伏見稲荷山のダンジョン
駅でミルクとアヤメと集合し、改札前のコンビニで飲み物を買って電車で三人で横並びになって座る
横目でミルクとアヤメを見た。
やっぱり二人とも可愛いんだよな。
ミルクは昔から可愛くて、アヤメもそんな彼女に負けず劣らずカワイイ。
どこか儚さもありながら、それでいて芯の強い少女。
だから守ってあげたいと思うと同時に、支えてあげたいとも思ってしまう。
俺の周りの人って美人比率が多いんだよなぁ。
ミルクもアヤメも、それに姫や明石さん、水野さん、俺の初恋だった近所のお姉さんだって、テレビの向こうにいる女優やアイドルと同じくらいか、それよりカワイイと思う。
結婚できるとしたら――
って、何考えてるんだ。
PD生成Ⅱの一緒に入れる条件が結婚だって言われたせいで、変に意識してしまうなぁ。
んー、姫だったら俺と結婚するだけで最高の環境でレベル上げできるって言うのなら乗ってきそうだな。
水野さんはそもそもダンジョンが怖いから興味はない。
ミルクとアヤメはどうだろう?
ミルクはレベル上げに最近ストイックだし、牛蔵さんを助けるという明確な目標がある以上、それに一歩でも近づけるのなら話に乗って来る可能性もある。
アヤメはわからないんだよな。
俺への恩に報いるためにって結婚を了承する可能性はあるが。
って、さすがに高望みし過ぎか。
ミルクは昔からクラスメートに人気だった。何人もの男子生徒や、さらには学校で一番の人気者だというサッカー部のエースからも告白されていたっけ。
ただ、その時の断り文句がいつも「パパより強い人じゃないと付き合えないの」だったっけ。
その話はクラスメートの間で結構話題になっていた。
あの牛蔵さんより強い人間がこの世界にどれだけいるって言うんだか――って話で、結果、彼女に付いたあだ名が絶対防壁少女だった。
『お前の親父さんより強くなってやる』
ミルクと一緒にパンケーキを食べたとき、自然とあの言葉が出たのは、もしかしたらあの時のことを覚えていたからかもしれないな。
「泰良、どうしたの?」
「いや、昔のことを思い出してただけだ。それよりミルク。さっきから気になってたんだが、その荷物って中身はなんだ?」
ミルクは何故かゴルフバッグを持っていた。
「これ? ボウガンと杖と新しい武器」
「武器ってダンジョンの受付に預けてなかったっけ?」
俺はインベントリがあるお陰で最近は御無沙汰になっているが、ダンジョンで使用する武器などはダンジョンの受付に預かってもらうことができる。
そのダンジョンにいるダンポンがそれぞれ武器を異空間に収納してくれる。
そのお陰で、ダンジョンに行くとき武器等の持ち運びをしなくてもいい。
「壱野さん。これからいく京都のダンジョンは他と少し違うんです。武器の預かりや換金などの一部サービスが使えないんですよ」
「そうなのか?」
「はい。そもそも、他のダンジョンと違って、その場所を指定したのはダンポンさんなんですよ。京都府としてはダンジョンによる集客効果に期待して京都駅の周辺にダンジョンを創ってほしかったみたいなのですが、ダンポンさんの要望により伏見稲荷の周辺にダンジョンを設置する流れになったんです」
「でも、何故かダンポンさんがいないんだよね。一応アイテムの買い取りはしてくれるんだけど――」
ダンポンがいない?
だったら、俺の知ってるダンポンの友だちって誰なんだ?
「そっちはわかった。じゃあ新しい武器ってどんな武器なんだ?」
「ふふふ、凄い武器だよ。水野さんと一緒に考えて作ったんだ。ダンジョンでのお楽しみってことで」
水野さんと?
スマホの番号などを交換していたのは知っていたし、家も近いが、数日で仲良くなったんだな。
でも、水野さんの実力だと魔法使い用の杖とかは難しそうだし――一体どんな武器を作ったんだ?
途中、丹波橋駅で近鉄線から京阪線に乗り換え、伏見稲荷駅を目指す。
伏見稲荷大社といえば有名なのが千本鳥居だ。
実は大阪に住んでいる俺も、何故か行ったことがないんだよな。
遠足だと奈良が多かったし、京都でも京都駅周辺の方が圧倒的に行く機会が多い。
厳かで神聖な雰囲気の写真をよく見るので、きっと静かでいいところなんだろう。
そう思って駅を降りて――
「え?」
俺は驚いた。
というのも、飛び交う言葉のほとんどが日本語じゃなかったのだ。
外国人だらけだ。
「インバウンド需要だね……」
ミルクが言った。
駅前にドラゴンバーガーの店とかタピオカの店とかあって、なんか一気にイメージが崩れた。
で、でもきっと京都らしい店もあるはずだと思っていたら――
「ミルクちゃん! あそこ! ここでしか売っていないんだって」
「凄い。ちょっと寄り道したいなぁ」
アヤメとミルクが興奮するその先には京都ならではのお店があった。
ち〇かわと京都伏見稲荷のコラボの店が。
狐のお稲荷さんのコスプレをしているハ〇ワレって、縁起がいいのかバチ当たりなのかわからんぞ? かわいいけど。めっちゃ可愛いけど。
「この店は帰りに寄ろうな。今は姫を待たせてるし」
「うん、そうだね――あ、帰りに隣の駅にある東福寺の通天橋にも行きたいな」
「いいね。壱野さん、いいですか?」
「秋が一番綺麗なんだけど、夏でも緑の紅葉が鮮やかで綺麗なんだよ?」
まぁ、こっちには滅多にこないし、二人が行きたいっていうのなら俺も付き合おう。
ということで、見学は後回しにして先を進む。
やたらと目につくのは、巨大なカニカマだ。
この辺りではカニが名物なのだろうか?
舞鶴港もあるし――って思ったら、単純にインバウンドで訪れる外国人が好きだから置き始めたらしい。
だったら、あの店にあるスズメの丸焼きとかウズラの丸焼きってのも外国人が好きなのかって思ったら、こっちは伏見稲荷の参道の文化だという。
なんともおかしな感じだ。
境内の近くに行くと、まるで初詣のように様々な屋台が立ち並んでいたが、流石に境内の中は食べ歩き禁止で出店も全くなくて安心した。
さて、境内に行こうかとしたところで、姫を見つけた。
こんな広い境内で、直ぐに会えたのはラッキーだ。
「無事に合流できたわね。じゃあ、ダンジョンに行きましょうか」
「そうだな」
そういや、ダンジョンってどのあたりだろう?
伏見山の頂上だろうか?
千本鳥居だけじゃなくて重軽石、願掛け絵馬など見たいものがいっぱいある。
ダンジョンがメインだとわかっていても、少し心がときめく。
とりあえず、本殿の方に進もうとしたところで――
「みんな、そっちじゃないわよ」
と姫が待ったを掛けた。
ん?
でも、どこに行くとしても方角はこっちで合ってるはずだが――
「ダンジョンがあるのはそこの駐車場の脇のトイレの横よ。じゃあ行きましょ」
と姫は本殿とは逆方向の、観光バスや乗用車が止まっている駐車場脇のトイレのある方に向かって歩き始め――
「「「せっかく伏見稲荷まで来たのにっ!?」」」
と俺たち三人は声を上げた。
作者「せっかく取材してきたのにっ!?」




