トゥーナのレベルを上げるためのD缶開封祭り(その1)
D缶。
特定の条件を満たせば開き、中のアイテムが手に入る。
換金所で売れば1000円になる。
かつてはオークションにかければ1500円から2000円で取引されていた。
なのに、現在は一缶あたり3000円(送料別)と買い取り価格が大幅に上がっている。
それはD缶から出たダンジョンドロップがスキル玉というスキルを覚えるための最強アイテムだという情報が世間に広がり始めているからだ。もっとも、その情報が出たばかりの頃はD缶の価格は1万円前後にまで高騰していた。
それがここまで値段が暴落したのは、とにかくD缶が開かないからだ。
昔、青木が言っていた。
D缶コレクターが100万個のD缶を持っていて、実際開けることができたのは100個くらい。
しかも、開けたからといって必ずいい物が入っているとは限らない。
さらに、スキル玉が出たとしても、鑑定でもどんなスキルなのか、そもそもスキル玉なのかただの飴玉なのかもわからないから、買い取り価格もそこまで上がらない。
結果的に、宝くじを買うよりも効率が悪いため、下落した。
元の値段まで下がらないのは、いまでもD缶を買い集めている奴がいるからだ。
というか、俺たちだ。
俺には詳細鑑定というスキルがあり、そのお陰でD缶の開封方法がわかる。
さらに、詳細鑑定はD缶の開封方法だけでなく、スキル玉を使うことで覚えられるスキルの種類まで鑑定できる。
そのため、効率よくスキル玉やその他アイテムを入手、運用できる。
最近はD缶の詳細鑑定による開封方法の鑑定だけして、開封は簡単なものを除いて後回しになっていた。
理由は簡単――面倒だからだ。
普通に魔物を倒しまくっている方が遥かに楽だ。
しかし、ここにきてトゥーナのPD入りにスキルが必要になった。
アヤメの持っているラーニングスキル、それを使って覚えられる腰巾着スキルがあればトゥーナは俺にくっついてPDの中に入ることができるのだ。
もしくは腰巾着スキルに似たスキルでもいい。
なんなら、水野さんのパペット作成のようにトゥーナがダンジョンに潜らなくても経験値が得られるような抜け穴的なスキルでもいいのだ。
PDの中で缶の開封作業を行う。
既に全て詳細鑑定済みだ。
「今すぐ開けられるD缶は何だ?」
「防御値が5000ポイント以上なら開けられるD缶があります。9815番」
「……9815……あった、これね! キャァァァァア!」
アヤメの指示に出されたD缶を手に取ったら、D缶の山が崩れてミルクを飲みこんだ。
不用意に抜いたのではなく、しっかりと崩れないように配慮しながら抜いたのに缶の山が崩れるあたり、ミルクの不運(笑)も相当だと思う。
ダンジョンの中でステータスが上がってるから間違っても怪我することもないだろう。
防御値を見る。
――――――――――――――――――
壱野泰良:レベル170(ランクB)
換金額:9808152D(ランキング:40〔JPN]592[ALL])
体力:7634/7634
魔力:580/580
攻撃:3509(+350)
防御:2560(768)
技術:2831
俊敏:2899(+289)
幸運:9834
技能:速読 剣術Ⅱ 速筆Ⅱ
スキル:PD生成Ⅲ 気配探知 基礎剣術 瞬間調合
詳細鑑定Ⅱ 獄炎魔法 インベントリⅡ 怪力
火魔法 投石 ヒートアップ 基礎槍術
魔法反射 肩代わり トレジャーアップ
妖精の輪 琴瑟相和 水魔法 応用剣術
疾風 常在戦場 ラッキーパンチ 影獣化
対応力 付与魔法 空間魔法 猫の手
エナジードレイン 念話 隠形 財テク
鉄壁 二刀流 基礎格闘術 延長 ボス特攻
獅子搏兎の恩寵 エルフ語 千里眼 闇魔法
第六感 万能耐性
――――――――――――――――――
鉄壁やレベル170になったときに取得した万能耐性(防御値、属性以上耐性、状態異常耐性の全てにバフがかかる)のスキルの値を含めても3000を越えた辺りで止まっている。
ミルクたちのステータスも
「琴瑟相和を使いましょう」
「D缶を開けるために使うのはもったいない気がするが、仕方ないか」
ということで、四人で琴瑟相和を使った。
防御値が5000を余裕で上回ったところで御開帳。
「中身は……ハズレか当たりか微妙なものが出てきたな」
中から出てきたのは色とりどりのダイヤだった。
一応、詳細鑑定で調べてみたけれど特殊な効果はない。
ちなみに、全て加工済み――ラウンドブリリアントカットっていうんだっけ?――で、そのまま眺めても美しいし台座に嵌めるだけで立派な装飾品に早変わりする。
