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焦るミルク

 白浜ダンジョン合宿二日目。

 父さんと母さんがクロを送ってきてくれた。

 二人は今日、午前中は千畳敷に行き、お昼にとれとれ市場で海鮮料理を堪能し、昼からは日帰り温泉や足湯を堪能するらしい。

 兄貴の結婚についても話した。

 礼服を仕立てる話とか家に帰ってからにしてほしい。


「クロちゃん、今日もよろしくね。昨日以上に頑張るよ」


 ミルクは気合いが入ってるな。

 魔法の熟練度の成長率を上げる薬を持っているので、昨日よりは効率よく稼げるだろうけれど、一日でできることに限度はあると思う。魔力回復薬だってゲームと違って一瞬で魔力が回復するわけではないんだし。

 更衣室で着替えたあと、ダンジョンの奥に。


 ミルクとクロとは昨日と同じ五階層で別れ、三人で八階層に。

 途中出てきたミミックに対し、まずは俺が戦う。

 妃から貰った剣の試し切り。


 それは、まさにスパっという切れ味だった。

 これまではミミックは切るというより叩き潰すという感じだったが、今回は切れていたのだ。


「凄い切れ味だな」


 俺は改めて剣を見る。


布都御魂(ふつのみたま)(-2):日本の初代天皇の国作りに用いられたという神剣のレプリカ。劣化品のため解毒の力はない】


 布都御魂は偶然にもここ、和歌山に非常に縁のある剣らしい。

 もしも、この世界が俺が主人公の小説だったら、読む人が読めば、


 和歌山にいる+主人公が新しい剣を求めている=布都御魂を手に入れる伏線


 と推理されていただろうって姫は言っていた。

 推理小説じゃあるまいし、そこまで深読みする読者がいるものか。

 そもそも、幸運値だけで何の面白みもない俺が主人公の小説を誰が読むというのか。

 PD生成なんてのもあるけれど、あれってほぼ一人でダンジョンに潜っているだけだしな。

 これは鍛冶スキルによって作られた剣だ。

 通常の剣ならば素材とスキルさえあればちゃんと剣を作れるのだが、神剣級の剣を作ろうと思えばかなりのステータスを必要とされる。

 この俺の武器についている(-2)という数値と劣化品と言う言葉のせいで最初は悪い印象があったが、高レベル鍛冶師がなんとか作り上げた逸品であることには間違いないらしい。

 買おうと思えば億単位のお金が必要になる。

 買おうと思っても買うことができない身代わりの腕輪とは金額で比べることはできないが、妃が貸し借り無しと言うことができるレベルの剣で間違いないらしい。


「これ、俺が本当に貰っていいのか?」

「泰良が手に入れた身代わりの腕輪と交換したものだもの。それに、ちょうど泰良の新しい剣を買おうとしていたしね」

「はい、壱野さんにとてもお似合いです! さっきの剣捌きもカッコよかったです!」


 アヤメは本当に褒め上手だな。

 八階層では経験値を効率的に稼ぐために、三人はバラバラに行動。

 昨日と同じくらいトレジャーボックスTが集まった。

 午後には十階層まで行ってみるか。

 と思っていたら、レッドサーペント――八階層にいる赤い蛇の魔物――と戦っている明石さんを見つけた。

 妃や他の取り巻きはいない。

 一人で戦っているようだ。

 

「こんにちは、明石さん。今日は妃さんは一緒じゃないんですか?」

「壱野さん。こんにちは。お嬢様は今朝東京に戻られました。大学の教授の講演会に出席しないといけないので。私の護衛はダンジョンの中だけですから、いまはお暇をいただいております」


 ダンジョンの中だけの護衛だったのか。ずっと一緒にいる付き人みたいな感覚だったが。

 それに、妃はちゃんと大学生として学生生活もしているんだな。

 明石さんは脚を閉じて、頭を下げて続ける。


「昨日は大変失礼しました。そして、ありがとうございます」

「なんのことです?」

「姫お嬢様を説得してくださったのでしょう? 昨日、姫お嬢様が身代わりの腕輪を持っていらっしゃいました」

「構いませんよ。俺も剣を貰いましたし」

「そちらの剣はとてもいいものですが最高のパフォーマンスを維持するには定期的なメンテナンスが必要になります。そちらに鍛冶師がおられないようなら、求人募集することをお勧めします。私のところに送ってくだされば知り合いの伝手で手入れはできますが、命を預ける武器を扱うのですから、信頼のおける方を仲間にした方がよろしいかと」

「鍛冶師ですか……」


 ダンジョン攻略って普通に強くなればいいってだけじゃない。

 サポート人員は絶対に必要になってくる。

 それは深い階層に行くほど顕著になるらしい。


「アドバイスありがとうございます。姫と相談してみます。ところで、明石さん。その……それ、身代わりの腕輪ですよね?」

「はい。今朝、お嬢様にいただきました。誕生日プレゼントだそうです」

「誕生日……プレゼント?」

「まだ少し先なんですけど。どうやら私のために手に入れようとしていたようです。お嬢様の前で戦う私のためにと」


 それは意外だった。

 俺はてっきり、自分の身の安全を確かなものにするために身代わりの腕輪を欲しているのだと思っていたからだ。

 明石さんのための腕輪だったなんて。

 実はかなりの部下想いだったのか、それとも明石さんが特別なのか。


「それはよかったですね」

「はい。ですが、少し困ってしまいます」


 明石さんは愛おしそうに腕輪を撫でて言った。

 

「私はお嬢様を守るためなら死んでもいいと思っていました。ですが、いまはそれもできません。お嬢様からいただいたこの腕輪を壊したくないので。今度からは無傷でお嬢様を守らなければいけません。難易度が大きく上がります」

