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ダークエルフへの願い#sideルシャトゥーナ

 血の臭いは嫌い。

 特に、同族の血の臭いは。

 本来、この矢は魔物と、そして終末の獣の眷属を倒すためのもの。

 そんなことを言うと、同族は渋い顔をするだろう。

 彼らにとって、今日命を落とした彼らは同族ではない。

 エルフとダークエルフは違う種族だと教わった。


「陛下、終わったようです」

「……ん」


 私――ルシャトゥーナ・ラミロア・マクル・ノ・ハンデルマスは頷き、四足歩行の温和な竜――籠竜の背に乗る。

 彼女の中に募るのは焦りだった。

 先代の女王である母が死に、若くして王位を継ぎエルフの女王となった。

 ただの女王ではない。

 最後の女王だ。

 間もなく、この世界は滅びを迎える。

 終末の獣の出現と、それによる世界の崩壊を預言の書が予知した。

 預言の書が記す未来には覆すことができる未来と覆せない未来がある。

 最初に記された未来は覆すことができる未来だった。

 終末の獣――それを倒せばエルフの世界は救われ、失敗すれば滅ぶ。

 エルフは一丸となり、終末の獣と戦った。

 エルフの戦士半数、そして先代女王が犠牲となり星に還ったが終末の獣を滅ぼすことができた。

 それでエルフは救われるはずだった。

 だが、預言の書は再び終末の獣との戦いを預言した。

 そして、それを覆すことは適わないと。


 私はアイテムボックスの中から預言の書を取り出す。

 何度も見た滅び。

 それが覆ることはない。


 だが、それを知るのは私だけ。

 多くの者は終末の獣が再度現れることは知っているが、それを倒せば今度こそ世界が救われると信じている。

 だが、中には信じられない者がいた。


 歴代のどの王よりも偉大だった先代の女王――彼女の死が彼女を信じていた者たちの心を折ったのだ。

 次の戦いに勝てないと悟った一部のエルフは国を捨てた。

 そして、あろうことか終末の獣を奉った。

 終末の獣を信仰すれば、この世界が滅びた後も別の世界で新たに生まれ変わると彼らは信じたのだ。

 即座に法で禁じたが、効果は無かった。

 すると、終末の獣を信仰することになった白かった彼らの肌がだんだんと褐色のそれに代わっていき、いつしかエルフを襲うようになった。

 我々エルフは終末の獣を信奉する彼らをダークエルフと呼び、その戦いはもう何年も続いている。


 だが、それも終わろうとしている。

 先程、ダークエルフの集落を襲撃した。

 いま発見されている中で最後の集落だ。

 これで戦いは終わる。

 今後現れる終末の獣との戦いに専念できる。

 愚かな者たちだった。

 皆が口々に言う。

 だが、私は知っている。

 この世界の滅びが確定していることを。

 知っていて、周囲に黙っている。

 本当にこれで正しかったのだろうか。


 エルフの――私たちの生きた証を残すのであれば、本当に生まれ変わり、来世に希望をつなぐことができるのであればダークエルフの生き方の方が正しかったのではないか?

 その時、籠竜が止まった。

 何事かと思ったその時、頭上から気配を感じた。

 籠の天井が壊れた。

 咄嗟に魔法で障壁を生み出す。

 その障壁が何かを弾いた。


 ダークエルフの少女だった。

 私を乗せた籠竜がここを通るのを、どうやら、木の枝の上からずっと待っていたらしい。

 誰にも気付かれなかったということは、高度な隠蔽のスキル持ちだろう。


「ルシャトゥーナ、お命頂戴!」

「…………」


 短剣を突き出し私の急所を狙う少女に、私は土の魔法で串刺しにする。

 拘束する余裕がなかった。

 彼女は血反吐とともに声を出す。


「……か……を」


 彼女は何かを言おうとし、しかし何も言えずに死んだ。

 一体何を想って死んだのだろう。

 仲間の幸せか、来世への祈りか、もしくはエルフへの恨みか。


「陛下っ! ご無事ですか!」

「……ん、問題ない」


 壊れた天井は籠竜の身体の一部のため、既に修復が始まっている。

 駆け付けた家臣が、ダークエルフの少女の死体を籠の中から担ぎ出す。


「……丁重に葬って」

「陛下、しかしこやつは」

「……お願い」

「……かしこまりました。それとお着替えを用意します」

「……必要ない。王宮についてから着替える」


 罪滅ぼしにもならない願いとともに、返り血を洗い流すことなく椅子に座る。

 同族の返り血まみれの自分の姿――なんて自分に相応しいか。

 先ほどのダークエルフが何を願ったのか、私にはわからない。


 だけど、私は願う。


 もし、本当に生まれ変わることができるのだとしたら彼女に幸が訪れることを。

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