「ブルーダイヤやピンクダイヤ、これってファンシービビッドオレンジダイヤかしら? ダンジョン産の宝石は価値が低いといっても凄い財産になるわね。泰良、これ好きなの貰っていいかしら?」
「いいんじゃないか?」
「私、このピンクのダイヤ貰うね」
D缶の山から脱出したミルクが真っ先にピンクのダイヤを選ぶ。
「私はこの緑のダイヤを――」
「じゃあ私はイエローダイヤね」
「みんな髪の色のダイヤを選ぶのか。じゃあ、俺は黒いダイヤとかかな? なんて、黒いダイヤは石炭か」
「あら、あるわよ?」
と姫が黒いダイヤを見つけ出して俺に渡した。
マジか、知らなかった。
「黒いダイヤか……カッコいいな。ピンクダイヤとかのほうが聞いたことあるが」
「漆黒のダイヤは希少ですからね。それでも有名なダイヤもありますよ。ブラック・オルロフと呼ばれる持つ者に不幸をもたらす呪いのダイヤモンドとか」
呪いのダイヤモンドって聞いたことがあるな。
俺の知ってるのはホープダイヤモンドだけど。
幸運で居続けることに辟易していた俺だが、進んで不幸になりたくない。
黒いダイヤをそっと戻して他のダイヤを適当にインベントリに入れた。
残りは姫に売りさばいてもらおう。
他にもD缶を開けていったが、肝心のスキル玉が出ない。
俺の幸運もこんなものか?
「やっぱり適当に開けてもダメですね。いままでの経験から開封条件と中身はリンクしています。だから、それらしい開封方法のD缶を優先して開けていけばどうでしょう?」
「そうだな」
アヤメの案を採用した。
その1。
「ラーニング狙いで――算数学習ドリルを埋めるってどうでしょう? ドリルの種類も指定されてたから、買ってきてます」
「小学生向けの算数ドリルなら一瞬だな」
俺はペラペラと捲った。
【1から100までの整数をすべて足すと5050。ではその中に含まれる「奇数」だけをすべて足すといくつになる?】
【1円玉、5円玉、10円玉が、合わせて20枚あります。合計70円だった場合、それぞれ何枚ずつにある?】
【自動販売機でジュース1本が120円でクーポンコードがついています。クーポンコードを5回読み込むと1本無料でジュースを貰えるとして、300本のジュースを手に入れるには最低いくら必要でしょう?】
……え? 小学六年生の算数ってこんなに面倒だったっけ?
えっと、奇数だけ? 偶数と奇数、うーん、半分だから2525でいいのか?
いや、偶数の方が多いから…‥。
1円玉と5円玉と10円玉が20枚で合計70円?
方程式で解くのか? x+y+z=20、x+5y+10z=70?
あれ? でも連立方程式って中学校で習ったんじゃないか? それに、連立方程式はxとyでzは出てこないような。
300本もジュースを買うなら卸売りの店で買えよ。
「本当にこれなら一瞬だね……泰良?」
「…………よし! わかった!」
ミルクが何か言った気がするが、俺は全ての回答欄に鉛筆を走らせた。
「どうだ!」
「どうって、全部間違えてるけど?」
「いいんだよ。開封条件は全部埋めたらいいってだけだから、正解か不正解かは関係ない! その証拠にD缶が開いた!」
中身は――消しゴムだ!
鑑定しても正真正銘ただの消しゴム。
全部間違えてるから全部消せってか! 畜生。
その2。
「次は腰巾着みたいなスキル狙いで、二人三脚で百メートル九秒切りね!」
「ダンジョンの外だと絶対に不可能な条件だが――まぁ、俺たちなら余裕だな」
ということで、俊敏値の高い俺と姫が走る事になった。
……身体を密着させて、腰に手を回すってなんかエロいよな。
小学生ってこんなことしてるのか? って思ったが実際、二人三脚のペアは同性で、異性とすることなんてまずないよな。
とりあえず、流して百メートル五秒くらいで走った。
D缶が開いた。
中身は――
「ダンジョンドロップだ」
「泰良、詳細鑑定!」
「えっと……スキル名は協走。仲間に対して使用するスキルで、一定時間俊敏値が二人の平均値になるらしい」
「俊敏値が上がるスキルじゃないのね」
姫が露骨にガッカリする。
そこは、腰巾着のようなスキルじゃないことにガッカリするべきだろう。ていうか、姫の奴、開封条件から俊敏値上昇スキルを狙って開けさせたな?
このスキル、俊敏値が5000に迫ろうとしている姫が俊敏値3000を少し上回る俺に使えば、一時的にだが俊敏値4000になるわけか。
姫の俊敏値が下がるので彼女が嫌がりそうだが、バフスキルとしては使えるスキルだな。
是が非でも姫に覚えてもらおう。




