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四人目の婚姻

 俺たちはこの新居に泊っていくが、水野さんと青木は明石さんに車で家まで送ってもらうことになった。

 ダンジョン局から連絡が届いた。

 それを聞いて、せっかく直ったトゥーナの機嫌がまた悪くなる。

 理由は、彼女がダンジョンに行くための条件を出されたからだ。

 その条件とは、通常のダンジョンでトゥーナのレベルを150にすることだった。


「……難しい」

「トゥーナ、レベルはいくつだっけ?」

「……113」


 意外と高い。

 しかし、150となるとかなり苦労するのは間違いない。

 ダンジョン局から俺たちと一緒にダンジョンに潜る許可を貰っている。

 俺には肩代わりのスキルがあるから、一緒にパーティを組めばトゥーナがダメージを受ける心配がほとんどないことがわかっているのだろう。

 だが、潜る階層も指定された。

 安全マージンをかなり意識した階層でレベル上げを行い、配信クリスタルを使って随時監視状態になるので誤魔化すこともできない。


「これって安全のためって言ってるけど、明らかに時間稼ぎよね。レベル113から150まで何カ月かかるかわからないわよ」


 姫が思案顔を浮かべて言う。

 普通なら何ヵ月どころか何年もかかるらしい。

 閑さんと連絡を取ったところ、厄介な魔物も多く、なによりダンジョンが広すぎるので調査はあまり進んでいないらしい。

 トゥーナがレベルを上げている間に奈良の謎のダンジョンの調査を終えて安全を確保するつもりだろう。


「トゥーナ、今何を考えてる?」

「……なにも」

「いや、俺の第六感が嫌な予感がするって言ってるんだよ。正直に言え」

「……黙ってダンジョンに行くつもりだった」


 トゥーナの護衛の公安や謎のダンジョンの入り口を見張っている職員は魔法で眠らせるつもりだったらしい。

 そんなことしたら大問題になるぞ。


「なんでそんなに行きたいんだよ。いい加減に教えてくれないか?」

「……言いたくない」

「俺はエルフの救世主なんだろ? 信じてくれよ」

「………………」


 トゥーナは少し黙り、そして何か覚悟を決めたように俺たちを見た。


「……昔、私のいた世界にもダンポンとダンプルの管理していないダンジョンが見つかったことがあった。そのダンジョンは未発見のはずなのにまるで誰かによって隠されているみたいだった」

「――っ!?」


 未発見なのに誰かに隠されているダンジョン。

 今回のダンジョンは隠されていないが、有刺鉄線で道を封じられ、しかも電気まで流れていた。

 人を遠ざけるという意味では隠されているのと似ている。


「……そのダンジョンは、あるエルフが滅んだダンジョンを基に作ったダンジョンだった」

「滅んだダンジョンを基に?」

「……そう。ダンプルが試練を与えるために生み出したダンジョン。役目を終えて崩壊した。そのダンジョンを禁術によって蘇生させた。そして、そのダンジョンを生み出したエルフは終末の獣の配下だった」

「エルフが終末の獣の配下!? 終末の獣は世界を滅ぼそうとしているんだろ? そんな奴になんで従うんだよ」

「……理解できない。彼らが言うには、終末の獣は世界の理。滅びは定め。それに従うのは真理……だとか。そして彼らはその服従の証として、肌が浅黒くなっていた。反逆の徒と呼ばれていたけれど、泰良様たちにわかりやすい呼称を使うならダークエルフ」


 ダークエルフか。

 俺はそこまでファンタジー作品に詳しいわけではないけれど、結構定番の種族だよな。

 青木が聞いたら喜びそうだ。


「……ダークエルフはそのダンジョンでレベルを上げ、ダンジョンの中にいた魔物とともにエルフに牙を剥いた。エルフたちは多大な犠牲を出してダークエルフを倒し、ダンジョンも消滅させた後、ダークエルフの存在は歴史の闇として葬った。王家のエルフを含め一部の者しか知らない。もしかしたら、泰良様が発見したそのダンジョンもダークエルフが関わっているのかもしれない」

「それで、トゥーナちゃんはなんで私たちに知られたくないの?」


 ミルクが尋ねる。

 そうだよな。

 そういう事情があるのなら真っ先に言ってくれてもよかったのに。


「……トゥーナはこの世界の人が好き。みんな優しくしてくれる。でも、もしもダークエルフが今回の糸を引いているのだとしたら、人間のエルフへの見方が変わるかもしれない。できれば秘密裡に処理したかった」

「俺たちにくらい教えてくれてもよかったのに」

「……トゥーナの勘違いなら、黙っているつもりだった。ダークエルフの存在はそれだけエルフにとって恥」


 なるほどな。

 自分たちのためのダンジョンを生み出してレベルを上げたダークエルフか。

 ダンジョンの死骸を利用するか、スキルを利用するかの違いはあるがPDみたいだな。

 そして、ダンジョンの魔物を外に連れ出す……ってのは黒のダンジョンみたいだ。

 いや、黒のダンジョンの死骸を利用しているから、魔物を外に出すことが可能なのか? 


