国内第三の黒のダンジョンができる場所
矢橋帰帆島公園って言われてもピンとこないので、地図で教えてもらう。
琵琶湖の南部にある人工島にある遊び場、プール、ゴルフコース、テニスコート、自転車用トラックがある家族連れ向けの公園らしい。
島の南の橋を渡ったところには大きなイオンモールもある。
結構利便性の良さそうな場所だ。
人工島でもダンジョンができるのかと思ったが、考えてみればPDの設置場所なんてホテルの部屋の中でも平気なくらいだし、本当に広い場所ならどこでもいいのだろう。
「なんでここに?」
「近くに住宅地が無いからだ。島は公園の他に、下水処理場関連とメガソーラ等がある」
ネットには下水処理場について学べる施設なんてものもあるらしいが、確かにマンションとか住宅街はないな。
「ダンジョンから魔物が出てきたときの被害を考えてってことですか?」
人工島なら、三本ある橋さえ封鎖すれば魔物が外部に漏れる心配はない。
琵琶湖ダンジョンと似ているのなら水の中に入る魔物がいるけれど、でも、そういう魔物の半数は陸上で動けないってのは前回の探索でわかっている。
サハギンやワニのような魔物が琵琶湖に逃げたら――位置的にそのまま一気に淀川を泳いで大阪まで逃げられる可能性もあるが、守りの点ではいいだろう。
「既に矢橋帰帆島に通じる三本の橋は封鎖されて中に入れなくなってるみたい」
ミルクがSNSを見て言った。
どうやら封鎖と同時に工事車両が入っていくのも目撃されている。
牛蔵さんの話によると防衛用の簡易要塞を作るらしい。
十二月八日だったら突貫工事になるだろうな。
十二月八日?
はて、何か大切な用事があったような気がする。
誰かの誕生日?
俺の誕生日は四月十日、アヤメの誕生日は四月四日、ミルクが五月五日、姫が三月三日。
両親の誕生日も八月と一月だし、葵さんの出産予定日にはまだ早い。
うん、何も問題ないな。
「じゃあ、俺たちも十二月八日から本格的に琵琶湖ダンジョンに潜らないといけないってことですか?」
「何を言っているのだ、ちの太くん」
「……もしかして、もっと前から入っていた方がいいですか?」
「いや、そうではなく、十二月八日は君の大学入試の面接の日だろう?」
……あ。
「まさか、忘れていたのか?」
うん、すっかり忘れていた。
いや、その日に何かあったなってのは覚えていたんだが。
面接対策――そういやもうすっかり忘れてしまったな。
「そんなことでは困るぞ。君には私の学内の第二研究所でモルモット、もとい優秀な学生として学んでもらわないといけないのだから」
いまのモルモットの意味はどっちだ?
いつも通りのカワイイ子どもって意味……でいいのか?
なんか身震いがしたが――
「琵琶湖ダンジョンの方は試験が終わってからでも十分だ。いまは面接対策に集中したまえ。高校教師の立場で言うなら、高校を休んでダンジョンに潜らせることなどしたくはないのだがな」
閑さんは残念そうに言うが、でも十二月九日からダンジョンに潜るのなら、期末試験も参加しないでいいかもしれない。
それは嬉しい誤算だな。
「ありがとうございます。そうだ、盗聴対策ができている間にこれを渡しておきますね」
俺はインベントリから閑さんに渡そうと思っていたアイテムを渡す。
「これは綺麗な石だな。宝石か? なんだ? 私を第四夫人にでもするのか? 生憎、私は生徒に手を出すつもりはないぞ」
「しませんよ。これ、浮空石というアイテムで、異世界の品なんです」
俺は閑さんに浮空石について説明をした。
閑さんはその浮空石を見てわなわなと震えている。
感動して声も出ないのか?
「うがぁぁぁぁあっ! ちの太くん、なんという研究意欲をそそる物を持ってくるのだ。いますぐ帰って解析を――」
閑さんが踵を返して帰ろうとしたところで、牛蔵さんに止められた。
「月見里さん、これから瘴気の調査を行うはずですよ。上松から同行するように頼まれています」
「待ってくれ、牧野氏。異世界のアイテムの解析なんて滅多にできるものでは――」
「ならば急いで調査を終わらせるためにダンジョンに向かいましょう」
「…………わかった」
閑さんがしょぼくれている。
明日学校で渡した方がよかったかな?
「では、失礼する。ミルク、これをママに持ってかえってくれ。それと壱野くん、わかっていると思うが――」
牛蔵さんはミルクにお土産を渡して俺の目を見た。
続きを言わなくてもわかる。
『娘に手を出したら承知しないぞ』
って言いたいのだろう。
「今回の件が片付いたら、また試合をお願いします」
「予定を空けておこう。では行きましょうか、月見里さん」
「そうだな。ちの太くん、試作品の一本は君に預けておくから、何かあれば遠慮なく使うがいい」
閑さんはそう言って、ダンジョンの外でも戦える薬をそのままにアタッシェケースを閉めた。
薬はありがたく預かっておく。
姫の車に乗って大阪に帰った。
もちろん、トゥーナに頼まれていたレトルトカレーは一昨日のうちに注文して届けてもらったので、鞄の中に入れてある。
そして四人で大阪のレストランで食事をしているときに電話が鳴った。
姫が電話に出る。
「あら、妃、どうしたの? え? 一緒に夕食? 私たちもう大阪に帰ってるわよ?」