「それって、冗談ですよね?」

「冗談ではありません」


 うわぁ、目が本気だ。本気と書いてマジってやつだ。

 妃は明石さんに慕われているんだな。


 明石さんと別れ、俺はそのまま九階層に向かった。

 九階層の魔物はサハギンとブラックシェルだ。

 サハギンは金属製の槍を持っているので、五階層の奴よりも強いだろう。

 ブラックシェルも硬そうだ。

 そのブラックシェルがいまはサハギンの手の中にある。

 俺は布都御魂からなまくら剣に持ち替える。

 サハギンはブラックシェルを投げてきた。


「必中剣」


 野球と必中剣の合わせ技。

 これで空振り0割バッターの誕生となる。

 布都御魂だったらスパッと斬ってしまうことだが、切れ味の悪いなまくらの剣ではしっかりと打ち返すことができた。

 さすがにサハギンに命中させることはできないが、ブラックシェルはこれでお陀仏となる。

 スキルがダンジョンの外で使えたら、投石スキルと合わせて一流の野球選手になれそうだ。

 そして、一瞬で布都御魂に持ち替える。

 サハギンが槍で突いてくるが、


「燕返し!」


 下からその槍の柄を叩き斬り、そのまま、


「真向斬り」


 剣を振り下ろした。

 よし、なかなか余裕だな。

 ん? なんかスキルが増えた気がする。

 ステータスを確認する。


――――――――――――――――――

壱野泰良:レベル33


換金額:101572D(ランキング:7k-8k〔JPN])

体力:515/515

魔力:170/170

攻撃:205(+20)

防御:203

技術:182

俊敏:181

幸運:385

スキル:PD生成 気配探知 基礎剣術 簡易調合

    詳細鑑定 獄炎魔法 インベントリ 怪力

    火魔法 投石 ヒートアップ

――――――――――――――――――


 ヒートアップ……あぁ、スキル一覧で見たことがある。

 確か、5分限定で攻撃値と俊敏値に3割上昇のバフを掛けられるスキルだ。

 ただし、5分経過したら55分間はそのスキルが使えなくなる。一時間に一度のバフスキルだ。

 今は必要ないけれど、ボス戦では重宝しそうだな。

 幸運値の伸びもいいが、他のステータスの伸びも悪くない。

 これは自慢できそうだ。

 

 十階層の階段を見つけたので、とりあえず下に降りるが、ここでの戦闘はしないで、そのまま階段を引き返す。

 家に帰ってからPDで楽しむとして、俺は八階層に戻った。

 一番お金に換金できるのはトレジャーボックスTだからな。

 ここでお金を稼いで、兄貴の祝儀を奮発しないと。


 そして時間になったのでダンジョンから脱出。

 今日は会議室は使わずにそのまま帰宅のため、更衣室のシャワーを利用して汗を流す。

 スッキリしたところで、更衣室を出ると、ミルクとクロが先に出て待っていた。


「ミルク、おつかれ。クロもおつかれさん」


 駆け寄って来るクロの頭を撫でながら言う。


「……うん。泰良もお疲れ様」


 ミルクは俺を見て小さな声で言った。


「なんだ、元気ないな」

「今日、レベルが上がらなかったの。私だけレベル13のまま。新しい魔法も覚えてなくて」

「そりゃ、お前連日でレベル上がってるからな。そう簡単に上がらないだろ」

「そうだけど……でも……やっぱり焦っちゃうよ。今日ね、アヤメが新しい魔法を覚えたの。風の速足(ウィンドウォーク)っていう俊敏値が割合上昇する補助魔法を」

「へぇ……」

「姫は元々俊敏値が高いから相性もよくてね……二人が私より先に行っちゃって、差が開いてるんじゃないかって思って。私、本当に必要なのかな? って思って」


 必要に決まってる――なんて軽々しく言えない。

 実際、今のミルクのままでは俺たちの役に立てないのは事実なのだ。

 必ず役に立つ日が来る――なんてのはその場をごまかすための言葉でしかない。

 ミルクが補助魔法を使えるようになったら仲間にすると姫は言っていたが、補助魔法を使える人間を探そうと思えば、姫のコネなら簡単に見つけることができるだろう。


「って、ごめんね、泰良も疲れてるのにこんな愚痴をこぼしちゃって」

「……ミルク。お前、秘密って守れるか?」

「秘密? なんか悪いことしたの? ダメだよ。ちゃんと謝らなきゃ」

「いや、悪いことはしてないよ。ただ、あまり公にできない話でな。まだ姫やアヤメにも話していないことなんだが――」

「……うん、わかった。泰良が話してほしくないって言うなら誰にも話さない」


 ミルクは俺の目を見て言う。

 彼女のその目を見て俺も覚悟を決めた。


「スキルを簡単に覚える裏技がある」


 そう言って、俺はインベントリからスキル玉を取り出した。


「これを使えば、何かしらのスキルを覚えることができる。そして、回復魔法を覚えられる可能性が高い」

3万ポイント突破しました。

ありがとうございます。

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回復系だろうスキル飴どうしたのかと思ったらキープしてたのか
何で翌日からもらいものの剣使ってるのかな? タイミング的に、この地で会う前から元々タイラに渡すつもりで申請してないと所有許可おりないけどそういう裏事情がある系? それか今回は一瞬で申請が通ったとか?
[一言] >スキルがダンジョンの外で使えたら、投石スキルと合わせて一流の野球選手になれそうだ。 PDに片足突っ込みながら投げたり打ったりすればいいじゃな〜い?
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