたのは四つのスキル玉だった。
人数的に見て、ひとり一個と考えていいだろう。
「みんなで一つずつ食べよう。噛まないようにな」
「覚えたスキルは……あぁ、これ、なんて読むんだ?」
「琴瑟相和だよ。琴は小さな琴、瑟は大きな琴の意味があるの。琴と瑟は常に合奏することで音がよく調和するから、そこから転じて、夫婦の仲が睦まじいって意味を持ってるんだって」
ミルクが説明をする。
進学校はそんなことも学ぶのか。
全然知らなかった。
「琴瑟相和は一つだと全く効果のない珍しいスキルよ。ただし、同じスキルを持つ人間がパーティにいるとその効果を発揮するの」
「その効果っていうのは?」
俺の問いに、姫は答えた。
レベル上げが始まった。
水野さんに預けている成長の指輪と成長のリボンは現実時間で数時間後に届けられることになっている。
とりあえず、解説がてら全員で白浜ダンジョンのデータを参考にしている八階層に移動。
「凄いわね。普通、ダンジョンと言えば魔物を探すのに時間がかかるのに、こんなにいっぱい魔物が出てくるなんて」
姫が宝箱のフリをしたミミックを壊して言う。
「魔力の消費が激しい私やアヤメにはちょっと大変かも」
「ダンポンさんの魔力回復サービスを上手に使って倒さないといけませんね」
「そうだな。目標は全員で二十階層突破といったところか」
本来、PDは行ったことのある階層までしか再現できない。
しかし、管理人が許可をすればさらに深い階層まで潜ることができる。
たとえば石舞台Dでは俺はバイトウルフを倒した功績を認められ、そこの管理人から本来行っていない階層までデータをコピーする許可を貰った。
そして――
「ミコトめ、なんて粋な置き土産を残してくれたんだ」
俺はそう独り言ちた。
京都ダンジョンは20階層までデータを参照できるとダンポンに言われた。
京都ダンジョン管理人のミコトの許可を得ているらしい。
ミコトの奴、もしかしてこうなることを知っていたんじゃないか? と思うほどの手際の良さだ。




