武器強化計画(その5)
PDで俺と姫は武器の試し切りをしていた。
姫はよっぽど新しいクナイを急いで使いたかったのだろう。
普段の忍者の衣装ではなく、普段着のまま戦っている。
「凄いわ! 凄すぎるわ! なんて切れ味なの!?」
姫がミスリルのクナイでブルーロックタートルの甲羅を斬りながら言った。
一刀両断とまではいかないが、しかし、最初の一撃で切り込みが入っている。
「クナイによっていろいろ効果があるみたいだな。霊体が斬れたり、敵の防御値を半分にしてダメージ計算――」
いま、ブルーロックタートルの甲羅を斬ったのは敵の防御値を半分にしてダメージ計算するクナイらしい。
お陰で姫の敵殲滅力が大幅に上昇した。
ただし、一つ欠点がある。
「分身でもこのクナイの効果があればいいんだけど……」
姫が分身を生み出すと、持っていた武器もコピーされる。
だが、コピーされた武器には、先程言ったような特別な効果を乗せることはできない。
コピーではないオリジナルの武器を使えば問題ないのだが、離れて行動する姫の分身がオリジナルを使っている状態で倒れた場合、回収が面倒になる。
分身は、体力が本体の二パーセント程度になっているため、水野さん以下の体力のため、一撃で倒れて消えることになる。
まぁ、俊敏値とスキルのお陰で回避能力が神ってるから、そう簡単には倒れたりしないけど、しかし、武器の消失リスクを考えるなら分身と別行動中にオリジナルのクナイを持たせるのはリスクが高い。
「泰良の方はどうなの?」
「ああ、ブルーロックタートルなら問題なく一刀両断できたよ。これなら、四十一階層にでてきたスチールタートルでも刃こぼれを気にせずに倒せそうだ」
剣から伝わってくる感覚で理解できる。
「これなら五十階層のボスも倒せそうね」
「本当に行くのか?」
「ええ。金亀神は普通のボスより遥かに経験値が高いのよ。倒せれば、世界一位の探索者にまた一歩近付くわ!」
「そうなのか? まぁ、ボス関係なく俺も五十階層には一度行っておきたいんだよな」
「どうして?」
「五十階層に行くと開けることができるD缶があるんだよ」
インベントリからD缶を取り出して言う。
「そんなのあったかしら?」
「姫に会う前に手に入れたD缶だから、データベースに入力してなかったんだと思う」
牛蔵さんから貰ったD缶の中に入っていたものだ。
当時は50階層に行くなんて何年かかることかと思っていたものだが、まさかあれから七カ月強で達成できるとはな。
ただ、難易度が高いからって、いいものが入ってるとは限らない。
同じように達成が難しいと思っていた、【国内換金ランキング100位以内に入る】という条件で開いたD缶の中に入っていたものは、【Dコインケース】というDコインが綺麗に入るだけのただのケースだった。
メモリがついているので集計は楽になるだろうが、インベントリに無限に入って、自動で両替も可能な俺たちには不要な品なのでインベントリの中で眠っている。
コインケースなんて市販品でも十分だし、どこかに提供する必要すらない。
「最近、D缶を開ける方もあまり集中できていなかったのよね。早速開けてみたいわ」
「じゃあ、朝飯食べたらみんなで琵琶湖ダンジョン50階層に行くか」
「そういえば、朝ご飯をまだ食べてなかったわね」
忘れてたのか?
俺は腹ペコペコだぞ。
レストランに行って、朝食を食べる。
ここのビュッフェの中で、目の前でシェフが焼いてくれるオムレツは本当にうまいから毎朝食べてるな。
いつもなら元ホワイトキーパーのメンバーや妃さんたちもいるんだけど、今日は少し遅くなったから俺たちだけだ。
待ってくれていたミルクとアヤメに武器の効果を言う。
「ミルクの着てるローブは問題なく強化できたぞ。あと、散弾銃用の銃弾とパイルバンカー用の杭も。アイテムバッグの中に入ってる。あと、状態異常の弾丸も補充してくれてる」
「本当に? やった! 最近、状態異常を無効化してくる敵が増えたけど、それでもこれがあったら全然狩りの効率が違うもんね……あ、でも、それだとアヤメちゃんだけ強化できてないってこと?」
「あぁ、アヤメの装備品はやっぱり強化ができないらしい」
「私専用の装備ですから仕方ありません。持つことのできない装備品ですから。それに大魔術師の帽子が手に入ったことで、私も強くなりましたし」
大魔術師シリーズの装備品はアヤメ専用となっている。
他の人が持とうとすると、弾かれてしまう。
盗難防止にはいいが、鍛冶で強化できない。
アヤメはそう思ったのだろう。
「いや、そうじゃない。直接持たなくても強化はできる。単純に魔石が足りないんだってさ」
「魔石ですか?」
「うん。大魔術師シリーズの装備を強化しようと思ったら、金色の魔石が必要になるって言ってた。直感的に理解できるんだってさ。それでいて、いまの水野さんのステータスだと、強化したところで+1が発現する確率は一パーセント未満だって予想してる。+2以上となると天文学的な数値になる。水野さんのレベルがいまの倍になったところで、彼女が納得できるような大魔術師シリーズの装備品を作ろうと思えば、国家予算規模の価値の魔石が必要になる」
金色の魔石って1個400億だ。
俺の武器みたいにリセットハンマーを使って何度も作り直す――リセマラにはリスクが高すぎる。
「それは……」
「いまは難しいわね」
姫が言った。
「いまは」っていずれは強化するつもりなんだな。
水野さんのレベルがいまの倍になっても難しいといっても、鍛冶スキルが攻撃値と技術値に依存しているのならそれらを上げるスキルを手に入れたらいいだけの話だし、魔石に関しても俺たちがより深い階層で潜れば高品質の魔石が手に入るようになる。
そうしたら、魔石融合機を使って魔石金を作ることだって可能になる……かもしれない。
絶対に無理って決めつけるより、いずれ強化できるように頑張るべきだな。
世界一を目指すならそのくらいの気概は必要か。
そして、その世界一を目指すために、
「さて、ちょっと腹ごなしの運動(四十一階層でレベル上げ)をしてから五十階層にボス退治に行くか」




