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所信表明

新章開始です

 俺たちは現在、梅田の空中庭園展望台にいた。

 現在の時刻は朝の七時。

 本来ならばこのような時間は立ち入ることができないのだが、今日は特別な日なので、俺たちだけでなく他にも大勢の人がその時を待っている。


「アヤメ、寒くないか?」

「はい、防寒の指輪のお陰で寒くありません」


 防寒の指輪は氷属性に耐性のつくアクセサリーの一種だ。

 海外の魔道具師が量産して販売している。

 極寒環境のダンジョンに必須の装備なのだが、普通に寒い日に使うにも便利だ。

 とはいえ、買えば二千万円をするような装飾品を、寒いのが嫌だからという理由で買うなんて、結構贅沢な話だと思う。少なくとも一年前の俺は、指輪に二千万円をかけるどころか、この空中展望台の入場料、六千円を払うことすら躊躇っていただろう。


「あ、泰良ったら、アヤメばっかり気を遣ってる」

「仕方ないだろ、アヤメは病み上がりなんだから」

「すみません、病み上がりって言ってもただの風邪ですから」


 アヤメは一昨日まで風邪を引いてダウンしていた。

 最初、彼女が熱を出して寝込んでいるという話を聞いて、まさか呪いが完全に解けていないのではないかと不安になったが、しかし病院で見てもらったところインフルエンザでもないただの風邪だった。


「でも、元気になってよかったわね。こうしてみんなで――」


 姫が何かを言いかけたところで周囲から歓声があがった。

 空中展望台から遥か東、生駒山の裾野に朝日が差し込んだのだ。


 その幻想的な光景に思わず息を呑む。

 本来なら晴れている日ならいつでも見ることができる大阪の日の出。

 でも、今日だからこそ意味がある。

 今日は一月一日。

 俺たちは四人で初日の出を拝んでいた。

 こんなに綺麗なら、トゥーナや水野さんを連れてきたかったが、トゥーナは自宅でエルフ伝統の新年の儀式があり、水野さんは水野さんで家族と一緒に父親の実家に里帰りをしていてそもそも大阪にいない。

 初日の出を見たあと、皆で柏手を打ち、目を閉じて歳神に祈りを捧げ願いをする。


 今年の目標は、とりあえずレベルは250を目指す。

 最近、レベルの伸びもだいぶ悪くなってきたが、大学生になり高校より時間の融通も利くだろう。

 あとは決着が付かなかった牛蔵さんに今度こそ勝つ。

 前回は敗北、今回は引き分けと結果だけみれば成長していると言えるが、正直俺は勝つつもりでいた。なのに、牛蔵さん、前回と比べて圧倒的に強くなっていた。

 しかも、戦って感じたことだが、まだ何か余力を残している気がする。

 今年中に勝つというのは、決して楽な願いではない。

 他の目標は――エルフの世界を救う――ってのは流石に今年達成は無理な話か。

 そうだ、忘れてた。

 後は、無事に引っ越しができるように願わないと。

 俺たちが四人で住む予定のシェアハウスは現在建築中だ。

 いや、結婚しているならシェアハウスじゃないのか?

 牛蔵さんにはまだ認められていないが、婚姻届けが受理されている時点で結婚は成立――あれ?

 そういえば、上松さんが防衛大臣じゃなくなった現在、俺たちの婚姻届けってどうなってるの? というか、高レベル探索者が重婚できる法案って無事に成立するのか? うわぁ、そのあたり確認取ってなかった。


「泰良、いつまで目を閉じてるの?」

「え?」


 ミルクに言われて目を開けると、もうみんな普通に目を開けて昇っていく太陽を見ていた。


「真剣に何を祈ってたの?」

「祈ってたっていうか、悩んでた。それより、これからどうする? 一回帰って寝るか? それとも住吉大社でも行って初詣をするか? いや、俺たちに縁があるなら石切神社の方がいいか」


 その後は家でお節を食べよう。

 ダンジョン産の素材が大量に手に入ったので、母さんがめっちゃ気合いを入れてお節を作っていたからな。


「何言ってるの? これからの予定、もう伝えたじゃない」

「伝えたっていつ?」

「ミルクのお父さんと戦った後よ」


 それって俺が一番満身創痍の状態の話じゃないか。

 そして、問題はそれだけじゃない。

 牛蔵さんと戦ったのは大晦日だ。

 世間一般では大晦日といえば元日の一日前だが、俺たちにとってはそうではない。

 昨日の夜六時からつい一時間前まで、つまり丸半日、俺たちはPDに潜り続けていた。

 年越し探索という名目で。

 休憩を何度も挟んだし、みんなで年越しそばを食べたりしたから丸々半日というわけではないが、それでも体感一ヶ月はPDの中に潜り続けたので、つまり一カ月も前の話だ。


「何話してたっけ?」

「本当に忘れたのね。言ったじゃない、ダンポンと相談があるから付き合ってって」


 あぁ、そう言えば言われた気がする。

 何の用事か聞いたが、初日の出を見てから教えるって話だった。

 初日の出プランのお土産にもらった紅白マカロンの入った袋を持って、梅田にある天下無双のオフィスに向かいながら、俺は尋ねる。


「いったい何の相談なんだ?」


 どうせ姫のことだ。

 世界一位を目指している彼女の希望といえば、ストイックにレベル上げをするための手段なのだろう。

 きっと普通の人なら呆れるような提案をするのだろうが、俺も俺で目標はある。

 しっかり最後までつきあってやるぜ、どんなろくでもない提案だとしてもな。

 ちょうど今日は元日。

 所信表明を聞くにはいい日だ。


「黒のダンジョンを乗っとりたいのよね」

「ろくでもない提案だっ!」

ということで新章スタートです。


本日よりこの作品のコミカライズが連載開始します。

恐らく12時頃「コミックグロウル」にて更新される予定です。

宜しければご覧になってください。

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― 新着の感想 ―
多分、ダンプルの扱いはともかく、乗っ取りに伴う所有権に関してはすんなり行くんじゃないかな。 天下無双と言うか、押野グループ(GDCも関与)の連名にすれば、次スタンピードが起きても天下無双に責任を押し付…
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まさかの乗っ取りw
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