有馬温泉旅行
何故か人類は、何かを三つに選びたがる。
世界三大美人とか、世界三大発明、世界三大珍味とか。
たぶん、二つを選ぶとどっちが優れているかとか論争になるし、四つ以上だと多すぎるという感覚があるのだろう。
もちろん、世界に限らず日本三景や日本の三大都市とかもある。
そして、温泉もまた。
日本三名泉といえば、群馬の草津温泉、岐阜の下呂温泉、兵庫の有馬温泉。
日本三古湯といえば、和歌山の白浜温泉、愛媛の道後温泉、そしてこちらにも有馬温泉が含まれる。
それほどまでに知名度も泉質も優れた温泉だ。
俺たちはその有馬温泉にバスで向かっていた。
総勢五十人。
なんでそんなに多いのかというと事務をしている職員やその家族も同行しているからだ。
名目上は社員旅行だからな。
バスは二台に分かれ、俺たちの乗っているバスは全員若手グループだ。
俺、ミルク、アヤメ、姫、トゥーナ、水野さん、花蓮ちゃん、明石さん、そして青木、さらに水野さんの弟と妹も参加している。
あと、ペット枠としてクロ、シロ、さらにパペットのキサイチくんとクニジマくんも一緒だ。
シロが一緒ということでわざわざペットが可能な旅館を予約してくれた。
俺たちの両親や兄貴は全員不参加。
「スミレちゃんも来られたらよかったんだけどね」
「すみません、スミレも誘ったんですが、友だちと期末試験対策があるからと――」
期末試験か。
俺は受けられそうにないが世間はそうなんだよな。
「花蓮ちゃんは試験は大丈夫なの?」
「……はい。探索科と生産科は試験内容が違いますから」
花蓮ちゃんは水野さんの質問に答えた。
さっきからずっと緊張しているようだ。
「あの、水野さん」
「なに? 花蓮ちゃん」
「さっきからこのバスの周囲を妙な車が取り囲んでいるんですけど、あれって一体――」
窓から外を見る。
黒い高級車が車を取り囲んでいた。
あぁ、緊張の原因はアレか。
「あれは公安の車だね」
「え? 公安?」
「トゥーナちゃんの護衛だから気にしなくていいよ。通学路でもたまに見かけるし」
俺たちには見慣れた車だな。
公安の車が護衛なんて大袈裟な気もするけれど、エルフの女王様だからな。
ということで、実際は五十人から護衛数十人追加された一同で有馬温泉に向かった。
百人は泊まれる旅館を貸し切っている。
「みんな、ここまでお疲れ様。夕食は十八時よ。部屋に荷物を置いたら、それまで出かけるなり温泉に入るなり好きにしていいわ」
姫が指示を出して、みんながそれぞれ部屋に向かう。
俺は青木と二人部屋だ。
「なぁ、壱野。どうやって貸し切ったんだ? 押野グループの旅館でもないんだろ?」
青木が尋ねた。
「一年以上前にこの日に別の企業が貸し切り予約していたんだけど、それを譲ってもらったらしいぞ」
「頼んで譲ってもらえるものなのか?」
「さぁ? でもWin-Winの取引をしたらしい。青木、どうする? 散歩でも行くか?」
「いや、せっかくだし風呂に入ろうぜ」
ここなら家族風呂もないし、のんびり入れるだろ。
「外にもいっぱい温泉はあるぞ。金の湯とか」
「いや、そっちはいいわ……」
「あぁ……そうだったな」
青木は見た目がこんなのだから、温泉とかでは何かとトラブルになる。
女性に間違えられて……とかならかわいいもので、男だとわかっていてトラブルになるから困ったものだ。
青木が悪いのではなく、トラブルを起こす側が悪いのだが。
「だから、正直貸し切りって聞いてほっとしてるよ」
「うちには男性職員も何人かいるけど、事務員さんたちは全員で散策に行ってるみたいだから貸し切りだし、安全だな」
公安の人たちはさすがに別の宿泊施設に泊まっている。
ということで、俺と青木は二人で風呂に入った。
※ ※ ※
そして風呂から出た。
え? それだけかって?
野郎二人で風呂に入っているところ事細かく説明する意味はないだろ。




