鰐霊神との戦い
ボス部屋の前の安全地帯を通り過ぎ、奥のボス部屋に入る。
魔物の気配は――
「上だっ!」
俺の剣では届かない位置に、巨大な白いワニが浮いていた。
僅かに身体が透けていて、本当に霊体という感じだな。
あれが鰐霊神か。
「解放:光槍連射」
ミルクが光の槍を無数に放つ。
作戦の時に聞いていたが、光の槍を連射する魔法――凄いな。
一撃一撃は光槍と威力は同じだが、それを連続で放てるとは。
吸血鬼ヴァレンとの戦いで、光魔法の練度が足りないと言われて一人で結構練習していたらしい。
だが、鰐霊神も強い。
最初に何発か被弾したが、その後は避けていく。
しかし、それも作戦通り。
「解放:雷神竜巻」
アヤメが魔法を放つ。
帯電した竜巻が鰐霊神を呑み込んだ。
ズタズタに切り裂くが、霊体なので血は出ない。
即座に竜巻の中から脱出すると、鰐霊神の傷は直ぐに塞がっていく。
鰐霊神がミルクとアヤメに狙いを定めようとしたが、
「注目の的!」
姫がスキルを使って自分の方に注目を向け、
「解放:火矢」
その後ろにいた俺が嫌がらせ程度の効果しかない魔法を放つ。
しかし、その嫌がらせ程度の魔法でも、姫のスキルの相乗効果によりこちらに注目が来た。
いまだ――
俺は影獣化を使う。
そして殴りかかった。
鰐霊神は迎え撃つ。
影獣化の攻撃は闇属性。
属性攻撃のため無効化されることはないが、鰐霊神は闇属性に耐性があるためダメージはほとんど与えられない。
エナジードレインを併用したら触れている間、ダメージを与えられるかもしれないが、敵も同じスキルを使うとなると、どうなるかわからない。
だが――
「これならどうだっ!」
俺の右手が猫の手に変わった。
スキル猫の手――これで相手を殴るとスタン効果を与えることができる。
「解放:短距離転移」
俺は真正面からの衝突を避け、鰐の頭上に転移すると、その鼻に拳を叩きこんだ。
一瞬の硬直――そこに
「解放:聖放水」
ミルクが放った霊に対して最上級のダメージを与える聖水を生み出す薬魔法がぶち込まれた。
よし、これで――
勝ったと思った次の瞬間、鰐霊神の尻尾が俺の身体を薙ぎ払った。
十メートルくらいぶっ飛ばされた。
姫と分身が二人で俺の身体を受け止める。
「「泰良、油断し過ぎ」」
「悪い」
相手が霊体だからどのくらいダメージを与えているかわかりにくいんだよな。
「よくも壱野さんを――解放:究極雷魔術」
アヤメが大魔術を放った。
巨大な雷が鰐霊神に降り注いだ。
切り札として取っておくって話だったのに、アヤメの奴、かなり本気を出したな。
魔力を500も消費した大魔術により、鰐霊神は跡形もなく消え失せ、戦利品として牙の形をした勾玉とDコインが残ったのだった。
「泰良、大丈夫?」
「あぁ、ちょっと痛いから回復薬ぶっかけてくれ」
影獣化を解除して、ミルクの魔法で回復薬をぶっかけてもらい、ステータスを確認する。
レベルが155から156に上がってる。
痛い目を見た甲斐があったというものだ。
そして、落ちている勾玉を鑑定した。
【鰐牙の勾玉:鰐霊神の牙の形をした勾玉。霊体に対して特攻性能を持つ武器の素材になる】
また素材か。
霊に対してダメージを与えられる武器っていうのはいいんだけど、やっぱり低レベルの鍛冶師では加工できないようだ。
「真衣を本気で強化したくなってきたわ」
霊を相手にするとほとんど活躍できなくなってしまう姫が呟いた。
俺が言うのもなんだが、水野さんにあまり負担を掛けない程度にしてくれよ?
「それにしても、なんで琵琶湖のダンジョンなのにワニのボスなんだろうな? まだナマズの方がわかりやすいよ」
「250万年前には琵琶湖にもいたらしいわよ。ワニ」
「マジでっ!?」
知らなかった。
もしかして、鰐霊神って、かつて琵琶湖にいたワニたちの記憶なのかもしれないな。
そう考えると、生物の歴史と紐づけられたダンジョンの生態に少しロマンのようなものを感じなくもない。
「そのくらい前の話になったら、五種類のゾウの化石も発見されてるみたいだけど、じゃあ深い階層にいったら象霊神みたいなのがでてくるのかな?」
ミルクがそう呟いたのを聞いて、巨大な象の幽霊と戦う姿を想像し、やっぱり遠い過去の生態に紐づけてまで魔物を出すのは辞めてほしいと思った。




