法律の範囲内なら大丈夫
他にPD生成Ⅲになったことで細かい変化を聞く。
魔物と宝箱の発生頻度が10倍から15倍まで変更可能になったそうだが、これ以上増やすと流石に手一杯なので変更はしない。
そして、魔物の変異種の発生頻度も変更できるようになった。
これまで変異種はほとんど発生しなかった。
それが設定を変更すれば発生しやすくなるらしい。
ただし、変異種は通常種に比べて強い魔物が多く、注意して使うようにと言われた。
宿屋とお風呂も大幅にリニューアルしていた。
これまで、宿屋は一泊100D、お風呂は一回10D支払っていたのだが、それが無料になった。
寝室があった部屋がリビングルームに変わっていた。
寝室はさらにその奥に。さらにリビングの隣に書庫ができていた。
書庫には、俺たちが入ることができるダンジョンの魔物の情報や宝箱の情報等が書かれている。
「凄いわね。魔物のドロップアイテム一覧、ダンジョン局や裏サイトの記録にないものまで存在してるわ」
「変異種の情報は少ないからな」
以前、若草山ダンジョンでいっぱい倒したエルダートレントの変異種の情報を見る。
出現率まで書いている。
確率だけ見るとあの呪われたエルダートレントが激レアっぽい。
寝室の隣は書庫の他にキッチンが出来ていた。
食洗器やオーブンがあるのも嬉しい。
調理器具も増えたとはいえ、キャンプ飯状態だったからな。あれはあれで楽しいんだけど。
冷蔵庫を置くスペースもあるのでロビーに置いてあるのをあとで運んでおこう。
寝室はあまり変わっていないが、ベッドの寝心地がよくなっていた。
「風呂にサウナができたのと、脱衣所が広くなったな」
脱衣所は更衣室代わりに使っていたので、広くなったのはありがたい。
「アメニティの自動販売機があるわね。現金は使えなくてDコインオンリーだけど」
「コインランドリーもあります。一回10Dです」
「ウォーターサーバーもあるよ……って、これ魔石入れないと使えないのか」
タオルやバスタオル、髭剃りやゴム紐、綿棒も売ってる。
綿棒一本1D……最低価格とはいえ1本50円はボッタクリだな。
このくらいサービスするか10本纏め売りとかにしてほしい。
まぁ、俺は使わないから別にいいんだけど。
「ここまで揃ってると、PDに住めそうだよな」
「実際、生駒山ダンジョンでは住んでいたようなものだけどね」
確かにあの一日はめっちゃ長かったな。
あれだけダンジョンに潜ったのに、地上に戻ったら一日も経過していないとか、逆浦島太郎の気分だったよ。
ちなみに、その話を父さんにしたら「裏浦島なら幽〇白書なんだけどな」って言われた。
ごめん、幽〇白書は知ってるけど読んだことない――って言ったら、きっとド〇ゴンボールの時のように電子書籍全巻買わされることになると思って、何も言わなかったっけ。
きっとド〇ゴンボールと同じで読んだら面白いんだろうけれど。
閑話休題。
PDの変化を確認した俺たちは、ダンポンに火鼠の外套の修復を依頼。
リビングでのんびりパンフレットを見たり書庫の本を読んだりした。
書庫の本はPDの外への持ち出しは禁止だそうで、姫はホテルの部屋から持ってきたスマホで写真を撮りまくっている。
そして、火鼠の外套の修理が終わったところで、一度部屋から出て、水野さんに念話で連絡を取る。
『水野さん、いま念話いい?』
『いいよ。今日学校早退してたけど、いま滋賀だっけ?――』
『うん、滋賀のホテル』
『大変だね。政府の仕事ばっかり』
『大変でいえば水野さんに勝てる気がしないな』
いまも政府の依頼でいろんなアイテムを作ってるわけだし。
『それで錬金術のスキル玉が手に入ったからそっちに送ろうと思って。水野さんの技術なら錬金術も使いこなせるはずだから』
『何がということかわからないよ、壱野くん。それに、錬金術ってものすごく貴重なスキルだよね!? もっと慎重に使った方がいいと思うよ』
『いや、そこはいっぱい手に入るようになるから大丈夫』
いまは200万Dは高いが、
深い階層に潜れるようになれば楽に稼げるようになる。
『ごめん、全然わからないけど、私もいま自分の仕事で手一杯なんだよ。花蓮ちゃんに覚えてもらったらダメかな?』
『胡桃里さんに?』
『うん。花蓮ちゃんも天下無双の会員なんだし、学校卒業後もうちで働くって言ってくれてる。それに個人的な感じだと信用できると思うよ? よそから引き抜かれることもないと思う』
『そっか。じゃあ、錬金術のスキル玉を二個――』
『壱野くん、わかってないようだからもう一度言うね。私は忙しいから要らない。これ以上面倒事を増やさないで』
強い口調で言い切った。
……もしかして怒ってる?
『一応言うと、怒ってるんじゃないよ。壱野くんが私のことを信用してくれるのは嬉しいし、頼ってくれるのも嬉しい。壱野くんには家族全員救われたわけだし、本当に感謝してる。でもね、本当に大変なの』
『わ、わかった。うん、じゃあ胡桃里さんに……どうやって?』
『前みたいに、「ベータくんが選別したダンジョンドロップだから当たりかもしれないよ?」って言って食べてもらえば、カムフラージュに普通のダンジョンドロップも混ぜて舐めてもらうから、怪しまれないよ』
俺の幸運の話も都市伝説レベルから実在する化け物レベルになってるんだよな。
『でも、胡桃里さんは大変じゃないの?』
『大丈夫だよ。ちゃんと法律の範囲内だから』
そっか、なら大丈夫か……ん?
……法律の範囲内だから?
えっと、つまり水野さんの労働環境って、法律の範囲外ってこと? え? 役員は労基の適用外?
一人親方は自分が法律?
……うん、わかった。
わからないけど、わかった。
とりあえず、錬金術のスキル玉の使い道は水野さんに任せるよ。