「ダンジョン局の人に全部説明して中に入る? 本当にダークエルフがこの世界に転生していたら問題ですよ」

「でも、ダークエルフが有刺鉄線とか使うかな? どっちかといえば人間だと思うよ」

「……ん。トゥーナも確率は低いと思ってる」


 エルフの名誉のためにも、あまり知られたくないよな。

 となると、パパっとトゥーナがレベル150になればいいのだが。

 トゥーナをPDに入れることができれば手っ取り早い。

 しかし、そのためには――


「トゥーナと結婚すればよいじゃろ?」


 そう、結婚するしかないんだよな。


「って、ミコト。聞いていたのか」


 いつの間にかミコトが出てきていた。

 そしてとんでもないことを言い出した。


「とんでもないことを言うな」

「トゥーナと泰良が結婚すればよい。泰良もトゥーナが嫌いというわけではあるまい?」

「嫌いじゃないが結婚相手としては見ていないぞ。ただでさえ、俺は既に三人と結婚している」

「三人結婚したなら、四人も五人も一緒じゃろうが。ついでだから、あの水野って鍛冶師とも結婚せい」


 水野さんまで巻き込むな。

 そりゃ、水野さんがPDに入ることができれば、彼女のブラックな環境も少し、いや、かなり楽になる。

 だが、結婚っていうのはそう単純なものではない。



「……ミコト様。無理強いはダメ」

「しかし、トゥーナもまんざらではあるまい?」

「……ん、泰良様のことは敬愛している。望まれるなら婚姻も結ぶし身体も喜んで差し出す」

「お主らはどうじゃ? 泰良が妻を増やすのはイヤか?」


 ミコトがミルクたちを見て尋ねた。

 すると、ミルクたちは顔を見合わせ、


「増えるのはイヤだけど」

「でも、トゥーナさんなら仕方ないというか」

「事情が事情だし認めざるを得ないわね」


 何故か俺より三人の方が結婚を了承してしまっている。

 だが――


「前回は婚姻届けを上松大臣が受理してくれたけど、今回は無理だろ」

「……エルフ式の婚姻なら儀式をすれば可能」

「トゥーナには戸籍がないから、どのみち戸籍上の婚姻は無理じゃしな」


 儀式での結婚。


「形だけでいい」


 トゥーナが言った。

 そうだ、形だけ。

 名前だけの結婚で、トゥーナはPDに入れるようになる。

 それなら――と俺は考えた。

 そして頭を下げた。


「すまん。トゥーナのことは好きだし大事にしたいと思ってる。でも、そういうのは好きじゃない。結婚は無理だ。ヘタレとか据え膳も食わぬ武士の恥野郎とか言われるかもしれないが、なし崩し的に結婚相手を増やすのはダメだ」


 自分でもヘタレだと思う。

 でも、俺は三人と結婚するときに彼女たちを幸せにする。

 そう誓ったんだ。

 その誓いは絶対に裏切れない。

 たとえ三人がトゥーナとの婚姻を認めていても三人への裏切りになる。

 俺が俺を許せなくなる


「……ん。泰良様ならそう言うと思ってた。それでこそ救世主(メシア)


 トゥーナはショックを受けるでもなく、俺にそう言った。

 ミルク、アヤメ、姫も安心したかのような笑みを浮かべる。

 そして、ミコトもこうなることがわかっていたのか、


「なら、もう一つの方法を試すしかあるまい」


 と即座に次の提案をしてきた。


「もう一つの方法? そんなのがあるのか?」

「スキルじゃよ。妾やアヤメが使える腰巾着。それがあればPDに入れるじゃろ?」

「それは……だが、ラーニングスキルが必要だろ?」

「そこはお主の運で出せばよい」


 俺の運って。

 そんな無茶苦茶な。

 まぁ、いつも無茶苦茶運に頼ってるところはあるんだが。


「お主の幸運が高いのは、お主が使命を果たすためにあると妾は思っておる。もしもトゥーナが例のダンジョンに行くのが運命じゃというのなら、きっとお主の幸運で道は開かれるぞ。ほれ、D缶を開けてみるのじゃ。この家に運び込んでいるのじゃろ?」


 確かに、インベントリに入りきらずオフィスの地下に眠らせていたD缶が山のようにあるんだが。

 いまから開けるのか?

 もう夜の二十一時なのに。

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どっちかからこの際だGOではなく仕方なくはそりゃダメよなw
わーい D缶開封会! 知らないものでも開封動画とか見ちゃうくらい好きなのよね〜
ここでなし崩しに結婚したほうがヘタレだと思う 3人に対してもなし崩しに結婚したのってなるからね
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