有馬温泉に
月曜日、閑さんが学校に来なくて、ホームルームの時間は学年主任が教鞭を振るっていた。
「閑ちゃんどうしたんだろ?」
青木がつぶやいた
たぶん、琵琶湖ダンジョンの調査をしているんだろう。
ただ、このことは口外が禁止されているので何も言えない。
「青木。それより最近、ダンジョン関連で変わった噂とかないか?」
「ダンジョン関連なんて変な噂ばっかりだぞ? 十九階層と二十階層の間に十九.五階層があったとか、ダンジョン局は簡単にレベルを上げる方法を秘匿しているとか、リザードマンはポマードが苦手とか、夜中にスライムと歩いている女子校生を見かけたとか、二十階層に通じる転移陣に入ったあと、歩いて一階層に戻ってもう一度転移陣を使えば裏世界に行けるとか――裏世界っていえば、俺は裏世界ピ〇ニックで別の世界にアメリカ軍が裏世界の怪物に苦戦している話が好きなんだよな。いや、G〇TEみたいに現代兵器無双って展開も好きなんだが、でも、主人公として共感できるのはやっぱり一般人の主人公で、その主人公が――」
「あぁ、青木、待て。脱線しないでくれ。あと半分も理解できない」
近代兵器が怪物に苦戦する展開とか今の時代、フィクションだけの話じゃないからな。
ダンジョン局が簡単にレベルを上げられるっていうのは、たぶん「打ち出の小槌」のことだな。
裏世界とか十九.五階層ってのは流石に眉唾だと思う。
「どうしたんだ?」
「いや……」
瘴気が溜まってる影響で魔物が増えたとかそういう話はないか。
「そういえば、琵琶湖ダンジョンが封鎖されてるって話もいろいろと憶測が飛び交ってるな」
「どんな?」
「琵琶湖ダンジョンを押野グループが買収するんじゃないかとか、政府の兵器実験が行われているんじゃないかとか、また魔物が階層を跨いで移動しているんじゃないかとか」
最後のは一応正解だな。
二十一階層で四十九階層に出てくるはずのグリーングリフィンと戦ったわけだし。
「……泰良様、噂話集めてる?」
トゥーナが尋ねた。
「まぁな。青木ってこういう噂とか詳しいから」
「……市井の噂を集めるのは王として大切な仕事。さすが」
……あ、そういえば、トゥーナは女王だったな。
カレー好きの庶民派エルフのイメージが強すぎて忘れてた。
「噂といったら、お前らの噂もあったぞ」
「え? 本当に?」
「チーム救世主は朝の三時までダンジョンに潜ってるとか。本当なのか?」
「一回だけだよ」
普段は何十時間もダンジョンに潜っているが、PDを利用しているから早朝三時までダンジョンに潜っていることはない。
富士山から溢れた魔物の退治も日付が変わる前には終わっていた。
しかし、俺たちが朝三時までダンジョンに潜っていた情報のソースはどこだ?
タクシーの運転手だろうか?
姫が情報操作のために敢えてそういう情報を流している可能性もある。
「ダメだよ、泰良くん。ちゃんと寝ないと身体がもたないよ」
と今度は水野さんが話に入ってきた。
一番説得力のない人に怒られている気がする。
いや、彼女の場合、寝ている時間以外は働いているのか?
琵琶湖ダンジョンでも、彼女のケアが必要だって感じていたからな。
そうだ――
「水野さん、十二月六日の放課後と七日って暇?」
「ううん、仕事だよ?」
「チーム救世主のみんなで有馬温泉に旅行に行こうかって話になったんだけど、一緒にどうかな?」
「だから、仕事だって。第一、壱野くん、十二月八日が試験日じゃなかった?」
「面接だけだし、その日じゃないと都合が悪いんだよ」
というのも、お宝ダンジョンの場所が、有馬温泉のすぐ近くなのだ。
琵琶湖ダンジョンの攻略が本格的に始まる前にお宝ダンジョンに行きたい。
あそこのダンポンに十二月に行く約束をしていた。
だったら、社員旅行と決起集会をかねて、有馬温泉で一泊しようということになった。
「そうだ、青木も一緒に来るか? どうせ男部屋はこのままだと俺一人になりそうだし」
「暇だし行くぞ!」
「トゥーナも来るよな?」
「……ん、行く」
「水野さんのところで働いているバイトの子も一緒に来ていいからさ」
「そっか、花蓮ちゃんも一緒なら――うん、相談してみるよ」
水野さんが前向きに検討してくれた。
よし、じゃあ俺は試験までに面接丸暗記しておくか。
青木「有馬温泉か……惜しかったな」
壱野「何が惜しいんだ?」
青木「(2024年)10月までなら『推し〇子』とコラボがやってたんだよ」
壱野「俺、そのアニメ見てないんだけど有馬温泉と縁のあったっけ?」
青木「ヒロインの一人の名前が有馬って名前だからな」
壱野「なんでもありだな、アニメのコラボって!?」
青木「なんでもありだぞ、アニメのコラボは!!」
(明日はダンがくの更新のためお休みです)




