琵琶湖ダンジョン五十階層
琵琶湖ダンジョンでも試し切りをする。
殴られて、闇火鼠の外套がどれだけ頑丈になったか試すつもりはないけれど、しかし前より動きやすくなった気がする。単なるプラシーボ効果かもしれないけれど。
腹ごなしの運動も終わったので、四十九階層に転移する。
すると、いきなりグリーングリフィンが襲い掛かって来る。
「短剣術、朧突き」
姫が天翔を使い空を掛け、グリーングリフィンの両翼を切り落とし、
「斬絶華」
落下してきたところで俺が剣でとどめを刺す。
「弱い。いや、俺たちが強くなったのか」
剣を鞘に納めて言う。
「泰良、それ言ってみたかっただけでしょ」
「まぁな」
しかし、今回は二対一だったとはいえ、ほんの一ヶ月でここまで楽に倒せるようになるとはな。
武器の強化の影響もある。
いままでの姫のクナイだったら、両翼に傷をつけることはできても斬り落とすことはできなかった。
水野さんには本当に感謝だな。
ドロップ品は自動回収されている。
五十階層への階段は姫が既に知っているので、五十階層に向かった。
五十階層は部屋の中央に湖がないのか。
遠くにボス部屋の入り口が見える。
その前は安全地帯のようだ。
とりあえず、安全地帯を塞ぐようにいる蛇の魔物を倒しておく。
高レベルの蛇の鱗が手に入った。
水野さんならこういうのも防具に加工できるようになったんだよな。
ダンジョン局でくすぶってるかもしれない高ランクの魔物素材を買いあさるのも一つの手かもしれないが、水野さんはとんでもない凝り性だから、素材を揃え過ぎたら睡眠時間を削って装備を作りそうだ。
ボス部屋の前の安全地帯に移動。
「泰良、D缶は開いてる?」
「ああ、開いてるな」
50階層に来たことでD缶が開いている。
中身を確認する。
「これは――」
「なに?」
「ダンジョンドロップだ」
中には黄色い飴玉が入っていた。
レモン味かな?
「そういうのはいいから。で、スキル玉の中身は?」
姫が急かす。
まぁ、D缶の中に飴玉一つだったら十中八九スキル玉ってのが俺たちの経験則だからな。
スキル玉かどうかの確認なんてすっ飛ばされる。
スキルの中身はなにかな?
【五十無効:発動率五十パーセント未満の確率攻撃を完全に無効化する】
スキル効果を説明する。
「これは姫が覚えたほうがいいんじゃないかな? 確率攻撃って状態異常系の攻撃が多いけど、私は普段は八尺瓊勾玉を着けてるし」
「私は後衛ですし、大魔術師のローブで魔法封印を、大魔術師の帽子で精神操作系の状態異常を無効化してくれていますし、こういうものは前衛の方の方が重宝すると思います。それに壱野さんも必要ないでしょう」
「ああ。俺の幸運値だと確率発動の攻撃はほぼ無効化できるだろうから必要ないな」
「じゃあ、ありがたくもらっておくわ」
姫がスキル玉を口に入れる。
当然、この状態で戦闘になったら誤って飴玉を噛んでしまいかねないので舐め終わるのを待った。
姫がスキルを覚えたのを確認し、改めて俺たちは五十階層のボス部屋に入る。
中には小さな池――うん、あの大きさは湖とは呼べないな。川にもつながっていないし――に金色の甲羅が見えた。
あれが金亀神、見た目そのまんまだな。
そして、あの光り具合はとても縁起が良さそうだ。
本物の金でできているのだろうか?
いや、純金なら柔らかいから姫の攻撃で弾かれることはないか。
それでも神社に甲羅を飾ったらご利益をもとめて多くの人が参拝にきそうだ。
そして直ぐに盗まれそうだ。
「……全然動かないな」
金亀神は甲羅だけを水から出して、全然動く気配はない。
亀って、何時間くらい水に潜っていられるんだろ?
このまま待っていたら勝手に窒息死しないかな。
「自分の防御に絶対の自信を持ってるから自発的に動かないわ。近付くか一度攻撃したら襲ってくるけどね」
分身で戦闘経験のある姫が言った。
なら、遠距離攻撃なら先手を取れるってことか。
「各属性と魔法に対しては物理以上に強い耐性を持ってるわよ」
「物理以上って、魔法無効化とかじゃないか?」
「一応、敵の能力を調べることのできるスキルを持っている探索者の話だと、無効化ではないらしいわ」
敵の能力を調べるスキルか。
そういうのも欲しいな。
ただ、以前の姫の攻撃を防ぐだけの防御値を持っているのに、それ以上の耐性を持っているとなると、アヤメの魔法も効かないか。
ミルクのパイルバンカーは?
ミスリルの散弾は少し勿体ないか?
いや、あれは遠距離だと威力が大きく減る。
あくまで杭打ち機をモチーフにしているからな。
だが、近付くと敵が攻撃を開始してくるとなれば、やっぱり避けたい。
俺の物理の遠距離攻撃だと、双剣竜巻切りなんだけど、あれは風属性だからな。
改めて、金亀神について聞く。
亀といえば遅いイメージだが、結構速い。
攻撃方法は体当たり、噛みつき、押しつぶし。
あと甲羅から熱い蒸気を出すらしい。
そして、ある程度戦うと卵を生み出す。
この卵は放置すると亀の子どもが生まれてきて、その亀の子どもは近くにいる異物に目掛けてひたすら走ってきたあと爆発する。
それが結構な威力があるそうで、前の戦いではその爆発に巻き込まれて負けたそうだ。
なので、金亀神が卵を産んだら、ミルクが銃で狙撃をするか、アヤメが魔法で潰すようにとのこと。
ちなみに、その姫の分身はその爆発を利用して金亀神を倒そうかと考えたらしいけど、爆発は火属性の攻撃なので、金亀神の属性耐性に阻まれてノーダメージだったそうだ。
「有効な攻撃もなさそうだし、分身にクナイを投げさせてみていいかしら? 分身のクナイだと特殊能力はないからどうせ弾かれると思うけど、水の中から引きずりだしましょ」
「そうだな。こっちから近付いて水辺で戦うよりはいいんじゃないか?」
「じゃあ、行くわよ」
姫が分身を生み出してミスリルのクナイを投げた。
そして――
金亀神の甲羅に――
「あっ」
弾かれることなく、深く突き刺さった。
途端に、金亀神が水の中から顔を出した。
なんかめっちゃ怒ってる気がするんだけど。




